仕事・働き方

「本番に弱い人」にはこんなアプローチが効果的!|やる気にさせる心理学(3)

2020.08.14

新型コロナウイルスによって働き方や教育、生活や人との関わり方など、 私たちの取り巻く環境は変化を余儀なくされました。さらに、AI社会、グローバル化など未来は大きく変わろうとしています。社会が変わっていけば、必要となるスキルも変わります。変化し続ける社会の中で自分のやりたいことを実現していくために、学び続けられること、成長し続けられることが大切になってきます。
そのために必要な要素の中でとても重要なのは「やる気」です。家で過ごす時間が増えたけどなかなかやる気になれない、子どもをやる気にさせるためにはどうしたらいいの?と悩むことはありませんか?
実は「やる気の出し方」「やる気の引き出し方」については、心理学の知見に基づいた方法論があります。
このコーナーでは、立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇先生が、人がやる気になる・人をやる気にさせる心理学的なメカニズムを、みなさんにわかりやすく説明していきます。

立正大学心理学部名誉教授
齊藤 勇

対人心理学者、文学博士1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、立正大学名誉教授、日本ビジネス心理学会会長。 対人・社会心理学、特に人間関係の心理学、中でも対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究 。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『人間関係の心理学』『やる気になる・させる心理学』など、編・著書・監修多数。

 

不安が襲うワケ


――本番に弱い人がいますが、不安をなくしてやる気にさせることはできるのでしょうか?

本番に弱い人は、「行動をしよう」というやる気は持っているので、それは素晴らしいことです。ただ、それ以上に、過去の経験から「失敗したらどうしよう」といった不安や心配のほうが強くなってしまうことで、行動すること自体から逃げようとしてしまう、行動するのをやめてしまうのです。

 

人間は本来、600万年前から、危険なことをやらないという性質を持っています。原始時代、人間は弱い部類で、強い猛獣から「逃げる」ということが安全を確保する手段でした。それが生き残るために必要なことだったのです。

 

現代社会では命の危険を伴うような不安はほとんどありませんし、人間の進化が不安から逃げずに我慢するということができるようになりました。しかし、「やらない」「逃げる」という選択枝を選ぶのは今でも、人間に刷り込まれている本能そのものなのです。

 

みなさんは、自分で決めたことなのに直前になって「やっぱりやめた」という経験はありませんか?それは、やりたかったことがいざ目の前に迫って来たときにおこる、自分の意志を変えようとする心の動きなのです。

 

遊園地のジェットコースターを例にあげるとわかりやすいですね。遠くから眺めているとき、「次はあのジェットコースターに乗ろう!」とワクワクするのですが、順番が近づいてくるにつれ、どんどん不安になってきて怖くなる。人によっては、途中で引き返してしまうこともありますよね。「あれに乗ろう!」という決意が、不安と恐怖が大きくなって揺らいでしまうのです。

 

 

好きな人に告白しようと決意してラブレターを書いたのに、いざポストに投函しに行くと入れられない。ポストの前に立って急に、「嫌われたらどうしよう?」と不安になる。ポストに入れられずに家に戻ると、「やっぱり気持ちを伝えたい」と思いなおす。これもまた一つの例ですけど、今の時代にはもうないのかもしれませんね。これは私の経験ではありませんけど(笑)

 

このような心理状態を、心理学者ミラーが「目標勾配理論」という理論で説明しています。「勾配」というのは、「傾き」という意味です。ミラーは、欲求や動機はその目標に近づけば近づくほど強くなり、感情も高まっていく傾向があると説いています。

  

 

反面、目標が実現する直前で「本当にこれでいいのか?」「自分にできるのか?」と疑心暗鬼になり不安な気持ちが急激に高まってしまう。自分で決めたことなのに、認知の歪みが生じてネガティブな認識を増幅させる傾向もあると説いています。

 

本番に弱い人は、「失敗したらどうしよう」というネガティブな心理と、決意に対するポジティブな心理の双方の心の揺れに耐えられない人なんですね。本番に強い人というのはその反対で、同じようにネガティブな感情が沸き上がってくるのですが、不安に打ち勝つ力が強いのです。

 

