仕事・働き方

【銚子電鉄アイドル車掌】袖山里穂さん「やる前に悩んでも仕方ない とりあえずやっちゃおう!」

2020.11.25

千葉のローカル線「銚子電鉄」が大人気です。万年赤字ながら副業として始めた「ぬれ煎餅」が大ヒット。「経営状況がマズい」という自虐ギャグから生まれたお菓子『まずい棒』をはじめ、ユニークな商品を連発。コロナで経営危機に陥ると「線路の石」や「電車の音」まで発売。 「なんでも売ってお金にかえる」前向きな姿勢が話題と共感を呼び、テレビや新聞の取材が殺到しています。今回は銚子電鉄初のアイドル車掌・袖山里穂さんに「やる気」についてお話を伺いました。

   
  

 

袖山 里穂(そでやま・りほ

1988年、銚子市生まれ。地元の千葉商科大学を中退後、銚子市観光アテンダントなどを経て、2014年に銚子電気鉄道初の女性車掌として入社。キュートなルックスから「アイドル車掌」として話題になる。2020年7月、念願の運転士試験に合格。

  

お客さまが誰も乗っていないときもありました


  

千葉県銚子市の銚子駅から外川駅までの6・4キロを結ぶ銚子電鉄。通称「銚電」。

  

―― 銚子電鉄、すごい人気ですね。ワイドショーやドキュメンタリーで何度も特集されて、袖山さんも取材が殺到しているとか。

  

なんかありがたいことに(笑)。

  

――YouTubeの『激辛チャンネル』第1回で、いきなり社長自ら「お金がない」「年度末には経営破綻」とおっしゃっていましたが、その後いかがですか?

  

YouTubeも本格始動。銚子電鉄の公式動画「激辛(げきつら)チャンネル」

    

テレビとかで取り上げていただいたので、お客さまは結構増えてきたのかなって気はします。コロナの影響で、今年の春くらいは本当にガラガラでしたから。1人、2人乗っていればいいほうで、誰も乗っていないときもありました(笑)。

  

でもありがたいことに「少しでも支えになれば」と濡れ煎餅をたくさん買ってくださったり、応援してくださるサポーターやボランティアの方も増えてきました。

  

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――袖山さん生誕祭で発売された「袖山里穂グッズセット」も完売されたそうで。自ら「銚子電鉄は制服に穴が開いても買ってもらえない状態です。制服代を稼がなくちゃいけないんです!」と涙ぐましいアピールをされていましたね。

  

ほんとすいません…(笑)。

  

サポーター主催による「生誕祭」は毎年10月22日に開催。「りほ弁当」なども販売。

    

――とりあえず経営危機は脱出できそう?

  

どうなんですかね…。もとからわりとギリギリで、ローカル線はそういうところが多いらしいんですけど、でも…なんとかできると思います!

  

私が入った7年前も「赤字だ」「廃線だ」といわれていて、運転士さんに「来年にはないかもよ」とからわれたのを真に受けて「まじかよ!」ってなったりしましたけど、今もなんとか頑張っていますから(笑)。

  
   
   

「とりあえずやってみよう」


  

「生まれてから一度も銚子の外で暮らしたことはありません」

  

――そもそも、どうして赤字の会社に入ろうと思ったんですか?

  

きっかけは、この仕事の前に勤めていたアルバイト先に、銚子電鉄にちょっと関わりのあるお客さまがいらして…。

  

(ここで名物社長・竹本勝紀さんが通りかかって)

  

社長 ちょっとじゃないよ。メインバンクの紹介だからね。銚子電鉄のメインバンクの副部長だから、よろしく(笑)。

  

メインバンクの大和田さんです(笑)。が、「今度、銚子電鉄が女性の車掌を募集するみたいだよ。やってみない?」と、ほんと軽いかんじでいっていて、私もほんとに軽い気持ちで「じゃあ、やってみる」みたいなノリで。

  

テレビなどでもおなじみ、名物社長の竹本さん

  

――電車が好きだったとか、そういうことは?

  

ないです(即答)。私は銚子生まれ・銚子育ちなんですけど、以前に銚子観光アテンダントという観光案内の仕事をしていたときに、銚子電鉄にもほとんど初めて乗ったくらいで。でもそのときは、さして興味もなく、みたいな(笑)。

  

だから本当に「とりあえずやってみて、ダメだったら辞めちゃえばいいや」くらいの軽い気持ちでした。だけど、入ってみたら、めちゃめちゃ好きになって。

  

――どんなところを好きに?

