仕事・働き方

【四足走行ギネス世界記録】いとうけんいち「やる気の源は、人類の可能性への挑戦」

2022.04.11

四足最速の人類、いとうけんいちさん。ギネス世界記録保持者で海外からも注目され、ヒツジやアルパカ、ニホンザルなどの四足動物にも勝った、地球最速の四足走行の人類です。しかし四足走行が世の中で認められるまでの道は険しかったといいます。いとうさんは、なぜ四足歩行を始めたのか、やる気の源は何か、地球でただひとりの挑戦を続ける理由を聞いてみました。

いとう けんいち四足走行ギネス世界記録保持者

1982年生まれ。四足走行創設者・実業家。大好きな猿の走り方に憧れて独学で四足走行の練習と研究を行う。2008年に四足走行100m20秒28でギネス世界記録™を樹立。2012年に四足走行100mで17秒47のギネス世界新記録を達成。最新の記録は2015年に出した四足走行100m15秒71。2015年、バラエティ番組の企画で、ヒツジ、アルパカ、プードルとの四足走行のレースで勝利。2019年には、日光猿軍団のニホンザルにも勝利。2017年4月、all fours GYM(ボルダリング&四足教室)を横浜に出店。


  
  
  

自分にしかできないことを模索。そんなときに出会ったのが「四足歩行」


    

――四足走行ギネス世界記録の動画を拝見しました。めちゃめちゃ速いですね!

    

ありがとうございます! 一応、自分自身でも地球上でいちばん速い四足走行の人類だと思っています、はい(笑)。

     

    

――四足走行についてまだ知らない人もいると思いますので、まずは「四足走行」とは何か、という基本的なことから教えていただけますか?

     

簡単にいうと「動物みたいに四足歩行でいかに100mを速く走れるか」という競技です。二足で走る競技はありますけど、その四足バージョンで、手と足を交互に使って走るルールになっています。8年前までは陸上競技場で世界大会も行っていました。

   

――競技人口はどれくらいなのでしょうか?   

     

僕が把握しているのは、世界で150人くらいだと思います。小さい頃から四足で走っていて、僕のことを知って連絡してきてくれた人とか、子どもとか、あとジムで教えている人とか。

     

ただ、僕自身は毎日6時間練習をやっているんですね。「本当にこの競技に打ち込むんだ!」というテンションでやっているのは、おそらく世界で僕しかいないと思います(笑)。

     

    

――世界で1人ってすごいですね(笑)。「四足走行」という競技を作ったのも、いとうさんご自身ということですが、どんなきっかけで始められたのですか?

      

僕は小さい頃からお猿さんが大好きで、木登りとか逆立ちとか、いわゆる猿っぽいことをするのが得意だったんですよ。背も小さかったので、周りの子どもたちから「猿、猿」といわれていて。

      

それって一見、いじめっぽく見えると思うんですけど、僕自身は「猿」と言われることがすごい嬉しくて、猿っぽいことをして人に喜んでもらうのが大好きだったんです。

    

それで「将来は猿っぽいことをしてお金を稼ぐことはできないかな」と思って、19歳の時にニューヨークに行ったんです。ニューヨークではいろんなストリートパフォーマンスが行われているので、そういうのを見たら刺激になるかもしれないと思って。

        

ニューヨークで暮らしながら、中国拳法の猿拳法とか、いろんな猿っぽいパフォーマンスをしたり、勉強したりしていたんですけど、どれも自分以上にできる人が他にいるんですね。それでは将来の職業にならないし、お金を稼いだりできない。自分がいちばんだと思えるものがなかなか見つからなくて、ずっとモヤモヤしていたんです。

      

    

――自分にしかできないことを模索していた?

