仕事・働き方

カメラマンうちだしんのすけ「夏色フォトグラフィー」7年間の軌跡

2021.05.14

「三保の女子高生は日本一映える日常を送っていた」という言葉とともに、富士山を背景に楽しそうに通学している女子高生の写真がTwitterに投稿され、「最高エモい」「青春だなぁ」と19.7万もの「いいね!」を集めています。

   

   

撮影したのは、“田舎と夏と女子高生”をテーマにした「夏色フォトグラフィー」という作品を撮り続けている静岡在住のカメラマン・うちだしんのすけさん。「儚く尊い瞬間を残したい」という、その7年間の活動と、やる気の出る毎日を送る秘訣について聞いてみました。

うちだしんのすけ

1980年静岡市生まれ。地元静岡市で商業カメラマンとして活躍中。インテリア・フード・アパレルなどの広告写真から、成人式・七五三など個人撮影まで幅広い分野の撮影を行う。2015年より個人的なプロジェクトとして「夏色フォトグラフィー」を撮影開始。写真集制作や写真展を精力的に行う。2021年3月16日「三保の女子高生は日本一映える日常を送っていた」と題したツイートが19.7万件の「いいね!」を集め大反響。メディアでも話題に。2021年4月1日~5月30日には、静岡県清水市・フェルケール博物館で「内田真之介写真展 夏色フォトグラフィー」を開催。

  
  
  

バズるまで7年、ブレずに続けてきて良かった


    

ロケ地:静岡県焼津市 焼津港周辺

    

――富士山と女子高生の写真、すごい反響ですね。19.7万「いいね!」を集めて、国内だけでなく、海外のニュースサイトでも紹介されたそうですね。

     

そうですね。国内では7社、海外からも2社の取材が来て、自分でもびっくりしています。あの写真を投稿してから2日間、ずっとスマホの通知音が鳴りっぱなしで、怖いくらいでした(笑)。

    

地元のテレビでも取材していただいて、2日間も密着してくださって。しかも面白おかしくではなく、「この人は地域活性化を考えて、こういう写真を撮って、こういう活動をしています」と、ちゃんとした取り上げ方をしてくださったので嬉しかったですね。

   

――バズるきっかけは何かあったんですか、著名な方にリツイートされたとか?

   

自分でも気になって調べてみたんですけど、そういう形跡は特になかったんですよ。僕はこの7年間、夏と春に毎年「夏色フォトグラフィー」という作品を公開していて、いつもと同じようにやっていただけなので、とくに仕掛けもなく、というかんじなんですよね。

       

ロケ地:愛知県豊橋市

      

ただ、最初に盛り上げてくれたのは、あの景色を知っている人たちでした。富士山の写真は、静岡市の三保というところで撮っているのですが、近くに住んでいる人や、以前に住んでいた人からすごい反響をいただいて。そういう人たちから自然と広まっていったんじゃないかなと思っています。

      

バズる前は、フォロワー数が980人だったのが、最初の2日間で5000人くらい増えて、今は8000人を超えました。とりあえず何千人かの方々には、写真集を出したときなど、自分の活動を知ってもらいやすい状態になって良かったです。

      

――仕事や生活にも、何か変化がありました?

        

「夏色フォトグラフィー」は個人的な写真活動で、普段は商業カメラマンとして仕事をしていますので、仕事の依頼も増えるかな?と思いきや、そんなでもなかったです(笑)。

      

でも、メディアで取り上げていただいたことで、多少は信頼度が上がったのかなって。女子高生の写真は、親御さんにきちんと許可をいただいてから撮っているので、本人は出たくても親御さんの許可をいただけないこともあるんです。今後はもうちょっと許可がもらいやすくなるかもしれません。

      

女子高生からも「今年も募集はあるんですか?」と問い合わせが増えたり、地元でやっている写真展に直接作品を見に来てくれたり、仕事や生活にはそんなに大きな変化はありませんでしたけど、「夏色フォトグラフィー」の活動はしやすくなったと思います。

