仕事・働き方

やる気への行動プロセス|やる気にさせる心理学(2)

2020.07.8

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。

 

やる気になる行動プロセス


―― そもそも、人のやる気ってどのように沸き上がってくるのでしょうか?

本当に「やる気がある人」は、内発的動機で行動している、と、アメリカの心理学者エドワード・L・デシが提唱しています。

例えば、画家になりたい、数学者になりたいという気持ちが強い人は、その夢を達成するために絵の勉強をする、数学の勉強をする。それは誰かに言われたからではない。自ら進んで、自発的に行動する。やる気満々である。そんな心理状態を「内発的動機」といい、理想的なやる気といえます。

周りに「一銭にもならないことをよくやっているね」というような行動をしている人はいませんか?その行動こそ内発的動機によって行動している人なんですよ。やっていることで知らないことがわかるようになったり、何かを創造できたという喜びを感じることでのめり込んでいるんです。

そういう特別な人でなくても、誰もがおそらく、これまでを振り返ってみると何回かはそんな経験があるのではないでしょうか?それが内発的動機で、その動機に動機づけられた行動です。

しかし、それは特別な人や特別のときです。いつも、最初から内発的動機に基づいて勉強や仕事をすることはそれほど多いわけではありません。仕方なくやっているうちに、あるいはやらされているうちに、やっていることの面白さがだんだん分かり、それが内発的動機づけになるということの方が多いのではないでしょうか。

――仕事や勉強など、人にやる気を持たせようと思うと、なかなか難しいですね。

そうですね。自分自身がやる気になれるものを見つけるのも苦労しますが、人にやる気をおこさせ、行動させるのはもっと大変ですよね。

ですから、その人にあった様々な方法で外的な刺激を与えて、外発的動機から行動を起こさせ、それを内発的動機に近づけていくことが必要になってきます。報酬を与えるなど、外発的動機から入ることは決して悪いことではないんです。

内発的動機の提唱者デシとライアンの提唱した「自己決定理論」の中でも重要な「有機的統合理論」という学説があります。これは、自分で決めて行動する、いわゆる「自律性」の程度が低い状態から高い状態に進んでいく過程を表したものです。

最初の段階は「やりたくないのに部長から言われたからやる」といった場合で、まったく「外的」なのですが、次の段階は「取り入れ的」で「やらないと次の会議で報告できない」「やらないと部長に怒られる」など、人からの完全なコントロールではなく、少しだけ自分の意志で行動するようになります。

次の段階は「同一化的」です。最初は物やお金に釣られて動いたり、自分の意志でやっていないことでも、それにかかわり、行動を続けることで次第に認知の再構成が起こり、本人が「自分のためにやっている」(同一化的)と思いようになってきます。その段階では完全な内発的動機ではなくても行動はほぼ内発的に動くようになります。

――外発的からやや内発的に変わる過程が一番難しいですね

内発的になるためには自分にとって有用だと本人が思うことが大切なので、第2段階から第3段階への移行が確かに一番難しい。そう思わせるのは、成功体験を積ませることです。与える刺激は色々な方法がありますが、本人が有効と思うものを選ばせることです。ただ、それは大変なことなんですが。

そのためには、継続して観察して、付き合っていくことです。最初はどんなことで進んで行動をするのかなというところを見極め、それを外発的動機として、今度はこちらが提供する行動が、それと関連して楽しいことだと思わせる必要があります。行動してみると、本人でも気づいていない潜在的な興味が引き出されることもありますからね。だからやらせることは必要。 面白さはやってみないと分からない部分も多いですから

今では有名なミュージシャンでも、音楽を始めるきっかけが「異性にモテるから」という人がとても多いんですよね。イケ面でもなくてもモテますから・・・(笑)。

最初は 異性にモテたいからという外発的動機ですが、そのうち「これが天職」と思うようになって、内発的動機となり、最初のモテたいというところから、「いい音楽をつくりたい」という気持ちに変わっていくんですよね。最初に行動するきっかけなんて、そんなものでいいんですよ(笑)。

仕事でも会社の部内のミッションとしてやりたくないことをやっていても、社長から褒められたりすると、急に「 できる、自分の得意分野だ 」と認知が変わり、内発の方にどんどん変わっていきます。

無気力な人を行動させるには


――無気力な人をやらせるのは大変なのでしょうか?

無気力といわれる人でも、何かやりたいという動機は存在しているんです。病気などで無気力な人はいますが、そうでない人は、本来は動機があったのに、やってもやっても自分の思うようにいかないために、結果、無気力になっていくんです。

米国の心理学者であるセリグマンが行った有名な「セリグマンの犬」という実験があります。その犬は身体を縛られて、何をやっても電気ショックから逃げられない状態で、ショックを受け続けたのです。

最初はもがきましたが、しばらくすると、犬は何も行動しなくなったのです。日をあらためて、今度は縛らずに電気ショックを回避できるようにして、電気ショック実験を続けました。ところが、犬は、逃げられるのに逃げようとしなかったのです。セリグマンはこの状況を無気力の学習と呼んでいます。 

人間でも、心理的にそのようなどうにもならない経験が続くと、無気力を学習してしまい、周りから見ると「無気力人間」あるいは「やる気のない人」と見られることになってしまうのです。

無気力に陥ってしまった人たちでも、外的刺激を与えることで反応します。ですから、「この人やる気ないから行動させても無理」とあきらめるのではなく、好きなもの、得意なものを見つけてあげることが大切です。そこを見つけるのが、 リーダーの最初の働きかけです。

やる気にさせるというよりも、何を示したら「動くか」を考えることです。反応する「スイッチ」はどこにあるかを見つけることです。スイッチは必ずありますから。

人間は社会的動物なので、行動をさせた後、その人のもっている自尊心を高めるようにするといいですね。褒めるということが一番の方法です。ただし、単に褒めればよいわけではなく、タイミングが大事です。成果を出したときなど、タイミングをみて自尊心を高めてあげましょう。

 
 
 

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この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
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