仕事・働き方

常喜寝太郎さん、葛藤の末に見出したスタイル「伝えたいことがある」

2020.07.2

夢に向かって努力する人は輝いています。でも叶えた後のことは?漫画『着たい服がある』『不良がネコに助けられてく話』の作者・常喜寝太郎さんはそのことに悩んだ一人でした。常喜さんの自分を見つめてやりたいことが見つかったストーリーを紹介します!

 

青年漫画誌で活躍する常喜寝太郎さんは、これまでに『着たい服がある』(全5巻)『不良がネコに助けられてく話』(1巻発売中)の2作品を生み出しています。いずれも「なりたい自分になろう」「自分を変えていこう」という深く前向きなメッセージが感じられ、多くの読者の心をつかんでいます。

それぞれの物語には常喜さんの伝えたいことがあふれでていますが、自分の中のメッセージを作品へと昇華させていくのは容易ではなかったとのこと。漫画家として何がしたいのかも悩んだといいます。

常喜さんのこれまでの葛藤、また初連載作『着たい服がある』をどのようなモチベーションで描いていたのかを掘り下げます! 連載中の『不良がネコに助けられてく話』執筆のエピソードや次のステージへの夢も語っていただきました!

 

常喜寝太郎(つねき・ねたろう)

漫画家
1991年生まれ、滋賀県出身。第68回ちばてつや賞ヤング部門で準優秀新人賞を受賞。初連載作『着たい服がある』(全5巻)は、第23回文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選出 。現在、『不良がネコに助けられてく話』をTwitterと「日刊月チャン」にて連載中。

 



自分を振り返って見つけた描く理由


 

――そもそもなんですが、常喜さんはいつごろから漫画家を目指していたんですか?

 

漫画家の夢は幼稚園のころから思い描いていたんですよ。でもその前になりたかったものがあって。それは忍者やったんですけど(笑)。小さいころテレビで戦隊ものの番組を見ていて憧れていたんです。

ところがある日、セロハンテープの台を足に落として骨折しちゃったんです。それで忍者の夢は挫折。走れなくなってつまらない日々を過ごしていると、母親が「絵を描いたら」と言ったんです。

母親は若いころ漫画家を目指していました。だから絵が上手で、母親が描くのを見ながら、自分も描いていました。そのうち漫画家という職業があることを知り、なろうと決めました。

以来、まわりに「漫画家になる!」と言い続け、20歳から出版社さんに漫画の持ち込みをするようになったんです。

 

――漫画家になって何を一番したいと思っていましたか?

 

それ、すごい悩んだんですよね。「漫画家として漫画で何がしたいのか」、全然答えを見つけられなかったんです。

ひたすら「漫画家になる」という夢だけを追い続け、なれた後のことをあまり想像できていませんでした。「なれたらそれで終わり」という気すらしていたんです。

連載をとれた当初も 「描いていく理由」には悩んでいました。

 

――悩みながら、描くモチベーションを保っていくのは大変でしたよね。

 

そうですね…そこで、自分が好きなことは何かを、しっかりと考えてみることにしたんです。ずっと絵が描くのが好きで、人に見せるのも好きやったけど、他には? 浮かんできたのは「誰かに何かを伝えること」でした。

例えば人に好きな映画を紹介して、相手がそれを見て感動してくれると、自分の作品でもないのに泣けてくるんですよ!「好きなことを漫画を通して伝えればいいんや」と気づきました。

 

『着たい服がある』は試行錯誤の繰り返し


 

――初連載作『着たい服がある』も伝えたいことから着想を得て描かれた?

 

女子大生マミは「ロリータファッション」に憧れている。しかし家族や友人からは「かっこいい女性」像を求められ、「本当の自分」を出せずにいた――。「自分らしく生きる」を目指すヒューマンストーリー。

 

いや、これにもいろいろと経緯があります。この作品はTwitterでバズったことが連載のきっかけやったんですよ。

さっき話したように漫画を描く理由を自問自答する一方で、自分で何か連載の糸口をつかもうと積極的にSNS発信をしていたんです。それで「ロリータファッションを着たい女の子の話」をアップしたら、大きな反響があった。そこから編集者さんと企画を立てていきました。

 

 

――『着たい服がある』はなんといっても、作品全体にわたる「自分らしく前を向いていく」空気が素敵だと思います。どのようにして、こうした世界観を作られていったのでしょうか。

 

ありがとうございます!この作品は当初全然違う話で、ただただ服を着るだけの話やったんですよ。3話目のネーム(漫画の設計図)を出したとき、編集者さんに「何か深いメッセージをのせてみない?」と言われ、自分の伝えたいことを探しはじめました。

ロリータ関連の雑誌を読み、yahoo!知恵袋などで「ロリータ」と検索してすべてに目を通しました。記事や投稿を見ていくと、「こういう悩みを持っていらっしゃるんだ」「周りの目に苦しむことがあるんやな…」といろんな苦悩があることを知りました。

読んでいくうちに、「自分も似たようなこと経験したことあるな」と思い、少しずつ自分の伝えたいこととリンクしてきたんです。そうやって軸が決まりました。

 

 

――教員志望の学生がロリータが好きという設定も興味深かったです

 

よりリアルに自然に描きたかったので、主人公は「普通の女の子」にしたかったんですよね。「クラスにこういう子おるな」という感じにしたかった。将来学校の先生になりたいって人、クラスに1人くらいいましたよね? そんなことを考えながらキャラクター設定をしました。

それから、自分も学生時代に派手ファッションが好きやったんですけど、周囲に対して壁を感じたり、溶け込めなかったことがあったんです。どんな先生がいたら自分は救われたやろうか、ということも意識しました。

 

――連載中はどういったモチベーションで描かれていたんですか?