      

ロケ地:愛知県東栄町

   

――「この写真活動を始めて7年目でようやく沢山の人に認めてもらえた気がして嬉しい」とツイートされていましたね。

   

そうですね。SNSで活動している以上、いつかはバズりたいと思っていましたけど、もうちょっと時間がかかると思っていましたし、この先も大きな反響がないようなら、節目を決めてテーマを変えるなり何かしなきゃいけないのかなと悩んだこともあったんです。

   

それでも「いつかはこうなるんじゃないかな」と期待を込めて、1年目からずっとテーマをブラさず活動してきましたので、そこを曲げずに続けてきて本当に良かったなと思います。

   
   
   

田舎と夏と高校生。どれも儚いのに、どうしてこんなにキラキラ輝くのか


   

ロケ地:愛知県東栄町

   

――「夏色フォトグラフィー」は、仕事とは別の個人的なプロジェクトということですが、どうしてそうした活動を始められたのですか?

       

僕はもともと健康食品メーカーの映像制作会社に勤めていて、そこの機材を活用して、独学で写真について学びました。写真を仕事とするようになり何年かした頃、「このまま淡々と仕事をこなすだけで人生が終わっていいのかな…」と漠然と思うようになったんです。

   

ちょうどそんなとき、知り合いに誘われたバーベキューで、富士宮市の柚野(ゆの)というところをたまたま通ったんですね。普段から田舎の原風景が好きで、静岡はどこに行ってもそういう風景が広がっているので、あちこち行っていたんですが、柚野という場所は全然知らなかったんですよ。

   

ロケ地: 静岡県富士宮市袖野  田園風景

   

そこに広がっている田園風景がすごい素敵で。ずっと静岡に住んでいても、こんなに素敵な知らない場所があるんだなって驚いて。周りの人たちに聞いても誰も知りませんでしたし、もっと多くの人に知ってほしいと思ったのが、最初のきっかけでした。

   

それで、せっかくカメラマンをやってるんだし、SNSが主流になってきて、発信も容易になった。だったら自分も何かやってみようと。

   

ただ、静岡には富士山があるので、景色を上手に撮るカメラマンって地元にいっぱいいるんですよ。田舎の景色だけ綺麗に撮っても同じになってしまうし、自分としてもあまり面白くない。じゃあ、そこに人を入れて、人の息遣いや生活感を表現できたら、よりみんなの心に刺さるんじゃないかなって。

   

――そこから「田舎と夏と女子高生」というコンセプトが生まれた?

   

はい。夏はもともと好きで、田舎と夏って、どちらも儚い印象があるなと思っていたんですね。田舎は都市開発とかで素敵な風景が失われてしまったり、集落自体がなくなってしまうことがあります。夏もワクワクする楽しい季節だけど、約2ヶ月があっという間に過ぎ去ってしまう。

   

女子高生を被写体にしたのも、高校生の3年間は、それに近いものがあると思って。キラキラ輝いているけど、どこか切なくて、儚い。そういう儚いものを掛け合わせて、ひとつの作品を撮ろうと。

   

ロケ地: 静岡見磐田市

   

――ああ、なるほど。「夏色フォトグラフィー」は、青春の輝きや眩しさを感じる一方で、切なさや儚さもすごく感じていたのですが、季節や風景と一体になっているからなんですね。

  

そう思っていただきたくて撮っているので嬉しいです。ありがとうございます(笑)。

  

――モデルの女子高生は、みなさん知り合いなんですか?

   

最初の1人目だけは、そうでした。最初は何の実績もなかったので、知り合いの知り合いの女子高生にモデルをお願いして、自分が撮りたかった柚野で撮影したんですけど、2人目からは本人やその親御さんからの応募がほとんどで、必ず春から夏にかけて、その子が暮らしている田舎で撮っています。最初は静岡県内だけでしたが、2019年には愛知県、2020年には京都と大阪でも撮影しました。

   
   
   

すべてが今、写真に残しておく価値がある


   

ロケ地: 静岡県富士宮市袖野  田園風景

   

――「夏色フォトグラフィー」の7年間の活動で、特に印象に残っている写真は?

