子育て・教育

学習アプリ開発者が考える、個性にあった動機づけの方法

2021.01.21

何かに取り組むとき、「できなかったら○○する!」などの罰を自分に科すこと、ありませんか?
でも自分に甘くしてしまったり、うまく活用できなかったりで成功しない…。
そこで「罰」について、そして目標を達成しやすくするためのポイントについて、ソフトウェアと意欲、動機づけを研究する坂本一憲先生が、伝授します!

皆さん、こんにちは。坂本です。第4回の記事はお楽しみいただけたでしょうか。

ところで、皆さんは、どんなときにやる気が出るでしょうか?恐らく、人によって異なる答えが返ってくると思います。

私は、人それぞれやる気が出る要因は異なるという仮説を立て、利用者ごとに最適な動機づけの方法を推薦する機械学習技術(以降、AI技術と呼びます。)の研究開発に取り組んでいます。

 

今回は開発しているAI技術について、ご紹介いたします。

 

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▶【過去記事】子どもへのご褒美についての記事はこちら

▶【過去記事】ご褒美より強力な「罰」についての記事はこちら

 

前回の記事で、損失回避性という概念を説明しましたが、人によって報酬・損失のどちらを重要視するかが異なります。

例えば、10問のクイズにすべて正解すれば、300万円を貰えるテレビ番組に出演することを想像してみましょう。

成功したら300万円貰えると胸を躍らせる人もいれば、失敗したら自分の失態がテレビに放映されてしまうと心配する人もいると思います。

 

 

心理学者Higginsが提唱した制御焦点理論では、人にはポジティブな結果に焦点を当てている状態と、ネガティブな結果に焦点を当てている状態の2種類があると説明されています。

また、個性によってポジティブ・ネガティブな結果のどちらに焦点を当てがちかという傾向に違いがあるという研究報告もあり、傾向の差を測定するための心理アンケートも提案されています。

近年、ポジティブ/ネガティブな結果のどちらに焦点を当てているかによって、効果的な介入方法が異なることが分かってきました。

外山らの論文では、ポジティブな結果に焦点を当てている状態のときは、ポジティブなフィードバックを与えたほうが動機づけが高まり、また、ネガティブな結果に焦点を当てているときは、ネガティブなフィードバックを与えたほうが動機づけが高まるという実験結果が報告されています。

さらに、三和らの論文では、自分より優れた人と自分を比較する際に、比較相手が自分と似ていると考えた場合(同化した場合)と比較相手が自分と似ていないと考えた場合(対比した場合)について、比較する実験が報告されています。実験では、ポジティブな結果について焦点を当てがちな人は同化した場合の方が、ネガティブな結果について焦点を当てがちな人は対比した場合の方が、動機づけおよびパフォーマンスの両方において良い結果を示しました。

このように、人によって適切な動機づけ方法が異なることが分かりつつあります。

一方で、人間は2種類のグループに分けられるほど単純な生き物ではなく、様々な心理学研究において、多様な分類がなされています。しかし、どんな人にどんな方法で介入すればより意欲を引き出せるかということは、十分に解明されていません。

そこで、私たちの研究グループでは、AIとデータの力を借りて、各人に最も良い動機づけ方法を選択する試みに取り組んでいます。

 

私たちは過去に、

1) 様々な観点でユーザの個性を分析する心理アンケート

2) 心理学研究の理論に基づき12通りの方法で動機づけを行うユーザインタフェース

3) 心理アンケートと過去のユーザのデータに基づいて最適な動機づけ方法を選ぶAI

4) 1-3を搭載した反復学習向けのスマートフォンアプリケーション(以降、反復学習アプリと呼びます。)

の開発に取り組んできました。

以下で、12通りのうち、3通りの方法で動機づけるための画面をお見せします。

 

 

上記画面は、Elliotらの論文で提案されている、人が持つ目標を6通りに分類する達成目標理論に基づいて設計しています。

一番左の画面は他者の成績に基づく目標を、真ん中の画面は自己の過去の成績に基づく目標を、一番右の画面はシステムが定めた目標を表示しています。

どんな個性を持つユーザにどんな画面を提示すれば良いか分かっておりませんが、反復学習アプリを使用するユーザの学習履歴を蓄積していくことでAIは賢くなり、「こんな個性を持つユーザに対して、こんな画面を提示すると、たくさん勉強してくれそうだ」と正確に予測できるようになります。

私たちは反復学習アプリの有効性を検証するため、20代から30代の男女118名の実験協力者を集めて、28日間、反復学習アプリ内で英単語の自主的な学習を依頼しました。

その結果、上記の反復学習アプリと、動機づけ機能のないシンプルな反復学習アプリで比較して、解いた英単語の問題の平均値が約2.24倍に向上するという結果となりました。

さらに、過去すべてのユーザの学習履歴を分析したところ、人から注目されたいという欲求が強い人には、他者の成績に基づく目標を提示したほうが、よりたくさん学習するなど、興味深い傾向が見られました。

 

 

現在、私たちは、独立行政法人 情報処理推進機構の2020年度未踏アドバンスト事業への採択を受け、石黒浩プロジェクトマネージャーのご指導の元、上記の研究成果を踏まえた事業化・製品化のための研究開発および実証実験に取り組んでおります。

既に反復学習アプリのリニューアル版をリリースしており、どなたでも無償でiOSアプリAndroidアプリをお使いいただけます。また、法人(学校や企業など)としてご利用を希望される場合は、本活動の詳細な説明をお読みください。お申し込みフォームからご連絡いただければ、所属する生徒・社員の方の学習状況を確認する画面もご利用いただけます。必要に応じて、ご希望の教材を追加したり、法人様のオリジナルアプリを開発することも可能です。

たくさんの方にご利用いただくことで、私たちのAIはどんどん賢くなり、新たな科学的知見の創出に繋がります。是非ご利用ください!

 

 

 

ソフトウェアと心の関係

#1 私がプログラミングで“やる気”になれる理由

#2 やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

#3 「子どもにご褒美」はOK?NG?5つのチェックポイント

#4  ご褒美よりも有効な「罰」を有効活用するには?

#5  (後日掲載予定)

#6  (後日掲載予定)

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この記事を書いた人

坂本 一憲

WillBooster合同会社CEO. 研究者・教育者・起業家。早稲田大学 研究院客員准教授、国立情報学研究所 客員助教などを歴任。プログラミング教育やゲーミフィケーション、競プロ、ソフトウェアテスト、心理学(自制心・意欲)が好き。ゲームAIプログラミングコンテストも開催している。

 

 
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