 

この連載はめちゃくちゃ過酷やったんです…10日間ぐらい2時間睡眠やったり、2日連続で徹夜する日もあったりして。そんな中でもモチベーションを維持して続けられたのはやっぱり読者さんのおかげです。

ぼくの漫画はTwitterのリンクから読めるようになっているので、読んだ人がそのままTwitter上で感想をくれることがあります。そうやって反応が見られたので「次もがんばろ!」と思えました。

もう一つ良かったと思うことがあり、それは感想をいただくことで、「自分の言いたかったことを伝えることができた」という実感が持てたことです。

 

優れたメディア芸術作品を顕彰する「文化庁メディア芸術祭」の審査委員会推薦作品に選出された際は、読者からお祝いや作品への感謝のメッセージが多く寄せられた。

 

ぼくは漫画を描く理由として「誰かに何かを伝えること」を見出したわけですが、自分の思っていることを作品に表していくのにはめちゃめちゃ苦労したんです。

毎話毎話、編集者さんに助けてもらいながら、自分のメッセージ性と漫画を「繋げる」作業をしていきました。だから読者さんの感想は「伝わったんや」って自信になって嬉しかったです。

 

――具体的にはどのような感想が?

 

実は『着たい服がある』には二極の感想があったんです。

「この漫画に出てくる子は若いときの私だ。あのころの自分に読ませてあげたい」というコメントもあれば、「私は着たい服が着れているから、この悩みがわからない」とのご意見もありました。

でも 「こんな話、ありえないよ」じゃなくて、「私には共感できないな」と言ってくれるのは、作品のメッセージが伝わって、その上でいろいろと考えてくださったということだと思うんです。

 

自信をつけて挑む『不良がネコに助けられてく話』


 

――連載中の『不良がネコに助けられてく話』は『着たい服がある』の経験が活かされていますか?

 

学校に行かず、バイトの面接にも落ちてばかりの不良高校生・タカシは、ある日2匹の子猫を拾う。不器用に生きる少年と愛くるしい猫の日常を綴った感動ストーリー。

 

 

そうですね。『着たい服がある』をやり切ったことで「誰かに何かを伝える」ことの技術が磨かれました。『不良がネコに助けられてく話』は、自分の伝えたいことをうまく漫画に起こしていけているんじゃないかなと思います。

この作品は、不良の高校生が猫を拾ったことから変わっていくという話です。不良ってアウトローなイメージで社会からは苦手とされている存在やと思うんです。でもそういう人たちにも可愛い一面があったり、成長していく姿があったりする。そんなストーリーを描こうと思いました。

まあ正直言うとこれは半ば自伝のようなもので、やんちゃしていた高校時代に猫を拾って、家族との距離など自分の中で少しずつ意識が変わったということがあったんです。そのとき感じていたことなどをベースに描いています。

 

 

―― 『不良がネコに助けられてく話』 ではどんなことを「やってみよう!」と思って描かれていますか?

 

この作品は「一人の少年の成長物語」を中心に据えながらも、他にもいくつか小さいテーマを設けて描いています。

例えば2巻の内容では「ペットロス」の問題を思い浮かべながら描きました。特に「いなくなってしまったペットのことを、自分の中でどんな風に気持ちを整理していくか」を丁寧に描いたつもりでした。

すると、読者さんからたくさんTwitterでダイレクトメッセージをいただいたんです。「最近飼っていた犬が亡くなったのでこういう気持ちになりました」や「私も主人公が唱えている言葉を言いました」など、どれも読者さん自身の体験と重なって響いたという感想でした。

そんな風に身近な出来事と結びついて感動してもらえたのはとても嬉しく思います。

 

 

 

描く日々から生まれた新たな可能性


 

――「伝えたい!」「伝わった!」が常喜さんの原動力なんですね。最後に、今後どのような作家像を描いているか教えてください。

 

実はいま、漫画以外のこともやってみたいと思っているんです。自分はこれまで、「伝えたい!」と気持ちが動いて漫画に起こし、「伝わった!」とやりがいをもってやってきたんですが、これって漫画以外でもできるんじゃないか?と思いはじめました。

イメージは宮藤官九郎さんです。宮藤さんは脚本を書いたり、役者をやったり、バンド活動をしたり、多方面で活躍していますよね。自分もマルチに活躍できるクリエイターになれたらいいなと思っています。

ただ、そうやって風呂敷を広げていっても、一つひとつのことに手を抜きたくないです。漫画だって絵の力をもっとつけていきたいし、話を作る技術ももっと磨いていきたい。何事にも全力投球しながら新しいことに挑戦していきたいと思います。

 

――常喜さんの「伝えたい」心が今度はどんな形になるのか楽しみです。ありがとうございました!

 

 

 


 

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この記事を書いた人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こせることにやりがいを感じながら励みます。特に子どもの遊びや文化に携わる人、出版業界界隈に関心が高いです。JPIC読書アドバイザー27期。



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