   

まずは、今お話した最初に柚野で撮った田園風景の写真ですね。撮りたい場所で撮れたってこともあるんですけど、この活動をスタートできたという意味でも代表的な作品です。「静岡県農村の魅力フォトコンテスト」で入選した思い出もある写真なんです。

  

ロケ地: 静岡県静岡市 安倍口新田

   

次は、自然の風景とはまた違うんですけど、全部お店が閉まっている商店街の写真です。僕もこの近くに住んでいるので、昔はここも人で賑わっていたのかなって考えると、ちょっとさみしいですね。そういう意味でも思い入れのある写真です。

   

――過疎化する町が増えていますから、写真に残すことの意義も感じますね。

     

このシャッター商店街の写真は、フォロワーのみなさんも衝撃を受けた人が多かったみたいで、写真展に来てくださった方からも、この写真が印象的と言ってくれる人が多かったですね。

   

ロケ地:静岡県静岡市大沢

   

あと、結構人気なのが、おばあちゃんと女子高生が一緒に写っている写真です。ここは静岡の大沢という、お茶農家の集落なんです。世帯数も少なくて、茶畑しかなくて。奥深い山の上にある、川のせせらぎと、鳥の鳴き声しか聞こえないようなところで。

   

この村で月に2回やっている、民家の縁側を開放して、お茶でもてなす「縁側カフェ」というイベントに参加したときに、本当にここに住んでいるリアルな女子高生を撮れたらいいなと思って、ある日、ひとりで乗り込んで民家を尋ねていったんですよ。

    

畑仕事をしているおじいちゃんに「こういう活動をしているんですけど、この村に女子高生はいませんか?」と聞いたら、「あそこに住んでるよ」と教えてくれて。たまたまその女子高生の妹が僕のTwitterを見ていてくれたこともあって撮影が実現しました。

    

――おばあちゃんの笑顔も最高ですね。

   

最初は女子高生だけ撮る予定だったんですが、本当に小さな集落なので、畑仕事してたおばあちゃんが声をかけてきて、そのへんに生えている草花でおもむろに花束をつくって女の子に渡してくれて。そういう優しさが溢れている写真が撮れたことも嬉しかったですね。

   

ロケ地:愛知県東栄町

   

もうひとつ、これは愛知県で撮った写真なんですが、名古屋で写真展をやったときに、高校の先生が生徒さんを紹介してくれたんです。学校の先生がこういう活動に協力してくるなんて奇跡的なことでしたし、写真部の1日講師みたいなこともやらせてもらえて。

    

この2人は、顔は似てないけど、実は双子で、昔は旅館だった山奥にある古い大きな家に住んでいて。今は1階にある蕎麦屋さんしかやってませんけど、ミシュランガイドでも紹介された有名なお店で。

   

――青春を駆け抜けるってかんじで、いい写真ですね。

  

1人の子は、今は東京に行って、この春からアイドル活動を始めました。応援したいって気持ちもあって、思い入れのある写真のひとつです。

  

これまで3冊の写真集を出していて、6月にはバズった写真も含めて「夏色フォトグラフィー」を始めた2015年から2021年までの写真を一挙掲載した写真集を出す予定です。ホームページにもいろんな写真を載せているので、多くの方に見ていただけたら嬉しいです。

    
   
    

日本の原風景の素晴らしさを海外の人たちにも知ってほしい


   

ロケ地:静岡県焼津市 焼津海上花火大会

   

――7年間は長い期間だと思いますが、「夏色フォトグラフィー」を続けてきたモチベーション、やる気になっていたのは、どんなことですか?

