仕事・働き方

倒産危機からV字回復の由紀精密、強さの秘訣は「ワクワクする目標を立てて突き進むこと」

2020.07.10

株式会社由紀精密は、1950年の創業から旋盤切削加工を得意とし、電気・電子関連のねじ製造を専門としてきました。ところがバブル崩壊後に業績は急落。 三代目社長の大坪正人さんが入社すると、主に航空宇宙の分野に活路を開きV字回復を実現します。 “下町ロケット”を地で行く由紀精密の大坪社長に、急成長を遂げた秘訣とやる気の源泉について聞きます。

 

 

大坪正人(おおつぼ・まさと)

1975年5月12日、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京大学大学院を卒業後、株式会社インクス(現ソライズ株式会社)に入社。金型技術、工作機械設計などの業務経験を経て、2005年、自ら立ち上げた世界最高速の金型工場により、モノづくり日本大賞経済産業大臣賞を受賞。2006年、祖父が創業した由紀精密に入社。経済産業省のIT経営力大賞の受賞など、より高付加価値なモノづくりに特化した経営戦略に力を入れる。開発部を立ち上げ、人工衛星の設計・製造、さらには月面着陸船から宇宙のゴミ問題解決まで果敢に挑戦する。2017年10月、由紀ホールディングス株式会社を創業。

 

 

やる気の源泉はドキドキするモノづくり


 

 

――御社の特徴と、大坪さんの経営者としての仕事について教えてください。

 

弊社は航空宇宙分野や医療分野で使う部品を主に作っています。どちらも精密である必要があり、高い技術力が求められます。経営者として、私の今の主な仕事は、コロナ禍の中で受注が減っていますので、それをどうやって立ち直らせるか考えることです。

 

――大坪さんは経営者であると同時に1人の技術者でもあります。モノづくりの仕事に携わりたいと思ったきっかけは何ですか?

 

小学校低学年の頃、超合金の玩具やレゴブロックにハマったのが私のモノづくりの原体験です。ラジコンを作るのも好きで、小さい頃からよく遊んでいました。両親が小規模な部品メーカーを経営していたこともあり、部品のバリ取りなどを手伝うこともあったんです。 

その頃の経験が今につながっています。新しい部品を作ってそれが世の中をどう変えていくのか想像すると、今でもドキドキしてモチベーションが最高に高まります。

 

――小学生の当時からモノづくりをやっていきたいと思っていたんですか?

 

小さい頃の体験を自分の仕事と結びつけて考えたことがなかったので、本当にモノづくりを意識したのは大学に進んでからです。自動車が好きだったこともあって機械科を選びました。技術系の設計や開発をやりたいと思ったんです。

 

――大学卒業後は由紀精密ではなく、ほかの企業に就職したとうかがいました。

 

インクス(現・ソライズ)という会社に入社しました。主に担当したのは金型の規格化や、金型の自動製造システムを作る研究開発です。あこがれていた技術の仕事に携われたのが嬉しくて夢中に打ち込む毎日でした。

また、そうして得た技術者としての経験をベースにM&Aの提携先企業に入り、その経営と技術力を生かした経営の立て直しのコンサルティング業務も経験しました。

 

――充実した日々だったんですね。ただ、それでも由紀精密に入って家業を継ごうと思ったのはどういう思いからですか?

 

正直に言えば、当時は継ぐ予定はまったくありませんでした。しかし「家業の業績が悪い」という話を聞いて放っておけなくなったんです。

これまで技術者・コンサルタントとして経験を積んできた私ならば、由紀精密の助けになれるのではないか。そう思い、ピンチに陥った会社を助けようと決意しました。

インクスでは挑戦しがいのある開発に携わらせてもらっていたので、当然、迷いはありましたが、事業を立て直すのに間に合うギリギリのところで由紀精密に入ることにしたんです。

 

 

 

経営者としてのモチベーション


 

――大坪さんが入社した当時、由紀精密は倒産の危機にあったと伺いました。どういう状況だったんですか?