       

はい。そんなある日、お猿さんを見て癒されようと思ってブロンクス・ズーという動物園に行ったら、パタスモンキーというお猿さんがいて、めちゃめちゃ速く走ってたんですよ。あとで調べてみたら、猿界最速、つまり霊長類最速のお猿さんで、時速55kmで走るんです。

     

そのお猿さんが走る姿を見て「すごいカッコイイな!」と思って、帰り道にあった公園に寄って見様見真似で四足歩行をやってみたら、僕も結構速く走れたんですよ。

     

周りにいた外国人たちも興味を持ったみたいで人だかりができて。「何をやってるんだ?」と聞かれたので理由を話したら「じゃあ俺らもやってみるよ」という話になって、8人で四足歩行の競争することになったんです。

     

50mくらい先に大きな木があったので、誰がいちばん四足で速く走れるか勝負してみようと。そしたら、僕がぶっちぎりで速かったんです。

      

これはひょっとしたら四足歩行の才能があるのかもしれないと思って、人間が四足で走る競技を調べてみたら、そういう競技はまったくなくて。だったら自分で作ろう、と思ったんです。

      

四足歩行で誰よりも速く走ることができれば、何らかの仕事に繋がっていって、将来やっていけるんじゃないか。そんな漠然とした思いつきだったんですけど、それが始まりでしたね。

     

     
     
     

5年間練習してギネス世界記録に申請。新規記録タイトルとして申請しても断られ続けた


    
 ――競技を作るというのは想像がつかないのですが、どのようにされていったのですか?

 

僕もそれがわからなくて(笑)。たとえば協会をつくるとかホームページを立ち上げれば、それで競技を作ったといえるのかなって。なので、まずは「世界でいちばん四足歩行が速い」という証明が欲しかったので、ギネス世界記録に認定してもらえるように努力しようと。

    

自分自身でも世界でいちばん速いランナーだって思えるくらい、ちゃんと練習してからギネス世界記録に新規記録タイトルとして申請しようと考えて、まずは5年間、練習に打ち込みました。ニューヨークで半年間練習を続けて、日本に帰ってきてからも、寝るとき以外はずっと四足歩行で生活していました。

    

ただ困ったのは、アメリカでは四足で街を歩いていても、結構話しかけられたり、すごい応援してもらえたりするんですけど、日本では外で四足走行の練習をしていると、見て見ぬフリをされたり、通報されたり、1日5回くらい警察に職質を受けたりするんですよ(笑)

    

――Wikipediaによると、山の中で四足歩行の練習をしていたら、猟師にイノシシと間違われて撃たれそうになったこともあったそうですね(笑)。

    

これはもうめちゃめちゃ怖かったです! 日本では四足の練習ができる場所がなかなか見つからないので友達に相談したら、友達の弟が広島でお坊さんをやっていて山小屋を持っていると。そこを貸してくれるというので、四足歩行の合宿に行ったんですよ。

     

で、山の中を四足で歩いていたら、遠くでガサガサっと音がして、パッと見たら銃口が完全に僕のほうを向いていて。慌てて立ち上がって「人間です!」と説明したんですけど、あれ以来、山で四足歩行はやめておこうと思いました。やっぱり危ないですね(笑)。

     

   

――いろいろ大変なんですね。その後、練習場所はどうされたんですか?

    

今は杉並区の陸上競技場で練習しています。お昼の11時から14時くらいまではすごく人が少ないので、その時間帯に四足で走って、その後はジムに行ってウェイトトレーニングをやって。

     

あとは自宅で1時間半、四足歩行をしています。四足歩行で生活することによって動物と同じような筋肉がつくんじゃないかと思って。外での四足歩行はあきらめました(笑)。

     

――そういう生活を5年間続けて、いよいよギネス世界記録に挑戦?

    

はい。ただ、もともとギネス世界記録に四足走行という競技があれば、その記録を抜くだけで自分が記録保持者になれたんですけど、ギネス世界記録がその記録自体を扱っていなかったので「自分はお猿さんに影響されて四足で走る練習をやっていて、このぐらいの速さなので認定してもらえませんか」みたいな説明から始めたので、これはやっぱりすごい大変な作業でした。

    

ギネス世界記録はどんな記録でも採用しているわけではないので、最初に申請したときはすぐに断られて。だけど僕としては5年間練習に打ち込んでいましたし、四足走行を競技にするための第1ステップがギネス世界記録だと思っていたので、いちど断られたからといって「じゃあ、しょうがないな」と諦めがつかなくて。

    

今は日本にもギネス世界記録の支社がありますけど、当時はイギリスの本部に連絡するしかなかったので、何度も何度も英語でプレゼンして、5回目くらいにやっと採用されて記録を測ってもらえました。結局、最初に申請してから1年くらいかかりましたね。

     
    
     

ロイター通信の報道によって海外メディアから注目


   

         

――世の中から注目されるようになったのは、ギネス世界記録がきっかけだったんですか?

