仕事・働き方

司書から絵本屋の開業にチャレンジ!岡山県の「つづきの絵本屋」さん

2020.05.25

最近、絵本好きな人が増えています。岡山県倉敷市にある「つづきの絵本屋」店主・都築照代さんもその一人。好きが高じて絵本屋さんを開業しました。自分の思い描いた夢から始めた都築さんのやる気に注目します!

 

JR倉敷駅から歩いて8分、閑静な住宅街の一角にある「つづきの絵本屋」は、木の香りと温かみが素敵な絵本専門店。長年図書館司書を務められてきた都築照代さんが一念発起して開業した本屋さんです。

厳選茶葉の紅茶でおもてなししてくれるお店は、親子でも大人1人で訪れてもゆったりと過ごすことができると人気。地元民だけでなく心地よさの噂を聞きつけて遠方から訪れる人もいるのだとか。

開業から5年目を迎え、今ではたくさんの人に愛されるこのお店。最初は経営の知識が何もないところから始めたそうです。都築さんが絵本屋を始め、続けていくうちに、やる気を高めていったエピソードをご紹介します!

 

都築照代(つづき・てるよ)

「つづきの絵本屋」店主。
愛知県出身。夫の転勤に伴い全国各地を巡ったのち、文化的な風土にひかれて岡山県倉敷市に移住し、「つづきの絵本屋」をオープン。絵本専門士、JPIC読書アドバイザー、絵本講師、絵本セラピストの資格を活かし「読みきかせ講習会」や「絵本講座」等の講師としても活躍中。

 

つづきの絵本屋

住所: 〒710-0811岡山県 倉敷市川入694-7
営業時間: 月-火:10:00~18:00 金-日:10:00~18:00 定休日:水曜日・木曜日
電話番号: 086-476-0415
FAX番号: 086-476-0415
HP: https://tsuzukinoehonya.com/
facebook: https://ja-jp.facebook.com/tsuzukinoehon/

 

「もっとこうしたい」から走りだす


 

――都築さんは図書館司書を長くされていたそうですが、どんなことがきっかけで絵本屋を始めようと思われたのでしょうか?

 

私は公共・大学・小学校の図書館で計15年間ほど、司書として働いたのですが、学校図書館に勤めていたとき、子どもたちの本を選ぶ力がだんだん弱まってきているんじゃないかと思ったんです。

今はインターネットでいくらでも調べ物ができる時代ですよね。その影響もあるのか、子どもたちはすぐ「先生、面白い本何かない?」と聞いてきました。

それで色々とヒアリングしながらその子に適した本を一緒に選ぶのですが、学校だとチャイムが鳴るとそこでおしまいになります。「もうちょっとこの子についてあげたかったな」と残念に思うことが多々あったんです。

そのうちもっと自由に絵本が紹介できたらいいなという気持ちが出てきて、自分のお店だったら時間の制限もないし、子どもだけでなく大人にもじっくりお話を聞きながら、絵本を手渡すことができると考えました。

 

――じっくり向き合って届けたいという想いがきっかけだったのですね。でもそのときは「なんとなくやりたいな」というぼんやりとした夢だったと思います。どのようにして本気度が増していったのでしょうか?

 

そう、そこなんです!こういうのってそのとき置かれている状況に特に不満がないと、「いつかやりたいな」とどんどん先送りになっていってしまうんですよね。「いつか」は、いつまでも来ないんです。だから、私は「2016年4月15日にオープンする!」ってゴールを決めてしまったんです。学生のときに陸上をやっていたものだからゴールが決まっていないと走れなくて(笑)。

場所だってそのときはまだ全然決まっていなかったんですけど、とにかく日程だけ決めてしまいました。ちなみにこの日は主人の誕生日。応援してくれる主人に感謝の気持ちと、オープン日を忘れないから(笑)。

 

――先に日程を決めて走る、素晴らしいですね!もともと経営の知識などはあったんですか?

 

いえいえ、商売なんてもう全くの素人です。ただ、色々な方にご相談させていただく中で気づかせてもらえたことがあって。

読書会で老舗書店をされている方と知り合ったのですが、「絵本屋やるっていうけど大丈夫?本屋って本当に大変なのよ」と真剣に心配していただいて、そのとき「ご両親は何していた人だったの?サラリーマンの家庭だったの?」と聞かれたんです。

それでハッとしたんですが、実家は自営業だったんです。父が木でものづくりをする職人で、お店もやっていました。そのことを話したら、「じゃあ大丈夫ね」って。「日によって収入が違う環境で育ってきているなら大丈夫よ!」って背中を押してもらえたんです。

ここで生まれ育った家庭環境が繋がるとは思ってもみなくて、でもそのおかげで「そんなにハードル高くないぞ」と感じることができました。実際何か役に立つというより、心の持ちようとしてプラスになったんです。

 

店内は木を魅せることを基調にデザイン。これも都築さんの父親が職人だったことが影響している。「木は経年変化によって味わいが出てくる」ことが魅力だという。

 

――環境を見つめ直してみると自信に繋がったのですね。ただ一方で経営の勉強は大変だったと思います。心が折れることはありませんでしたか?