 

もともと由紀精密は公衆電話などの部品を作っていました。しかし徐々に部品の需要がなくなり、売上がガタンと落ちてしまったんです。入社した当初は、特定のお客様からの仕事に依存しており、その会社の影響を直接受けて受注が少ない時には大変苦労しました。

何と言ってもお金がない状況でした。開発の投資に回せるお金はまったくない。月末の度に資金繰りに困る。外注費もないから、全部自社でやるしかない。立て直しを始めたばかりのころは、私が自ら設計した部品を自分で機械を回して作ったりしていました。

 

――話を聞くだけでも心がくじけてしまいそうな状況です。

 

当時は「自分の代で終わらせてなるものか」と毎日考えていたものです。その逆境に挑む気持ちが経営者としてのモチベーションにつながっていたのだと思います。

 

「逆境だからこそ攻めに転じた」と語る大坪さん

――立て直すために何をしたんですか?

 

大きく3つの施策を打ちました。まず航空宇宙や医療機器に業界転換をしたこと。次に社内に開発部を作り、開発の仕事を始めたこと。それまではお客様から図面をもらって作っていたのですが、自社でゼロから設計ができる部署を作ったんです。そして情報発信・PRに力を入れました。この3つの施策により、雰囲気がだいぶ変わってきましたね。

とにかく下請け仕事が受注できるのを待つだけでなく、開発部を中心に新たな部品を作り出し、攻めに転じることにしたんです。会社が勢いを出すことで社員のやる気を高めると同時に、私自身も経営者としてモチベーションを高めていきました。

 

――航空宇宙分野のノウハウはまだなかったんですよね。どうして航空宇宙に着想したんですか?

 

自社の強みを知るために、お客さんにアンケートを取ったんです。すると信頼性が高いということや品質が良いという意見が多いことがわかりました。その強みが活かせる分野はどこだろうと考えた時に、人の生命に関わり、高い品質が求められる業界ということで航空宇宙や医療の分野に目が向いたんです。

 

 

 

航空宇宙という未知の分野への挑戦


 

――ロケットの部品を作っているのですか?

 

ロケットエンジンの部品はつくっているのですが、みなさんが想像する大きいものではありません。ロケットエンジンは大小さまざまで、いちばん小さいものだと指先くらいのものもあります。割合で言うと、関わっているのはロケットエンジンよりも人工衛星のほうが多いです。

 

――人工衛星の部品をつくっているのですね。クライアントはJAXAなどですか?

 

そうですね。JAXAにも推進系の実験部品などを供給していますが、人工衛星の部品としてはベンチャー企業のアストロスケールなどです。アストロスケールはスペースデブリ(宇宙ごみ)除去サービスの開発に取り組む初の民間企業です。ほかにも宇宙系のベンチャーや小型衛星メーカーさんなどがうちのクライアントです。

 

――最初に作った航空宇宙関係の製品はどういったものだったんですか?

 

最初は旅客機の部品だったと記憶しています。特殊ネジなどですね。

 

小型回収カプセル用姿勢制御ノズル

――その評判が良かったわけですよね?

 

そうですね。旅客機の部品というのは安全性を守るため、製造や検査の手順が一度決まると、それを遵守する必要があります。受注を受けるのは大変ですが、なかなか他に出せないものなので、最初に仕事を受けると継続的にいただける傾向があります。

経営者としては会社を安定させることを第一に考えていましたので、航空宇宙分野に新規参入できたことはとてもうれしかったです。やがて資金にも余裕が生まれ、それがまた新たな挑戦を可能にしました。会社全体にポジティブな雰囲気が生まれ、みんなのモチベーションも高まっていったんです。

 

――手応えはどのくらいあったのですか?

 

まず採用してもらえたことがすごくありがたくて。ただ正直なところ、不良品は絶対に出してはいけないので、ずっと気が抜けません。もちろん品質管理はきちんとやるのですが、それでも緊張します。

 

――ミスは許されないというプレッシャーがあるのでしょうね。医療系のほうは何を作ってきたのですか?

 

背骨のインプラント、いわゆる脊椎内の固定器具です。

 

――こちらもミスが許されない分野ですね。

 

そうですね。そういうところに弊社の価値が出るのかなと思います。他の業種との違いとしては、精度を求められる分、1個1個の部品に検査や品質管理の工数がかかり、それらを単価に反映することで、1個あたりの価格が高くなってきます。

 

――航空宇宙分野に進出して良かったと思うのはどんな時ですか?