私たち心理学者は、ネガティブ感情に急激に傾く傾向が強い人へのアドバイスとして、このような心理状態を説明し、誰もが同じ状態になることを意識させます。どんな有名人でもスポーツ選手でも、みんな同じように直前に不安になる、みんな同じだよということを、まずはこの理論をもとにかみ砕きながら説明し、自分の置かれている状況を認識させます。

 

そして、このような傾向は本来自然にあることで、最後の場面では沸き上がってきた心に従わず、どんなことがあっても一歩を踏み出してみようと伝えます。「見る前に飛べ」という言葉がありますよね?その先にどんなことがあるかを見て確かめようとしないで、どうなってもいいという気持ちでとにかく飛んでしまえ!と。

 

どんな人でも、成功体験を何度繰り返しても、その感情の交差がなくなることは無いんですよね。人類600万年の心理的にこびりついた習性なのですから。でも、それを何回も経験すると自分の状態を冷静にみられるようになります。

 

不安が押し寄せてきているけど、これは誰もが自然に沸き起こる感情なのだと思うと、「なら、仕方ないか」と自分を客観的にみられるようになると思いませんか?ですから、決して不安になって怖くなる自分はダメな人間なんて思う必要はありませんから。

 
 
 

本番に弱い人をやる気にさせるには


 

―どうしてもその不安に打ち勝てないというときは困りますよね。受験生や大事な会議のプレゼンシーンでは、それに打ち勝たないといけないですし…。

 

そうですね。試験直前になったら青い顔して「もうだめだ。無理だ」と逃げ出してしまった同級生もいましたよ。自分が試されているという状況に弱い人と強い人は存在します。

 

自分を試されることに弱い人は、周りから評価されたときに「自分はいい評価されないのでは?」という評価不安を強く感じてしまうんですよ。評価不安が高い人がいわゆる「本番で実力を発揮できない人」なのです。

 

 

それは、生まれ持った性格ではなく、子どものころや過去の経験で評価されなかったり、評価が低かった経験を持っているからなのです。大人になっても、持っている自尊感情が低くなったままだと、「どうせできない」と認知にゆがみが生じてしまうのです。

 

ですから、人を育てていくことに大切なのは、失敗したときに遺伝や知能といった固定要因を否定せず、努力不足や体力不足といった、自分の行動一つで事態を変えられる変動要因に対して失敗の原因を帰属させてあげることが大切ですね。「失敗しても次は大丈夫」と思えるようにしてあげることで、自己評価されることに対して怖がらないようになります。

 

 

成功体験も人を大きく成長させますが、失敗体験もまた大きく成長させるチャンスなんです。失敗しても次に何を頑張ればいいかがわかると、次の行動を生み出しますから。

 

「失敗は成功の母」といいますしね。反抗期の子どもも、普段言うことを聞いてくれない部下も、失敗をしたときのほうが聞く耳をもってくれますから(笑)。そんなときは変動要因に対して失敗の原因があったのだと伝えてあげましょう。

 

そのほかにも、不安の強い人、本番に弱い人に対しては、目標設定の段階で小さな目標をいくつも設定して、それをクリアして成功体験を積ませることも一つの方法です。

 

 

プレゼンだったら、まずは本番前に社内で数名を集めた模擬プレゼンをして自信を持たせてもいいですね。受験だったら本番に近いシチュエーションで試験を受けさせてみるなど、一つ乗り越えた後のプラスイメージを持たせてあげることで、マイナスな感情が急勾配しないトレーニングになると思いますよ。

 

それでも本番当日、どうしても不安が頭を出しかけてしまうようなら、その人の関心のある分野で活躍している人でもいいですし、先生や先輩、社長や部長といった身近で想像しやすい人を例に挙げて、皆が同じ経験をしているエピソードなどを語ってあげましょう。「直前に不安になることはあなただけではない」と理解させ安心させてあげると、「あの人もそんな経験してたんだ」と、気持ちが前向きになりますよ。

 

 


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この記事を担当した人

わん子

やる気ラボに古くからいる微魔女犬。やる気が失せると顔にでるためわかりやすい。my癒しは、滝と戦闘機と空を見上げること。

 
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