  

面接で初めてこの本社に来たときから「おお!」って。最近、机を変えたので少しはキレイになったんですけど、まずこのレトロな雰囲気にグッときて。

  

すべて古くて、おんぼろなんですけど、そこにワクワクして「このどうなるかわからないところがすごい!」「カッコイイ!」みたいな(笑)。

  

袖山さんが一目惚れした銚子電鉄本社オフィス

  

――『激辛チャンネル』第2回で、仲ノ町駅のホームにある事務所が本社と知って驚きました。しかも昭和にタイムスリップしたような雰囲気で(笑)

  

この駅自体もすごい古くて、出札口の引き出しも斜めになっているんですよ。便利にするためかなと思ったら、地盤沈下で斜めになってると教えられて(笑)。

  

その引き出しの由来みたいなのを知ったときに「もう一生ここにいたい!」と思って、なんかグッと掴まれちゃいましたね。

  

衝撃的(?)な公式動画「本社公開〜破産寸前会社の実態」

  

――もともと古いものとか、レトロなものが好きだったとか?

  

突然、目覚めましたね。これが好きとか嫌いとか、そういうこだわりはあんまりなかったんですけど、ここに来て「めっちゃ好き!」ってなって。

  

車掌の仕事も、よくわからないまま、いきなり電車に乗せられて、切符を渡されて「これで売ってね」と言われて「どういうこと?」みたいな(笑)。

  

――車掌ぶりを拝見していると、かなり大変なお仕事ですよね。

   

切符は車内で手売り

  

めちゃめちゃ大変です!銚子電鉄は無人駅が多いので、切符は車内で手売りなんです。ICカードでピッとかじゃなくて、ぜんぶが手作業。

  

お客さまが少ない日は大丈夫なんですけど、大混みの日は顔とか服装を必死に覚えて、お客さま一人ひとりに切符を売りに行って。

  

銚子電鉄は全長6.4km、片道20分しかないんですけど、普通の地面と違ってずっと揺られたまま立ちっぱなしなので、最初は2往復しただけでも足パンパン。夜になったら、立てませんでした。

  

でも「やだな」とか「面倒くさいな」とか「辞めちゃおうかな」みたいなことは、一回も思ったことないです。それ以上に、とにかく仕事が楽しくて。

  
  
  

やる気の源は、みんなが頑張っている姿


  

――どんなところが楽しいんですか?

  

やっぱり、お客さまとおしゃべりできることですね。片道6.4kmの短い間ですけど、銚子電鉄はお客さまとの距離が近くて、地元のおじちゃん・おばちゃんや通学で使ってくれてる子どもたちと毎日、お話できるんです。

  

私、高学年の小学生からは「りほ」って呼ばれているんですけど、毎日どんぐりをくれる子がいて、そのうち「りほ、どんぐり好きなんだろ」って、他の子も持ってきてくれるようになったり。そういうことが毎日いっぱいあって(笑)。

  

 小学生との会話は毎日の楽しみ

  

――会社や電車としての魅力はどうですか?

  

電車としては、お客さまとの距離が近いこと。あと、雨漏りはするし、しょっちゅう壊れるし、不具合も出ます。それでも頑張って走ってくれているところです。

  

会社を好きな理由も似てるんですけど、ぶっちゃけ、お金はありません。お金があれば、いくらでも修理代を出して、直したり、いいものを買ったり、全体的に新しくしたり、いろいろできるんだけど、それができないぶん、みんなで協力してアイデアを出し合って、どうにかこうにかしのいでいる。

  

そういうと悪口みたいに聞こえちゃうんですけど(笑)、そこが魅了かなって。

  

会社の全員、本当にみなさん頑張っているのがわかるから、そこがカッコイイというか、いいなって思いますし、自分も頑張らなきゃと思いますね。

  

袖山さんの1日がわかる公式動画

  

――袖山さんの「やる気」の源は、会社のみなさんが頑張っている姿?

  

そうですね。自分にできること、まだまだあるなって、いつも気づかされるところがあるんで。あと、やっぱりお客さんにもらえるものが…それはモノじゃなくて、なんだろう、いろいろ言葉をかけてもらえること。

  

言葉をかけてもらえると「私ももっと頑張らなきゃ」って改めて思いますし、仕事も手売りでお客さま一人ひとりと対面するから、毎日なにかしらに気づけたり、たとえ嫌なことがあっても、もっと頑張ろうと「やる気」が出てくるんですよ。

  

オフィスの壁には、地元の子どもからの応援メッセージが

  

――今年は運転士の試験にも合格されたんですよね。おめでとうございます!

