仕事・働き方

やる気を継続している人が持っている、ある3つの感情とは?|やる気にさせる心理学(13)

2021.03.31

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。


 

やる気の継続は理性よりも感情にフォーカス


  

これまでいろいろと「やる気」になるにはどうしたらいいかということをお話してきましたが、目標を立ててもやる気を継続させるのはなかなか難しいですよね? 「甘いものが食べたいけど我慢してダイエットする」、「休みたいけど仕事する」、「ゲームしたいけど勉強する」といったように、人間は快楽を抑制して意思の力、自制心といった理性で「やる気」を支えているのです。

   

しかし、こういった理性だけではストレスが溜まりますし、限界があります。実は、長期的にやる気を継続させるには、理性に頼るよりも感情をうまくコントロールできることが良いのです。

    

心理学者デイヴィッド・デステノの著書「なぜ『やる気』は長続きしないのか」では、やる気が継続するために必要なのは、自制心や意思の力ではなく感情の力だと述べています。「感情」の中でも、「感謝」「思いやり」「誇り」の3つの社会的感情を鍛えることが、快楽や短期的な利益よりも長期的な利益を選択できるようになり、自己成長につながるとしています。

   
   
   

「感謝」の気持ちを持つ


     

     

感謝するという気持ちは、人に助けてもらったり、自分ができなかったことをできるようにしてもらったときにあるものなので、自分の失敗を思い出すことでもあり、自分ではできなかったという自己評価が下がることになると思えるかもしれません。しかし心理学の立場から言うと、感謝は過去ではなく自分の未来に対して、もっと良い方向にもっていこうという意欲につながるものだと考えられています。

   

たとえば、自分が大病を患い、それを治してくれた医者や懸命に看護してくれた看護師を見て、自分もこんな風に人を助けたいと医療の道を目指したり、仕事で重大なミスをしてしまったときに上司がフォローしてくれたことがあり、もっと頑張ろうと思えたりするのは、自分のために人が力を注いてくれたという感謝がその人の価値観を変え、次に何をすべきかの決断と行動に影響を与えるのです。

   

ある心理学の実験では、作業中にパソコンが故障して他者に直してもらうという体験をして、感謝が生じる状況を作った結果、助けてもらった人の別の作業に対して労力をいとわず手伝うという結果が出ました。さらに別の感謝の実験では感謝が高まることによって、全然別の人に対しても何か良いことをしてあげたいという気持ちが高まったという結果も出ています。

   

「感謝」という感情は、短期的な快楽を犠牲にしてでも他者のために今を犠牲にすることもいとわず、結果的に忍耐力がつき誘惑に負けないやる気をつくるのです。また、例えば、何かいいことがあると人におごりたくなったり、やたらに親切になったりしますよね?感謝することは、無意識に良い人間関係を作ろうとするのです。つまり感謝は、幸福感を増幅させ、過去の自分ではなく、未来の自分を成長させようとする意欲につながるのです。

   

    

意識的に感謝しよう

パナソニック(旧社名:松下電気器具製作所、松下電器製作所、松下電器産業)を一代で築き上げた経営者の松下幸之助さんは、 ’’感謝の心が高まれば高まるほど、それに正比例して幸福感が高まっていく’’ という名言を残されています。成功の背景には常に感謝するの心があったのです。

  

日本人には、奥ゆかしさや言わなくても察するという文化があります。これは大変すばらしい文化ですが、感謝する気持ちを心のうちに想ってはいても、相手に伝えるということを態度や言葉になかなかできない部分もあると思います。日本人の「幸福度」は諸外国の中でも高いとは言えないのは、感謝を意識する、表現することが少ないというのもあるのではないでしょうか。まずは、日々感謝することを思い出して、習慣化させてみましょう。

   

例えば、日常の生活の中から1日一つでもいいので小さな感謝を見つけましょう。通勤で使うバスの運転手さん、ご飯を作ってくれるお母さんでもいいと思います。最初は頭の中だけで感謝を伝えているだけでも構いません。

   

慣れてきたら、今度は感謝を言葉や行動で表現してみましょう。いつも食事を作ってくれるお母さんに「ありがとう」と伝えてみる、感謝のしるしとしてゴミの日に部屋中のごみを集めて出してみるなど、少しずつ行動をしてみましょう。そのほかにも感謝の気持ちを書き出してみるのもよいでしょう。感謝することを習慣化していくことで自分と自分の周りが変わり、自分の未来の成長を手助けしてくれます。

   
    
    

自分に「誇り」を持つ


   

   

自分に誇り(プライド)を持っていると、そのプライドに負けないようにしようと頑張れます。自分に自信があるということはそれが心の支えとなり、自分なら頑張れると思えるので、新しいことをすることもためらいません。

   

しかし、プライドは最初から身についているものではありません。自身の経験や行動から生まれるものです。ですから、自分が理想としている行動をとっている人物の行動を真似ていくことでプライドを育てていくというのもよいでしょう。