 

こちらも、私たちの得意とする技術を求めていただいていることは非常にありがたいです。また、受注が安定しているので、その点では良かったと思います。今は新型コロナウイルスの影響で大変な状況になっていますが、それまでは不況にも強いと言われていたのがこの業界です。

新型コロナウイルスが世界中に蔓延するまでは、飛行機で移動する人の数は右肩上がりで伸びていました。この先も伸びると予想され、私たちの経営も安定していたのですが、今回のコロナ禍では本当に大きなダメージを受けています。

 

――それに対してどういう手を打っていくつもりですか?

 

コロナ後のモノづくりは、考え方がだいぶ変わると思います。モノづくりにおいて「もの」自体が不要になることはあまりないでしょう。例えばリモートワークが増えて通信のインフラが重要だねという時に、インフラを作る際にはモノづくりが必要になります。

その中で5Gは高い周波数帯を使うので、部品はより小さく、高い精度が求められるようになります。そうなると、我々のようなモノづくり企業が活躍する場が増えると考えています。

なかなか進まなかった本当の意味でのデジタル化が進行しますし、モノづくりはなくならないけれど、作る物自体の方向性は少し変わるのではないかと思います。

 

「持っている技術を世界に羽ばたかせたい」と語る大坪さん
 

 

 

 

ワクワクする目標に向かって突き進む


 

――大坪さんはリーダーとして、仕事に対するモチベーションをどうやって高めているんですか?

 

将来に向けてワクワクする計画を立てて進んでいき、1つ進むごとに喜びを味わうことだと思います。今、宇宙にはロマンがあり、そこで使われる部品やユニットを作ることには、他にはないやりがいを感じます。私のやる気の源泉はまさにそこにあるんです。

 

――大坪さんの今の夢は何ですか?

 

モノづくりの会社を経営していると「本当に良いものだな」と思う技術に出会うことがあります。それらを世界の人に知ってほしい、それによって世界の問題を解決したいと思います。今、由紀精密の持っている技術を世界に羽ばたかせていきたいんです。

 

――大坪さんは経営者ですが、一般の社員や職人も目標を掲げ、それに向かっていくことが重要だと思いますか?

 

そうだと思います。人によって価値観は違いますし、何を重視するのかも違います。仕事での成功だけがすべてではないとも思います。私は仕事を通して世界に貢献したいと思っていますが、それぞれがモチベーションを保ちつつ、楽しく働くために何が必要かを考えればいいと思っています。押し付けることはしません。

 

――モノづくりの楽しみはどんなところにあると思いますか?

 

これも人によって全然違うと思います。製品において1ミクロンの誤差を修正することに喜びを感じる人もいます。あるいは、お客さんから「これは良い製品ですね」と言われることにやりがいを感じる人もいます。それぞれでいいと思います。ちなみに私は機械そのものが好きで、モノづくりに対しては特別な感情を持っています。

 

――由紀精密を継いで良かったと思うのはどんな時ですか?

 

こんなことができたらいいなと思うことがどんどん実現できた時ですね。例えば自分たちが部品やユニットを作った人工衛星が打ち上げられたとか。そうしたこととともに会社自体も大きくなってきました。経営者として、また1人の技術者としてもうれしいですね。

 

――今後の目標を教えてください。

 

大きなことから言うと「ものづくりの力で世界を幸せに」というのが由紀精密のミッションです。それを実現するには要素技術が重要です。例えば弊社では背骨のインプラントの設計開発に携わりました。これにより、人々の健康寿命が延びると素晴らしいですよね。要素技術とはそういったものに使われるべきだと思います。

先ほどお話ししたアストロスケール社のスペースデブリを掃除する衛星の設計製造への協力もその1つだと思います。彼らは「宇宙のごみ問題」に対し、安全な衛星軌道を確保することで通信・気象・位置情報などの社会インフラを支えるという社会課題に挑んでいます。こうした1つ1つのことに我々の技術が使われていくと、世の中のためになります。そのようなことを今後もしていきたいと思っています。

 

 

 

 


 

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この記事を担当した人

八鍬悟志

複数の出版社に12年勤めたのち、フリーランスライターへ。得意ジャンルはIT(エンタープライズ)と国内外の紀行文。特にITに関してはテクノロジーはもちろんのこと、人にフォーカスしたルポルタージュを得意とする。最近はハッカソンイベントなどを取材する機会も多い。

 

 

 

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