 

いえ、そこからさらに5年くらいかかりました。大きかったのは、2012年にロイター通信さんに取材していただいたことですね。

    

四足走行を始めていちばん最初はブログを立ち上げたんですけど、やっぱり自分自身が有名人ってわけではないので、たいした人数には広がらなくて。ただ、やっていることは珍しいので、ちょこちょこニュースとかバラエティ番組の取材をいただいて、そこで技を披露させてもらったりして、そういうところから少しずつ広げていっていたんですね。

    

そうして僕が29歳のときにロイター通信さんが取材してくださって、その記事がデイリーアクセスのNo.1みたいなかんじでバズってくれたんです。それで「海外にこういうヤツがいるぞ」ということが広まって、海外メディアからオファーをもらったりするようになりました。

     

――約10年かけて四足歩行が世界で認められるようになったんですね。ちなみにそれまでは生活はどうされていたのでしょうか?

    

ロイター通信さんで取り上げられた29歳までは、ビルの清掃とか飲食店とかのアルバイトをやっていました。アルバイトが終わってから、四足歩行の練習をやって、そこから寝て、始発でアルバイトに行って、みたいな生活でしたね。

   

アルバイトしてから練習していたので、練習をやり始めるときから疲れていて、ずっと生活をどうにかしたいと思っていたんですけど、ロイター通信さんの取材を受けた後から、ありがたいことに海外メディアの取材をたくさん受けて、ちょっとお金を蓄えることができました。

    

それでなんとか練習に集中できる環境を作ろうと考えて、太陽光発電に投資したり、知り合いの紹介でうなぎの養殖の事業を始めました。これらは四足とは関係ない自分の生活を支えるためのビジネスだったんですけど、四足歩行の練習ができるジムも作りたくなって、2017年に横浜でジムを始めました。

    

――横浜・本牧にある「all fours GYM」ですね。

    

ボルダリングと四足走行を楽しめる、世界で唯一のボルダリングジムです。ちょうど東京オリンピックに向けてボルダリング熱が高まっていましたし、ボルダリングは手と足を使って登るじゃないですか。最初は四足走行だけで考えていたのですが、それでは厳しいと思って(笑)。

   

今はまだボルタリングをしに来る方が98%なんですけど、四足走行にも誘って、なんとか競技人口を増やそうとしています。

    

四足走行は全身を使うので、高いエクササイズ効果があるんです。ダイエットにも効果的ですし、腰痛にもならない。腰痛って二足歩行独特の病気なんです。接骨院でも腰痛のひどい人には四足歩行を薦めたりしていますし、実はいろんな効果があるんです。

   

   

――まったくゼロの状態から競技を作って、ギネス世界記録保持者になって、海外のメディアからも注目され、ジムも経営されている。本当にすごいです。

 

とんでもないです!まだまだ全然、世の中に認知されていませんし、大変なことは多いです。実は僕、四足歩行と出会ったときは普通に彼女がいたんですけど、四足と出会ってから、しばらくして別れて、そこから18年間、ずーっと彼女がいなくて。

      

18年もあれば、たまにいいかんじになることもあるんですけど、いざ女性が自宅に来ても、僕が四足歩行を始めると「えっ…?」となって、そこから何もなく…ってかんじで18年間ずっと過ごしてきたので、そこがいちばん困っています(笑)。

   

――たしかに驚いちゃうかもしれませんね(笑)。四足歩行についてご両親やご友人は?