   

プライドを持たせる

プライドも自己評価の一つです。ですので、自信がない人ほどプライドは低く、行動をあきらめてしまします。身近に自分を認めてくれる人が一人でもいることが、自己評価を高め、心の支えとなり、プライドにつながります。

   

心理学の実験でも、実験結果の成績を伝えないグループ、「数パーセントのグループに入った」と伝えるのみだったグループ、「すごいですね」という枕詞をつけてから「数パーセントのグループに入った」と伝えたグループでは、枕詞をつけられたグループがほかの2つのグループに比べて長く実験を続けるという結果が出ました。

   

スポーツでもいいコーチに出会うことでパフォーマンスが上がり、素晴らしい成績を出すようになるということがあります。褒められてプライドが高まった人ほどやる気を引き出し、行動を継続するいうことなのです。

   
    
    

「思いやり」をもつ


   

    

「思いやり」の感情も「感謝」と同じように現在の快楽を抑え、ほかの人あるいは未来の自分に労力、時間、お金を振り分けるようになります。

    

アリとキリギリスの童話で例えると、目の前の誘惑に負けてしまうキリギリスに対して、冬を無事に越せるように一生懸命働いているのは、まさしく「未来の自分への思いやり」が働く意欲につながっている一つの例ですね。

   

自分への思いやりが自分の未来をよくする

心理学の研究でも、自分への思いやりが一般的に低い学生は物事を先延ばしにすることが多く、成績も振るわなかったという研究結果もあります。

   

また、スポーツにおいても、自分の失敗を許し、自分に思いやりを抱いているという報告を頻繁にするスポーツ選手ほど、その後の練習をより自発的に行う傾向が強く、運動への意欲も高いなど、自分への思いやりが、学業やスポーツの成功に強いつながりがあることが明らかになっています。

    

   
   
    

まとめ


   

自制心や意思の力を養うことが人生に素晴らしい影響を与えるということはもちろんのことです。ただ、それだけでやる気を長続きさせられる人はそう多くはないのです。

 

しかし、人間の本能に直接関係している自分の感情に意識を向けることが習慣になれば、物事が変わって見え始め、自然と自制心や目標達成への意思が強くなります。

 

まずは、感謝・誇り・思いやりのどの感情でもいいので、今日から意識してみましょう!

  

デイヴィッド・デステノ著 住友進(訳)
なぜ「やる気」は長続きしないのか(原文Emotional Success)白揚社

    

 

 



\ 最新情報が届きます! /



あわせてよみたい

 齊藤勇先生の「やる気にさせる心理学」
  ▶行動することでやる気は出てくる
  ▶やる気への行動プロセス
  ▶「本番に弱い人」にはこんなアプローチが効果的!
  ▶個性によってやる気の出させ方が変わる(達成欲求と失敗回避欲求)
  ▶4つのタイプを理解して、部下に「もっと成長したい」と思わせるマネジメント方法
  ▶やる気の違いは目標設定の違いにある! 「目標」が持てない部下に、自律的な行動を促すマネジメント
  ▶目標達成できない二つの要因を知って、部下のやる気をマネジメント!
  ▶自己効力感を高めるための4つのアプローチ方法
  ▶仕事が面白いと感じさせるフロー体験
  ▶テレワークの時代だからこそ、部下のやる気を育てる上司の7つの心得 
  ▶「できないこと」を書き出すことが目標達成の近道
  ▶どうにもネガティブに考える自分を変える方法
  ▶やる気を継続している人が持っている、ある3つの感情とは?
  ▶人間関係の中の自分はどんなタイプ?自己分析してみよう


【相談】齊藤勇先生の「人間関係の心理学」
 【第1回】職場でイジられキャラから脱出できなくてやる気失せるんです 
 【第2回】問題は夫や息子ではなくアナタ!(ご主人編)
 【第3回】問題は夫や息子ではなくアナタ!(息子編)
 【第4回】恋愛と仕事どっちが大事?アラサー女子が悩む大問題
 【第5回】相談されやすい人がもつスキルとは? 
 【第6回】職場の人間関係がリセットされたらなんだかうまくいかない
 【第7回】仕事のお願いが断れない私
 【第8回】人にイライラしてしまう私
 【第9回】ネガティブな彼女への正しい接し方は?
 【第10回】自己中心的な同僚の対応に悩む私
 【第11回】苦手な先輩との仕事のやり方で悩む私
 【第12回】キャリアアップすべき?部署でまとめ役を求められるワーママ
 【第13回】中高生の子どもと向き合うための親の持つべき心得
 【第14回】やる気がありすぎる!とにかく一番が大好きな娘
 【第15回】怖がりの息子が将来独立できるか心配
 【第16回】これってモラハラ発言!?夫よ、私は言葉の暴力に傷ついている
 【第17回】人に頼ってばかりの私
 【第18回】高齢になった父との関係をよりよくするには

新着コンテンツ

この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
ライター募集中!
 

ページTOPへ