  

最初は本当に誰にも見てもらえなくて、「いいね」の数も少なかったんです。僕の活動を知っている人は全然いませんでしたから、最初の写真集なんてタダで配っていました。

   

それでも、価値を見出してくれる人たちがだんだん増えてきて、SNSの反応も増えてきた。写真展もやらせてもらえるようになって、いろいろな人の意見を聞かせてもらえるようになりました。

   

そういう声を聞いているうちに「自分のやっていることは無駄ではないのかな」と思えるようになって、やる気が増していったので、やっぱりそういう一つひとつの積み重ねですね。

  

ロケ地:愛知県豊川市 豊川稲荷

   

――シャッター商店街や小さな集落のように、いつか失われてしまうかもしれない風景を撮り続けていることは、社会的・文化的な価値も大きいと思います。

  

僕もそう信じています。ちょっと話が逸れますけど、最近ジェンダーレスがすごく話題になってますよね。いつか「男子・女子」って使い分けもなくなる世の中が来るかもしれませんから、「女子高生」という言葉もなくなるかもしれません。

   

スカートの文化がなくなったりとか、制服そのものもなくなっちゃったりとか。そう思うと、すべてが今、写真に残しておく価値があるのかな、と思って活動を続けています。

   

ロケ地:静岡県焼津市 焼津港

    

――「やる気ラボ」は、「やる気の出る毎日をつくる」をテーマにしています。やる気の出し方についても、何かアドバイスをいただけますか?

  

なかなか難しいですね。息子が今、中学2年生なんですけど、全然やる気を出さないんですよ(笑)。宿題もやらないし、どうしたらやる気を引き出せるのかなって僕も悩んでいて…。

   

ただ、やる気って、目的がないと出ないと思うんですよ。うちの息子にたとえると、勉強を頑張った先に何があるかわからない。だからやる気が出ないと思うんですけど、僕の場合は、本当に好きなことをやっているので、カメラマンも、この活動も。

    

だからこそ、やる気が出るんだと思うんですけど、それでもやっぱり、やる気が出ないときってあるんですね。そういうときは、何もしません。ゲームとかに走って、とにかく何も考えないようにします。そうすると、やっぱり焦ってくるんですよ。「こんなことやっている場合じゃない」って。

   

やる気をゼロにした状態にして、しばらく自分を放置して、同じような活動をしている写真家さんやイラストレーターさんの作品を見ると「やばい!」となるので、僕の場合、そうやって自分をオフにした状態で、すごい作品を見てモチベーションを上げることを繰り返しています。

   

ロケ地:静岡県静岡市 丸子(舟川)

   

――それでは最後に、今後の夢や目標は?

  

僕は、東京のカメラマンに勝手にライバル意識を持っていまして(笑)。静岡にいるからこそ、このステージで東京では撮れないような作品を撮りたい。そう思って活動してきましたが、今は静岡にいながら東京にも行って、東京のカメラマンには撮れないような写真も撮ってみたいです。

   

あと、もっと大きなことをいえば、この日本の原風景の素晴らしさを日本だけにとどめておくのはもったいないので、海外の人にも知ってもらいたいです。そういう国の風景とか文化を好きになること自体が、本当に大きなことを言っちゃうと、世界平和につながるんじゃないかなって。

    

「好きなところは大切にしたい」と誰しも思うと思うんですよ。コロナが終わったら、世界を旅して、海外でも個展を開けたら最高ですね。この活動が海外にも広がっていって、そういう気持ちになる人がたくさん増えて、ニューヨークのメトロポリタン美術館に僕の写真が飾られたらいいなって思っています(笑)。

    

――今後の活動も楽しみにしています。本日はありがとうございました!

    


   

「夏色フォトグラフィー写真展」開催中
開催期間 2021年4月1日(木)〜5月30日(日)
開催時間 9:30〜16:30
開催場所 フェルケール博物館(静岡市清水区)
休館日  月曜日
入場料  大人400円 中高生300円 小学生200円
フェルケール博物館

   
   

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この記事を編集した人

タニタ・シュンタロウ

求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。著書に『スローワーク、はじめました。』(主婦と生活社)など。

 
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