    

友達は前から僕のことを知っているので応援してくれる人もいましたが、ギネス世界記録に申請して断られたときに「そんなことやっても何にもならないから、やめたほうがいいよ」という人もたくさんいました。

    

両親もお父さんは応援してくれたんですけど、お母さんは僕が「自分の将来に繋がるようなものを見つけてくる」といってニューヨークに行って帰ってきてから「見つけきたのはこれだよ」と四足歩行を見せたら「それ?」ってかんじの目をしていました。

     

それでも僕がひたむきに練習に取り組んでいるのを見て、だんだん応援してくれるようになりました。ニューヨークから帰ってきた当初は、外でも四足歩行をしていたので、やっぱり近所で「いとうさんちのけんいち君、四足で歩いていたわよ」と噂になるじゃないですか。

    

お母さんには本当に迷惑かけたと思っているので、記録が認定されて、ニュース番組とかでも扱ってもらえるようになって、近所の人も応援してくれるようになったので良かったです(笑)。

    
         
          

次の目標は、ゾウ、キリン、ワニ。最終的にはウサイン・ボルト


     

   

――18年もの長い間、大変なこともありながら、四足走行という前例のない競技づくりに励んでこられた、やる気の源はどんなところなのでしょうか?

    

僕は本当に小さい頃からお猿さんに憧れがあって「お猿さんみたいな能力を持った人間になりたい」という思いが自分の根底に強くあるんです。なので、四足走行で少しでも速く走ることが僕のやる気の源になっていて、ちょっとでも記録が縮まると「ああ、少しでもお猿さんに距離が縮まったのかな」と思えるんですよ。

     

あとはやっぱり、四足走行は人類初のことなので、最終的に人類が四足でどのぐらいの速さで走れるかって誰にもわからないじゃないですか。それを知りたいっていうのもあります。

     

僕は、人類も突きつめれば二足で走るより四足で走ったほうが速いと思っているんです。今、二足の世界記録ってウサイン・ボルトの9.58で、それは本当にすごい記録なんですけど、どれだけ先にいっても人類はおそらく9秒は切れないんじゃないかと言われているんですね。

      

だけどチーターは100mを3.3秒で走ります。僕はそこに人類が9秒を切る突破口のようなものがあると考えているんです。人類もちゃんと四足で走る方法をマスターすれば、9秒を切ることができるはずだって。

     

実際、僕は四足で走ったほうが二足よりも速くなっています。そんな人類は、たぶん今は僕しかいないと思うんですけど、本当に僕は「人類も二足で走るより四足で走ったほうが速い」と思っているので、それを証明することが生き甲斐ですね。

  

――普通の競技は、ライバルに勝つことや、オリンピックを目指すことが目標になりますよね。いとうさんの場合、世界でたったひとりの挑戦なので孤独だったりしませんか?

     

そう見えると思うんですけど、実はそうでもなくて。僕には目標があって、それはリアル四足動物に勝つことなんです。チーターは地上のトップランナーなので遠い目標ですけど、四足歩行の動物は基本的にみんな速くて、たとえばチワワだってものすごく速いんです。

    

僕の中ではチワワとかヒツジ、アルパカあたりが現在のライバルだと思っているんですけど、バラエティ番組の企画でそのへんの動物には勝っていて。日光猿軍団のニホンザルにも僅差ですけど、勝つことができました。

      

次は、ゾウやキリン、ワニと戦いたいと思っています。なので、常に目標とする相手やライバルがいて「もっと先に行きたい、もっと先に行きたい」と思っているので全然孤独じゃないんですよ。最終的には、ウサイン・ボルトに四足走行で勝ちたいですね。

     

――それが実現したらすごいですね。いとうさんのように、それだけひとつのことに打ち込んだり、やる気を長く持続させるためには、どうしたらいいのでしょうか?

     

僕が四足走行に出会えたのって、たぶん自分が得意そうなことをいろいろやってみたからだと思うんですよね。猿っぽいことが得意だから、猿拳法をやってみるとか、器械体操とか、マット運動をやってみるとか。

     

いろんな挑戦をしてみると自分が本当に得意なものが見つかるので、それをずっと突きつめていけば、ハッピーな人生が待っていると思います。

     

――では最後に、今後の夢や目標は?

     

人類も四足で走ったほうが二足よりも速いことを証明すること。四足走行の競技者を増やしていくこと。あとはイグノーベル賞という、ちょっと変わった研究に贈られる賞があるんですよ。もっともっと四足走行を研究して、そのイグノーベル賞を獲ってみたいです(笑)。    

   

――本日はありがとうございました、今後のご活躍も楽しみにしています!

    


   

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この記事を編集した人

タニタ・シュンタロウ

求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。著書に『スローワーク、はじめました。』(主婦と生活社)など。

     

                

 
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