仕事・働き方

画家・中島潔さんの飽くなき探求心「ただ絵を描くことが好きだから」

2021.02.24

見る人の心を優しく包み込む繊細なタッチで、国内外を問わず人気を集める中島潔さん。“風の画家”として親しまれる中島さんは、どうして50年も絵を描き続けることができたのか。その「やる気」の源に迫りました。

 

 


 

 

中島潔(なかしま・きよし)

1943年4月生まれ。佐賀県出身。画家。高校卒業後、伊豆下田で温泉堀りや印刷所の画工として働きながら絵を独学で修行。上京後、広告業界でアートディレクターとして創作を開始する。1982年に放送された『NHKみんなのうた』をきっかけに“風の画家”として話題に。東京メトロ半蔵門線開通を記念したアートレリーフや、世界遺産・清水寺成就院の襖絵46枚などをはじめ多数制作。見る人の心を優しく包み込む繊細なタッチは、国内外を問わず人気を集め、これまで北京故宮やパリの三越エトワールなどでも個展を成功させている。中島潔オフィシャルサイトはこちら

 

 

「ふれあい」©中島潔

 

 

絵を描くひとときが
心の灯だった


 

――初めに、中島潔さんが「画家になりたい!」とやる気スイッチが入った瞬間を教えてください。

 

子供の頃から絵を描くのは好きだったのですが、それを仕事にしようと決断したのは働き始めてからのことです。

 

母が亡くなり、父が再婚したのを機に、私は故郷・唐津を離れ下田での温泉堀りの仕事を始めました。体が強くない私にとって、それはとても辛い日々でした。

 

しかし、そんな中でも絵を描き続けていると心が和むのを感じたのです。

 

私は、夜になると、ざこ寝の部屋で、仕事仲間の足の裏をスケッチしていました。どんなに疲れていても描くことは苦にならない――絵を描くひとときが、私の心の灯りのように思えました。

 

その体験から、「自分には描くことが向いているのではないか」と考えるようになりました。「これを仕事にできたら素晴らしいのだが…」。だんだんと、そのような気持ちが大きくなっていったのです。

 

少年時代の中島潔さん(本人提供)

 

ちょうどその頃、一緒に働いていた人が仕事中に手に大けがを負うという事故がおこりました。

 

その時、私は考えたのです。「もし自分がけがをして、絵を描けなくなってしまったら…」。そう思うと、恐ろしくなりました。

 

そして同時に、「本気で絵を仕事にしたい!」と思ったのです。これが、描くことが自分にとってどんなに大切なものか気付き、根拠もなく描くことで生きていけると思った瞬間です。

 

――そんなことがあったとは。何をきっかけに、人生の道が決まっていくかはわからないということですね。

 

最近の制作風景(本人提供)

 

 

積極的な挑戦が
視野を広げる


 

――中島潔さんといえば、田舎の子ども達をテーマにした作品を思い浮かべる人も多いことでしょう。中島さんは、どういったものからインスピレーションを受け、描きたいと思うのですか?

 

私は若い頃から、世の中は辛いし、嫌なことも沢山あるのだということを経験してきました。そして、人の哀しみ、儚さに気持ちが寄り添い、心惹かれてきました。

 

私が描きたいのは、一生懸命生きる人々の健気さ、人情です。故郷の野山に童たちが遊ぶ情景は、私にとって、1つの理想郷なのです。

 

――「金子みすゞ」の詩をテーマにした作品からも、人の「哀しみ」や「儚さ」がうかがわれます。

 

そうですね。金子みすゞの詩には、弱いものへ向けられる慈しみのまなざしがあります。そういったものが、自然に自分の中にあるものと共鳴して、インスピレーションを与えてくれたのです。

 

「春風の駅舎」©中島潔

 

――一方で古典『源氏物語』や世界遺産・清水寺成就院の襖絵46枚なども制作されていますね。これは、どのようなチャレンジだったのでしょうか?

 

源氏物語は、「日本人の美しさの原点」として、自分なりに表現してみたいと思って題材に選びました。得意なものだけ描いていては、立ち止まってしまうという思いもありました。

 

しかし源氏物語は、私のまったく知らない世界の作品です。描くまでは「果たしてできるだろうか…」という不安もありましたし、途中で投げ出したくなってしまったこともありました。

 

けれどやはり、描いて良かったと思います。日本の古典に一歩踏み込んだことは、今の作品に奥行きを与えてくれているのです。

 

――得意なものだけではなく、新しいステージへ挑戦する。この姿勢が、作品に深みを与えていることに加え、中島潔さんの新たなやる気へとつながっているのですね。

 

そうです。清水寺の襖絵を描いた時は熱中して休みなく描き続けたので、肺がんになってしまったほどですよ。

 

――そこまでとは…!くれぐれもお体にお気をつけください。

 

清水寺成就院の襖絵(本人提供)

 

――そういった意味では、「地獄絵」の挑戦はまったく新しいものかと思います。どうして地獄絵に取り組もうと思ったのですか?