  

ありがとうございます!ここに入ったときから運転士に憧れていたんですけど、最初は嘱託だったので、6年目に社員になって試験を受けられることになって。

  

勉強も苦手だし、実技もメーターを見なくても速度がわかるようにならなくちゃいけないので、かなり難しかったんですけど、とりあえずやってみようって。

  

家に帰るとついテレビとか見ちゃうんで、仕事が終わっても会社に残って勉強して、人生でいちばん勉強しましたね。で、今年の7月になんとか合格できました。

  

お客さまに「今度、運転士の試験を受けるんですよ」とかいっていたので、「おめでとう」って、たくさん声をかけていただけて、すごく嬉しかったです。

  

運転士試験の合格は、多くのメディアで話題に

  
  
  

やらなきゃ何も始まらない


  

――仕事や勉強など、いろんなことに「やる気」が出なくて悩んでいる人も多いと思います。何かアドバイスをいただけませんか?

  

なんだろう…自分の場合は、銚子電鉄に入ったときも、運転士の試験も「とりあえずやってみよう」なんですよ。ダメだったらダメだったときで、あとで考えればいいかなって。やる前に不安になったり、悩むのは時間のムダかなって。

  

もともと「こうなったら危ないから前もって気をつけよう」よりは「やってみて失敗から学ぼうタイプ」というか。

  

――失敗したこともあります?

  

だいたい失敗です(笑)。でも銚子電鉄に入れたのは大成功でしたし、いちばんの幸せだと思っています。もし最初に声をかけていただいたときに「赤字だし」「廃線かもしれないし」って不安になってやめていたら、この幸せはなかったです。

  

やってみてダメだったときは、ダメだったとき。良ければ、こんな風に幸せになれることもあるかもしれない。だから、ちょっとでも面白そうだと思ったら、とりあえずやってみることが大事なのかなって思います。

                   
  
  

こんな幸せな場所、ほかにはない


  

――袖山さんや銚子電鉄さんが愛されているのは、苦しい状況でも明るく笑って前向きに頑張っているところだと思います。特に今はコロナでみんな大変ですから。

  

暗くなってても、仕方ないですから(笑)。会社のみなさんも本当に銚子電鉄が好きなので、なんとか残すためにプラス方向に考えようとしてるんだと思います。

  

私もずっと続いてほしいし、乗る人数がどれだけ減っちゃっても、必要としてくれているお客さまもいますから、絶対になくしたくない、なくせないです。

  

だから、この会社に入ったときから、いわれたことは何でもやろうと決めていました。ふたつ返事で「はい、やります」と。

  

アイドル車掌とかいわれて、いい年してコスプレ撮影したり、小心者なので「あれが?」とか思われるのも正直怖かったんですけど、でもやらなかったら、何も始まらない。普通はやれないことだし、挑戦するほうが面白いかなって。

  

車内には千葉県のゆるキャラ「チーバくん」も

  

――世の中には、お給料も高くて、オフィスもキレイで、もっと楽な仕事もあるかもしれません。それでもこの仕事のほうがいいですか?

  

こっちのほうが絶対いいです!どんなに給料がいいとかより、これ以上いいところはないと思っています。

  

ほんとに「生きてきて良かったんだ」って思えるくらい、銚子電鉄にいられるのは、幸せだなって。だから「とりあえずやってみよう」と思って本当に良かったと思いますし、自分にできることは何でもやろうと思っています。

  

――では最後に、今後の夢や目標は?

  

夢は、定年までいられる限り、銚子電鉄にいたいです。目標はなんだろう…ほかの取材では調子こいて「駅長」とかいっちゃったんですけど(笑)。

  

でも今の駅長さんは運転士も兼任されていて、試験のときもすごくお世話になった方で、すごく尊敬していて、恩返しもしたいので、やっぱり駅長になることかな。目標は、運転士も兼任しながら、この大好きな銚子電鉄の駅長になることです!

  

――女性初の駅長誕生、楽しみにしています。本日はありがとうございました!

  

 

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この記事を編集した人

タニタ・シュンタロウ

求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。著書に『スローワーク、はじめました。』(主婦と生活社)など。今回の取材で、袖山さんと銚子電鉄の大ファンに。

 
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