新納一哉さん、ゲーム開発にかける想い「やりたい気持ちに、ウソをつきたくない」
2020.07.29
仕事・働き方
2021.02.5
沖昌之(おき・まさゆき)
猫写真家
1978年兵庫県生まれ。アパレル会社で宣伝用人物や商品を撮影していたことから写真を始める。2015年、猫写真家として独立。写真集に『ぶさにゃん』(新潮社)、『必死すぎるネコ』(辰巳出版)。『残念すぎるネコ』(大和書房)など。
blog:猫写真家・沖 昌之のブログ 野良ねこちゃんねる。
Instagram:okirakuoki
YouTube:猫写真家 沖 昌之の必死さに欠けるネコ動画
“かわいい”だけじゃなく、ユニーク。
ネコの奇想天外な動きをとらえた沖さんの作品は、国内外の多くのネコ好きの心をつかんでいます。
はじめは自分の興味から撮り始めたネコ写真。今はネコを撮りつづけることで、「たくさん人に喜んでもらうのが一番のやりがい」と沖さんはいいます。
自分が「楽しい」から、人を「楽しませる」へと変わっていった沖さんのこれまでの歩みを追います。
――写真に興味をもったきっかけは何だったのですか?
婦人服を販売する会社に勤めていたとき、ブログを担当することになり、その一環で商品を撮り始めたのがきっかけです。
その会社ではライフスタイルを提案することも事業の一つにあり、写真は商品のほか、新しく開店したお食事処やイルミネーションスポットなども撮っていたんです。
いろんな被写体を撮っていると、「写真って楽しいな」とか「刺激を受けられていいかも」と思うようになって、休日でも趣味で撮っていくようになりました。
――このときはまだ「趣味」の認識なんですよね。
そうですね。もともとは無趣味で休みの日は家で寝てるようなタイプだったんですが、写真を撮るために外へ出るようになり、「いい趣味がもてたなぁ」と思っていました。
友人に「よく撮ってるけど、写真家になりたいの?」と聞かれたこともあったんですが、ピンときていませんでした。
――プロになることは意識していないけど、一方で趣味として写真を続けるやる気は育っていったのですね。
会社でブログの次に、「Instagramの操作を覚えてほしい」と話があり、個人アカウントを作って撮りためていた写真をアップするようになりました。
最初は景色やスイーツをアップしていたんですが、どうせなら自分の好きなものにしようとネコの写真をアップしていきました。
この少し前に、「ネコを撮っていこう」と決めるきっかけとなったネコに出会っていたんです。
アメリカンショート柄のグレーのネコなんですが、外ネコなのにふくよかボディで、少しつぶれた顔をしていて、不思議と心惹かれました。
この子との出会いを機に、「ネコってどんな生活してるの?」と気になってよく撮るようになっていたんです。
ネコ写真はこれまでと違って反響がありました。海外の方からは「こんなの見たことない!」って大げさな感想までいただいて。
「自分の撮ったものでこんなに喜んでくれる人がいるんだな」と気分があがっていきました。以来、ネコ写真をアップしていくのが日課となったんです。
――だんだん楽しくなっていった様子が伝わってきます。しかしまだ写真家になるお話が見えてきませんね。
そうですよね。ぼくにはもともと、「写真家になるぞ!」という気持ちはありませんでした。でも、このあと突然会社を辞めてしまったんです。
――そこから写真家を目指すまでの道のりとは一体…!?
魔が差して発作的に辞めてしまったものだから、すぐに「これからどうしよう」と不安になりました…特に気にしていたのが、お世話になっていたお客さんに「怒られる」ということでした。
ぼくがお世話になっていた方々は自分より年上で、いつもぼくのことに親身になってくれる人たちでした。SNSでも繋がっていて、急に仕事を辞めた上にタイムラインもおとなしくなったら、「心配される、やばいな」と思ったんです。
「なんかせな」と焦るなかで、ふと、1年近くネコをがんばって撮りつづけてきた自分がいることに気がつきました。そこからネコ写真のブログをやろうと思い立ち、「なんかやってる感」を出すことにしました。
このタイミングで「猫写真家」を名乗るようになりました。名乗って何かやっていれば、お世話になっていた人たちも納得してくれるだろう、と思ったんです。
――名乗って活動するということは、世間から批評の目が向けられるようになります。怖くはなかったですか?
ぼくはそれよりお客さんに怒られるほうが怖かった(笑)
あと、最初はみんな下手じゃないですか?写真家を名乗るのに資格もないですし、SNSのフォロワーが多いからなれるというものでもありません。名乗ったからには良い意見も批判も受け止めて責任もつしかないです。
ぼくなんて写真展用のパネルの作り方すら知らなかったんですけど、「写真家って言ってしまったから、めっちゃがんばってみよう」って燃えていきました。
――2015年12月に初の写真集『ぶさにゃん』を発売されました。このとき、写真家としてやる気が高まったのではないですか?
『ぶさにゃん』は合同写真展に出展していたことから出版社さんと縁ができ、出すことができたのですが、このときは不安のほうが大きかったです。
というのは、ほかの写真家仲間は写真集を出して重版がかかっていたんですが、ぼくのはかからなかったんです。
出版社さんからは「御の字といえる売上だから大丈夫」と言っていただき、周りからも「本を出したからもうプロだね」と言われていたんですが、「自分の写真はあまり求められていないんじゃないか」など悶々とし、継続していくのに不安しかありませんでした。
2年ほどはアルバイトをしつつ、「次の本を出して軌道に乗せなきゃ」と焦りながら活動していましたね。
――不安を抱えている期間が長かったとのことですが、その間、何がモチベーションとなっていましたか?