 

そうですね。最近制作した地獄絵は新しい挑戦でした。「お天道様が見ている」という人としての心のありようを、これからの子ども達に伝え続けたいと思ったのがきっかけで始めました。

 

しかし、新しい物事への挑戦は、いつでも不安や断念といった感情がつきまといます。「怖れ」や「恐ろしさ」などは、私の作風から最も遠く苦手なものでした。

 

けれど、私は踏ん張り、描き続けました。「苦手なことを克服できたら、壁の向こうに新しい自分が見つかるかもしれない」。そのような強い思いがありました。

 

すると、地獄絵は「自分を見つめ直し再生するための慈愛が溢れており、決して怖いものではない」ということに気付かされたのです。それによって、独自の地獄絵を描くことができ、新しい視野が開けました。

 

「地獄心音図」(部分) ©中島潔

 

 

続けられた理由は
描くことが好きだから


 

――中島潔さんは来年、画業50周年を迎えられます。この年齢になるまで描き続けられた、そのやる気の根源はなんですか?

 

私の画家としての道のりは、決して平坦なものではありませんでした。

 

正式に絵を学んだことがなく、どこにも属さず、ただ好きなように自己流でやってきました。その生き方は自由ではありましたが、時には圧力を受け、人の冷たさや裏切りに遭って筆を折りたくなることもありました。

 

それでもこの歳まで描き続けられたのは、とにかく絵を描くことが好きだから。そして、大変な時期や出来事を乗り越えてきたという事実があるからこそとも言えます。

 

振り返るとき、高い壁を前に必死であがいた日々の記憶が、新たなエネルギーに変わります。困難にぶつかった時、自分を見直せたことがプラスになった気がします。もう一段、「自分を引き上げられるチャンスをもらったのだ」と、今では思えるのです。

 

――困難に立ち向かった経験や思い出は、将来自分を守る盾になるということですね。

 

使用中の画材(本人提供)

 

――「やる気が出ない」「やりたいことがみつからない」といった読者の皆さんにアドバイスをお願いします。

 

自分の好きなことをやり続けるのは、案外たやすいことではありません。
好きだからこそ、壁にぶつかり転ぶこともあるでしょう。理想が高ければ余計に自分に満足できず、やる気がなくなることもあるでしょう。

 

そんな時、「もしこれができなくなったら」と想像してみてください。私が、温泉掘りの作業で「もし腕を失って絵が描けなくなったら」と考えたように…。

 

夢に向かう道は、一本ではありません。
すぐには上手くいかなくても、挑み続けられる幸せを忘れさえしなければ、何度失敗しても、その失敗をエネルギーに変え、また立ち上がることができると思います。

 

 

歩みを止めることはない


 

――最後になりますが、中島潔さんご自身の今後の目標や意気込みを教えてください。

 

今、日本の伝統や文化に新しい風を吹き込む女性のシリーズを描いています。新シリーズの女性たちはそれぞれの分野で頑張っていて、その姿は意思と誇りで輝いています。

 

これまで美しく儚げな女性を描いてきましたので、違いでかなり苦労していますが、その分、どれも見応えのある作品に仕上がりつつあります。

 

2022年から展覧会開催の予定です。もし機会がございましたら私の挑戦の筆跡を会場でご覧ください。

 

――中島潔さんの新たな挑戦、今から楽しみで仕方ありません。素敵なお話をありがとうございました!

 

 

2022年 展覧会のお知らせ

「画業50周年 女性が輝く未来 一瞬間の“煌めき” 中島潔 令和の心を女性に描く」

【期間】2022年1月1日(土)~2月13日(日)

【場所】佐賀県立美術館

 

未発表作品「ねぶた師」©中島潔

 

 

 

 


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この記事を書いた人

勝部晃多(かつべ・こうた)

やる気ラボの娯楽記事担当。23歳。ハウストラブルコラムやIT関連のニュースライターを経、2019年8月より現職。趣味はプロ野球・競馬観戦や温泉旅行、読書等と幅広いが、爺臭いといわれるのを気にしているらしい。性格は柴犬のように頑固で、好きな物事に対する嗅覚と執念は異常とも評されている。

     

                

 
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