 

主人の転勤で引っ越すたびに、その転居先の自治体が主催する「創業塾」に通っていたんです。あらゆる都道府県、市区町村のコミュニティに顔を出しました。これは勉強のためでもありますが、自分の中で引き出しを増やそう、志を同じくする仲間が欲しいという思いもあったんです。

やっぱりやる気って長くはもたないものですよね。結局、間に仲間の励ましだったり、自分の中に新しい発見があったりして続くものだと思います。だから色々な場に参加して刺激を常に更新していました。

それから創業塾でよく「やりたいことが出てきたとき、そのことを何人にも伝えなさい」ということを耳にしていました。300人以上に伝えていくと「何かが変わる」っていうんですね。

私も実際、会う人会う人に「2016年4月15日に絵本屋をオープンするんです」と発信してきました。また、講座で話すなどしました。すると応援してくれる方がすごく増えたんですよ。「知り合いにこういう出版社の方がいるから会ってきたら」「こんな絵本作家さんのイベントがあるよ」など、情報がたくさん入ってくるようになりました。

そうしたことが「前に進んでいるんだな」と実感できて、モチベーションになっていました。

 

「やって良かったんだ」の瞬間


 

――実際に開業されてからのことも聞きたいと思います。都築さんは元司書で、そのときも絵本を届ける仕事をしていたわけですが、改めて絵本屋をはじめて良かったと感じたことはありますか?

 

一つ印象に残っていることがあります。
うちはお茶しながらお話しして一緒に本を選ぶんですね。ときには頼まれていないのに読み聞かせを始めることも(笑)。それであるとき、幼稚園児ぐらいの男の子とお母さんが来店されたんですが、いつものようにのんびりと店内で過ごしていただきました。

そのうち買う本が決まってお店を後にされ、お見送りをしていたとき、男の子がお母さんに「この本いつ返すの?」って聞いたんですよ。その子は、絵本をゆっくり読んでいるうちに図書館にいるのと同じ感覚になっていたんでしょうね。

そしたらお母さんが「これは○○くんのために買ったものだから、ずっと家に置いてていいんだよ」と話して、男の子は「やったー!」って飛びはねて喜んだんです。
私はそれがもう本当に嬉しかった!これは司書時代には得られなかった経験ですね。

 

紅茶とセットで、自家製の焼き菓子(スコーンやワッフルなど)も提供している。

 

――文字通り「届ける」ことができたのですね。逆に司書時代の経験が活きたということはありましたか?

 

もちろんありますよ。
来店される親子の中には、上の子が小学生で下の子が未就学児といったように兄弟連れのこともあります。こういう場合、兄弟で一冊というわけにはいかなくて、やっぱりそれぞれに買ってあげたいということが多いんですね。

私は学校図書館で働いていたので、その経験から「○年生だったら、こういう内容を習います。これなんかどうですか?」とか「これは教科書にも載っていますよ」とか、学年や年齢に応じたご紹介ができるんです。

これは大人同士のお客様にも好評で、「そういえば昔、学校で見たことがあります!」と喜んでもらえます。

 

――お話を伺っていると、普通の本屋さんより交流が盛んですね。そういった場にすることを目指されているのでしょうか?

 

そうですね。うちではお茶しながらよくお客様同士もお話しされるんですよ。皆さん「あの絵本が好き、この紅茶が好き」と互いに共通点を見出して楽しくおしゃべりしています。ときにはやりとりが活発になって連絡先を交換している姿も。

そんな様子を見ていると、「ああ、私こういう光景を見たかったんだ!」と思うんです。

また、子育て中のお母さんが子どもをパパに任せて、ママ友と来店されることもあります。私も子育てを経験したのでよくわかるんですが、育児中って自分の時間が取れないんですよ。

そんな貴重な自分時間にここに来てくださり、好きな絵本をめくって、ゆっくり紅茶を飲んで「よし、これで明日からまた頑張れます!」と言ってくれると、本当に嬉しい。この場所を作って良かったなと思います。

ただの本屋さんではなく、癒される場所。こうして落ち着いて交流できる場にこれからもしていきたいですね。

 

やりながらまた「もっと」が出てきた


 

――図書館時代には成し得なかったことを実現され、都築さん自身も楽しまれていることがよく伝わってきます。お店は5年目を迎えますが、1年ずつ積み重ねながら新たに出てきた意欲などはありますか?

 

そうですね。倉敷にお店を構えたのは、美術館などがあり街全体が文化的風土が高く、大好きな街だからなのですが、元々この土地の者ではないので、来た頃は知り合いがあまりいない状態だったんです。

だから最初は店内で開催するイベントも私1人でやっていました。しかしお店にだんだんと人が集まってきて、コミュニティの場として機能してからは、イベントを手伝ってくださる方が出てきたんです。

「猫の手倶楽部」というんですが、お客さんから自然発生的に生まれたものなんです。 私が「今度のイベントに猫の手借りたい」とお願いすると、無理をせず都合の良い範囲で助けてくれるんです。

皆さん、本当に熱心に一緒に作り上げようとしてくださり、感謝しています。もっと色んな人と関わってやっていこうという気概が一年、二年と続ける中で出てきました

うちはギャラリーも併設していて原画展や作家さんのトークイベントなどもよくしています。出版社さんや作家さん、お客さんも巻き込んで、たくさんの人と「盛り上げていきたい」というのが今後の展望ですね。
また「自分の本を出したい」という妄想もチラリと持っています(笑)。

 

イベントは店内をまるごと使って開催するので、作家さんとお客さんの距離が近く一体感があるという。

 

――都築さんの起こしたやる気はこれからたくさんの人に広まっていきそうですね。ありがとうございました!

 


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この記事を書いた人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。特に子どもの遊びや文化に携わる人、出版業界界隈に関心が高いです。JPIC読書アドバイザー27期。

 
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