仕事・働き方

「できないこと」を書き出すことが目標達成の近道 |やる気にさせる心理学(11)

2021.03.11

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。

 

精神論だけでは目標は達成されない?


  

    

ダイエットして5キロ痩せよう目標を立てたけど途中で挫折したり、資格を取ろうと目標を立てたのに結局勉強もしなかった・・・。など、やる気が持続しなくて目標未達で終わったという経験をされている方は少なくないと思います。

夢や目標を達成させるための方法や理論は数多くありますが、アメリカの作家で成功哲学の提唱者、ナポレオン・ヒルは、著書「思考は現実化する」(邦訳)の中で、あらゆる成功へのスタート地点は「願望」であり、「結果」を強くイメージすることで夢は実現されると述べています。

    

「思考は現実化する」田中孝顕 (監修), ナポレオン・ヒル財団アジア/太平洋本部 (編)

       

ナポレオン・ヒルの思想は自己啓発本の原点の一つともいわれており、世界中でも有名ですね。しかし、夢や目標が達成された自分を強くイメージするだけでは、やる気も持続しませんし、実現しないで途中であきらめてしまうこともありますよね?ポジティブシンキングが必ずしも目標を達成させることだとはいいきれないのです。

 

それを裏付ける面白い事例があります。アメリカの心理学者ガブリエル・エッティンゲンは、「ダイエットとポジティブシンキングの関係性」を調べるために次のような実験をしました。

      

肥満ぎみの女性たちの全体の半数の女性に「完全にダイエットに成功した状態」をイメージしてもらい、残り半数には「つい食べ過ぎてしまう自分」を思い描いてもらいました。

そして、1年後に再調査したところ、よりポジティブに自分をイメージした女性は、ネガティブに考えていた女性たちよりも減量できた体重が10キロほど下回る結果になったのです。

   

ただ夢見るばかりだと目標の達成前にそれがご褒美になり、その実現が阻害されるということにもつながるのです。だからといって、夢を見ること、目標達成後の自分を思い描くことが悪いことなのではありません。

   

エッティンゲンは、やる気を持続させ、目標を達成するためには4つのステップが必要だと述べています。ここでは、エッティンゲンが心理学的な研究と実証を積み重ねて導き出した目標達成する方法の一つ、「WOOP(ウップ)の法則」をご紹介します。
 
 

   
    
    

目標達成を実現させる「WOOP(ウップ)の法則」とは


 

「WOOP」とは、次の4つの頭文字をとったものです。この法則は、仕事や勉強、人間関係、運動、ダイット、健康など、ありとあらゆる目標に適用できる法則です。

    

W=Wish(願望)
O=Outcome(結果)
O=Obstacle(障害)
P=Plan(計画)

   

一つ目のステップ「Wish(願い)」

自分がかなえたい夢や目標を決めて、書き出します。

    

【例】
・ダイエットして5キロ痩せる
・半年以内に資格を取る
・定期テストで5科目80点以上を取る 

   

   

二つ目のステップ「Outcome(結果)」

願いに関して自分が望む成果を具体的に思い描きましょう。

   

【例】
・5キロ痩せる 
 → 履けなくなっていたジーンズがはけるようになる
・資格を取る 
 → 昇給する、ステップアップできる
・定期テスト 
 → 自分の目指す高校に入れる

   

    

三つ目のステップ「O=Obstacle(障害)」

夢や目標を達成させることを困難にしている原因について考えて、書き出します。障害は具体的になればなるほど良いです。考え方や感情に対する障害、行動の障害、思い込みの障害、時間や対人関係といった視点からも、障害となる事柄をおもいつくまま書き出してみてください。

    

【例】
・5キロ痩せる 
 → 帰宅後疲れて運動したくない、疲れると甘いものが我慢できない
・資格を取る 
 → 勉強する時間がない
・定期テスト 
 → 暗記ものが覚えられない、夕食後眠くなる

   

障害を解消する方法として、自分だけの力では難しいことがあれば、誰かの力を借りたら解決できるものなのか?という視点でも考えてみてください。「○○さんに相談してみる」というのも、障害を取り除くための一つです。

    

     

四つ目のステップ「Plan(計画)」

三つ目に挙げた「障害」にぶつかったときに、それをどうしたら克服もしくは回避することができるかの計画を立てます。その障害に対して自分がどうしたら解決できるか?を考えてください。

    

【例】
・5キロ痩せたいが疲れて運動したくない、甘いものが我慢できない
 → 帰宅後とりあえずジャージに着替える、1週間に一つは食べていいルールにする 
・資格の勉強したいが、勉強する時間がない
 → 通勤時間を使って勉強する、土日のどちらかは勉強日にする
・テストで80点以上とりたいが、暗記ものが覚えられない、夕食後眠くなる
 → 覚えられないところにマーカーをして、翌日またやってみる、夕食を食べたら風呂に入る

    

   
   
    

「できないこと」を書き出すことが目標達成の近道


     

WOOPの法則の一番の特徴は、できない理由や目標達成を困難にさせる要因を具体的に書き出し、その障害を取り除くための対策を「はじめのうちに」立ててしまうことです。
障害を解消できるプラン(計画)がしっかりできれば、「やればできる」と思えるので、夢や目標を実現するための具体的な行動につながりますし、頑張り続ける意欲を奮い起こさせてくれますよ。

   

さらに、障害を書き出すことは、最後までやり遂げるか、目標の水準を下げるか、それとも見切りをつけるかということを判断する上での決め手にもなります。無理だと思ったら思い切ってやめてしまうのも選択の一つです。

  

これは一見ネガティブな行為にも思いますが、達成不可能だと自分の中で納得できれば、たとえ夢を断念することになったとしても、後悔が少なく済むように手助けしてくれますし、実現可能な新しい目標を見つけることにもつながります。何かに挑戦しようと思ったときに、ぜひ、この方法を試してみてください!

   

参考
「成功するにはポジティブ思考を捨てなさい―願望を実行計画に変えるWOOPの法則」 エッティンゲン,ガブリエル【著】〈Oettingen, Gabriele>/大田 直子【訳】

    

 

 



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この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
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