仕事・働き方

テレワークの時代だからこそ、部下のやる気を育てる上司の7つの心得 |やる気にさせる心理学(10)

2021.02.26

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。

 

   

テレワークによって表面化されたコミュニケーション不足


    

    

新型コロナウィルス対策により、企業ではテレワークが広がりを見せている中、社員同士が顔を突き合わせる機会が少なくなりました。これまで会社内で無意識にしていた雑談が減り、ちょっとした相談事もしづらくなってしまったことで、上司や同僚とのコミュニケーションに難しさを感じている人も少なくないでしょう。

   

 働く環境が大きく変わったことで、上司にしてみたら、部下たちのやる気を継続させ、いかに生産性を上げていくかは大きな課題です。

   

テレワーク導入によって部下の管理が難しくなった、部下の士気を高められないというのはテレワークになったからなのでしょうか?もしかしたら、日ごろのコミュニケーション不足がテレワーク導入によって表面化されたのかもしれません。

    

  

  

ド・シャーム博士の「やる気の訓練法」


    

これまで、「部下のやる気を高めるには、最終的には信頼関係を構築することが大切である」とお話してきました。

   

今回の新型コロナウィルスによって表面化した部下とのコミュニケーション不足を改めて認識された方は、ぜひ、アメリカのリチャード・ド・シャーム博士の「やる気訓練法」の7つのポイントを参考にしてみてください。

    

この「やる気訓練法」は、もともと教師を育成するための「子どものやる気を育てる教師を育成するプログラム」でしたが、教師だけでなく一般的にも同じことが言えますので、特に人を育てる立場の方は意識するとよいでしょう。

    

ド・シャーム博士は、自分を取り巻く環境に対し、自分が意図するような変化を生じさせたいという感覚(自己原因性)が内発的動機づけの本質であるとし、人をチェス(日本では将棋でしょうか)に例えて二つの心理状態を説明しています。

    

一つは、人は自らの意思で行動する「オリジン型(差し手)」と、もう一つは他者の指示に従って動く「ポーン型(駒)」であり、人を育てようとするならば、自己原因性知覚を持ったオリジン型人間になれるような環境づくりをすることがやる気につながるとしています。

    

 

  

  

やる気を育てるための7つのポイント


 

ド・シャーム博士は、やる気を育てるためには次の7つのポイントが大切であり、その中でも一番大事なのは、1番目の内部コントロールであると説明しています。 

      

①内部コントロール

内部コントロールとは、自分でやっている行動は自分が決めて自分でコントロールしているという知覚です。職場ではどうしても上司からの指示が多くなってしまいますが、できるだけ部下に決定させたり、部署内で話し合わせるなど、自分の決めた仕事だという認識を持たせましょう。部下に決定させることは時間がかかることもあれば非効率と感じるかもしれませんが、そこは長期的な目線で見守りましょう。

    

また、上司からの指示でも、言われたことが組織の中でどういう意味をもつのか、自分がやっていることが自分の中で整理され、理解できていることが内部コントロールへとつながるので、面倒くさがらずしっかりと説明しましょう。

  

   

②目標設定

③手段的活動の設定

「目標設定」「手段的活動の設定」については、前の「目標設定」についてお話した際に詳しく触れましたのでここではふれません。

「目標設定」の関連記事はこちら▶

    

「手段的活動」とは、目標までの具体的なステップ、アプローチ方法がわかることを言います。具体的で魅力的な目標を明示すること、目標までの道筋がイメージできることが大切です。ここでも上司はできる限り、部下に自主的に決定させることがポイントです。

    

   

④ 現実性知覚

現実性知覚とは、自分の関係したできごとについて明確に自分とのかかわりや原因と結果を理解できていることです。

    

仕事であれば、上司は部下よりも情報を多く持っています。ですから上司は部下に部内での立ち位置や相手先との関係、責任と権限など、話す機会を作って正確に知らせることです。部下に自分の現実をしっかりと理解させることで具体的な問題に対してやる気を起こす源泉となります。

   

    

⑤ 個人的責任感

個人的責任感とは、自分の行為や結果に対して、その結果の良し悪しにかかわらず、自分で進んで責任を感じることです。目標設定した場合、その目標への到達に対して、自分で行動していくという責任もこの個人的責任感の中に入ります。

    

「責任を持つ」というのはまだ若い社員にとってはかなりのプレッシャーに感じることもあると思いますので、責任を持たせつつも上司が最終責任をとるということをしっかりと伝えた上で「やってみろ」と背中を押すことが大事です。自分のバックにはしっかりと上司がついていてくれるという安心感を持たせましょう。

 

 

⑥自信

ここでいう自信とは、目標達成への自信です。前に「自己効力感」のお話をさせていただきましたが、「自分はできる」という自分の能力や努力に対する信頼感が無ければやる気は生じません。そのためには目標達成のために小さなステップを用意して、自信をつけてあげましょう。

自己効力感」の関連記事はこちら▶

 

    

⑦ あたたかい人間関係

上司や仲間に信頼されていると感じているとき、周囲から自主性のある人間だと尊敬されているとき、非常にやる気が生じます。このような人間的な信頼関係を心理学ではソーシャル・サポートといいます。このような人間的な信頼関係と職場の暖かさが行動を始めるときのバックアップ・パワーとなるのです。

     

 

  

   

上司として一番大切なことは「部下のための時間を作ること」


  

上司は常に多くの仕事や会議がある中でも、部下に説明する時間を割くことがとても大変です。部下に対して説明する時間をとる暇のない人も少なくないでしょう。上司に相談する隙も与えず、部下が納得できていないまま、上司に言われたから、仕事だからとやらされ感を抱いたまま動いてしましまってはやる気にもなれません。

    

自分主導で動くオリジン型の人間になれば、「やらされ感」がなくなり、自分から「やってる感」が強くなるため、自然とモチベーションもアップします。ぜひ「自分で決めて、動く」癖づけができるよう、上司の皆さんは「部下のやる気を育てる時間を作るのも上司の大切な仕事」と思って、意識的に時間を割いて部下をサポートしてみてください。

    

 

 



    

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この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
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