ネコを撮り続けたい気持ちは絶えずあり、また自分が撮ることで人に喜んでもらうことも、プロであろうとなかろうとやっていきたいと考えていました。
思えば、InstagramなどのSNSに写真をアップして人に喜んでもらえたうれしさが自分を支えていました。
メディア関係の人が「沖の写真、好きだよ」と言ってくれたのも心強かったです。世の中に物事を発信する側の人がそう言ってくれるんだから、その応援は信じようと思いました。
――不安でも「やりたい」気持ちを温めていたんですね。
2冊目の写真集実現に向けては明確な目標がありました。
木村伊兵衛写真賞(※)受賞者・梅佳代さんの写真集『うめめ』を制作された、アートディレクターの山下リサさんに、「絶対ぼくの写真集を作ってもらおう」と思ったんです。
プロ中のプロの人に作ってもらって結果が出ないなら自分の力不足。答えがわかって諦めもつきます。もちろんオファーを断られる可能性もありましたが、「絶対やる」ってなかば意地になっていましたね。
※木村伊兵衛写真賞…朝日新聞社、朝日新聞出版主催による写真の賞。「写真界の芥川賞」といわれている。
目標は叶い、山下リサさんに制作してもらえることになった。さらに『必死すぎるネコ』の発行部数は5万部を超え、ベストセラー写真集となった。
――実際の撮影活動についても聞きたいです。沖さんはネコの生活に合わせ、季節によっては深夜に出かけることもあるそうですが、自分の生活を変えてまでやるのはしんどくありませんか?
たしかに夏場は明け方3時半とかに撮りに出かけています。そうしないと日が出てくる頃にはネコは日陰で昼寝していて動かないんですよね。
もともとぼくは早起きとか大キライです。どっちかというと怠け者タイプ。でも、「ネコを撮るには朝がいいんだな」って気づいたら、やるしかないですよね。
――いい写真が撮れると、やっぱり「やるぞ!」となりますか?
そうですね。
日中では日陰に隠れているなどで全然ネコを見つけられなかったのに、新聞配達の人がやっと動き出すような3時半頃に出てみれば、道路の真ん中でネコたちが集会しているんです。そんな場に遭遇すれば、自分のライフスタイルとか関係ないですよ。
ただ、しんどくなると続けられないので、「やらなきゃいけない」と自分に課すことはしていないです。この先何十年もぼくはネコを撮ろうと思っているわけですから、ずっと自分が楽しめるよう、無理のないルールでやっています。
▼ 沖さんによる「撮れたことでやる気が高まったネコ写真」3選
コメント:
2014年から頻繁に通っていた祠ですが、こんなシチュエーションに出会えることはありませんでした。しかし2018年の夏、マンションのオーナーさんに「近くのお寺さんのラジオ体操に出てほしいと」言われ、断り切れずに行ってみると、帰りにこの状態のねこに出会いました。
コメント:
熊本県・猫島での写真。毎朝、漁師さんはこの茶トラさんにご飯をあげています。夜明けから撮影で散策をしていると、ちょうど良いタイミングで遭遇できました。このネコが陸に上がってくるところを狙って、岸で四つん這いになって待っていました。
コメント:
テンションがあがると我を忘れて転がりまわるネコ。一度、転げまわりすぎて階段から滑り落ちるところに立ち会えましたが、想像してなかったのでブレてしまい、もう一度撮りたいと何度も通いました。「またしてくれないかなー」とカメラを構えていたら、撮れた一枚です。
――今後の目標を聞かせてください。
近い将来で考えているのは、地域ネコをお世話している人たちに「こんな表情見たことない!」と思わせる写真を撮ることです。
ぼくは外ネコを撮り続けてきて、飼い主のいないネコをお世話する方々にも出会ってきました。その方々は真剣に、それこそ我が子や孫を慈しむかのようにネコをケアされています。
ぜひぼくの写真を見て、「この子ってこんなかわいいところもあるんだ」「こういう瞬間もあるんだ」と思ってもらいたい。
例えて言うなら、運動会で自分の子をほかの親が撮っていて、「この写真あげるよ」ってもらった時、自分では撮れない表情が写っていたら、うれしいじゃないですか。
そんな風にお世話してよかったと思ってもらえる写真を届けることができたら、ぼくの仕事も意味あるのかなと思います。
――ありがとうございました!
2月28日まで、長野県東御市丸山晩霞記念館にて、彫刻家・大森 暁生さんとコラボした 「どうぶつ尽」展が開催されています。
彫刻と写真、 異なる分野の二人がそれぞれの持ち味を生かして作り上げる展覧会です。
【TV】
2月10日(水)22:00放送
BS-TBS 「ねこ自慢」
猫写真家・沖昌之さんの「猫の島」撮影旅行密着!
2月12日(金)19:30放送
NHK BSプレミアム 「美の壺」
魅惑の相棒 猫
【雑誌】
2月発売予定「NyAERA(ニャエラ)」(朝日新聞出版 AERA増刊)
沖昌之 2021年 NyALENDAR
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この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。