子育て・教育

ご褒美より強力な「罰」を上手に活用するには?

2020.02.13

何かに取り組むとき、「できなかったら○○する!」などの罰を自分に科すこと、ありませんか?
でも自分に甘くしてしまったり、うまく活用できなかったりで成功しない…。
そこで「罰」について、そして目標を達成しやすくするためのポイントについて、ソフトウェアと意欲、動機づけを研究する坂本一憲先生が、伝授します!

 
 

皆さん、こんにちは。坂本です。第3回の記事はお楽しみいただけたでしょうか。

前回はご褒美について取り上げました。
アメとムチという言葉があるように、ご褒美の対となる概念として罰があります。
一般に罰は好ましくないアプローチですが、ご褒美よりも強力です。

 

そこで、今回は罰について理解を深めてみましょう。
上手く罰を活用すれば、新年の抱負の達成に役立つかもしれません。

 

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損したくないという気持ち

 

絶対に損だけはしたくない!と考えたことはありませんか?

1990年に公開された行動経済学者のKahnemanらの論文では、
あるマグカップについて、購入する際に支払える金額の平均が$2.87であったのに対して、売却する際に求める金額の平均が$7.12であるという実験結果が報告されました。

全く同じマグカップなのに、手に入れる(買う)場合と手放す(売る)場合で、実験参加者は2倍以上高い値段を付けたのです。

 

カーネマンらは上記結果の理由を説明する上で、損失回避性という概念を提唱しました。

手に入れるよりも失う方を嫌がる傾向
手に入れるよりも失う方が嫌!

損失回避性とは、利益を得ることよりも、損失を回避することを重視する傾向を指します。
さきほど説明した実験では、マグカップを手に入れるという利益よりも、マグカップを失うという損失を、より重視したわけです。

 
 
 
 

損失回避性に着目した実験

 

2001年に公開された心理学者のBaumeisterらの論文『Bad Is Stronger Than Good』(悪は善より強い)では、様々な心理現象において、損失など悪いことの方が、利益など良いことよりも、大きな影響をもたらすという原則が主張されています。

 

そして、損失回避性も上記の原則も、今日に至るまでの様々な研究において確認されています。

ただし、近年、損失回避性を見直そうという主張もあります。例えば、他者に妬まれないように利益には過剰反応せず、同情を得るために損失には過剰反応しているだけという主張もあります。

 

どうやら私たち人間は、利益よりも損失から影響を受けやすいようです。

 
 

損失回避性に着目して、教育効果の向上に成功した研究があります。

 

2012年に公開された経済学者のFryerらの論文では、シカゴ市内の学校の教員を対象として、生徒の成績に応じて$0から$8,000のボーナスを与える実験が報告されました。
ボーナスの期待値は$4,000で、教員の平均年収の約16%に該当するため、結構な金額のボーナスです。

実験では、事後にボーナスを受け取るグループ(事後グループ)と、事前にボーナスを受け取り、必要に応じて返金するグループ(返金グループ)に教員を分けました。

事後グループでは、生徒の成績が出て金額が決まった後にお金を受け取ります。
一方、返金グループでは、実験開始時に$4,000をもらい、生徒の成績が出た金額が決まった後に、$4,000との差額を返金もしくは追加で受け取ります。

 

両グループとも最終的に受け取る金額は同じですが、生徒の成績に差が出ました。

事後グループでは生徒の成績が改善しなかったのですが、返金グループでは生徒の成績が10%改善しました。
返金グループでは、生徒の成績が悪い場合に返金が求められます。

 

教員は返金することを損失と捉え、損失を回避するために生徒の成績向上に努めたのです。

 
返金グループに属する生徒の成績が改善した
返金グループの生徒の成績が上がった!
 
 
 

罰を有効活用するための「コミットメント」

 

以上の通り、罰は強力な効果を持ちます。

しかし、罰を他者に与えることには、倫理上の問題があります。
さらに、罰への恐怖心が集中力を削いだり、パフォーマンスを低下させたりすることが分かっています。


それにも関わらず、私たちは意図せず罰を与えてしまうケースがあります。

 

2012年に発表された神経科学者のChibらの論文では、ご褒美が罰として機能するケースを発見しました。

 

実験参加者に成功報酬としてお金を与え続けると、ある時点から、失敗して報酬を受け取り損ねること(ある種の損失)を心配し始めます。
最終的に、損失に対する恐怖心が失敗確率を上げ、実験参加者のパフォーマンスが下げました。

 

どうすれば罰を有効活用できるのでしょうか。

その一つの答えが、コミットメントです。

 

コミットメントとは行動に制限を設けることで、自身の行動を制御する仕組みを指します。
コミットメントを実現するために、自身に罰を課すことで、自分の行動を制限することができます。

 

例えば、あなたはダイエットを成功させたいと考えているとします。

自分の友人に対して、一緒に食事に行った際に絶対にデザートを頼まない!と公言することは、コミットメントになります。
友人の前で自身の宣言を破れば、恥をかくという罰を受けます。
罰を回避したいという気持ちが、デザートを頼むという行動を防ぎます。

 
コミットメントを実現することで、ダイエットを成功に導く
コミットメントを実現することで、ダイエットを成功に導く
 
 
 

コミットメントを活用したサービス

 

近年、コミットメントを活用したサービスが普及しつつあります。

 

海外では、イエール大学の経済学者Ayresらが立ち上げたstickKが注目を浴びました。

 

ユーザーはstickK上で達成したい目標と、達成できなかった場合に受ける罰を設定できます。
例えば、3ヶ月間禁煙を続けるという目標と、目標を達成できない場合に嫌いな政党へ$500を寄付するという罰を設定できます。


罰の執行を確実なものとするため、ユーザーはstickK上で契約を結び、クレジットカードを登録すれば、目標を達成できなかった際に、自動的にお金が引き落され、指定した組織へ寄付されます。

 
 

国内にはstickKのような過激なサービスはありませんが、SNS上で目標を宣言することで、コミットメントを行えるサービスがあります。

 

たとえば、みんチャレでは共通の目標を持った5人でグループを作り、グループ内で目標の達成状況を共有できます。

グループ内でお互いを励まし合うというご褒美に加え、みんなが努力している中で自分だけがサボるという恥をかきたくない(罰を受けたくない)という気持ちが、目標の達成を支援します。

 
 

私は初めてstickKに出会った際に感銘を受け、国内で同様のWebサービスを立ち上げました。

残念ながら、自身に罰金を課すというコンセプトが受け入れられず、また、私自身もstickKを使う中で苦しい思いをしたため、最終的に同サービスを閉鎖しました。

 

現在のみんチャレの成功を見ると、罰金のような過激な罰よりも、恥ずかしい気持ちなどのカジュアルな罰のほうが受け入れやすく、また、罰のデメリットも抑えられそうです。

皆さんも、新年の抱負の達成に向けて、コミットメントを試してみると良いでしょう。

 
 
 
 

ソフトウェアと心の関係

#1 私がプログラミングで“やる気”になれる理由

#2 やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

#3 「子どもにご褒美」はOK?NG?5つのチェックポイント

#4  ご褒美よりも有効な「罰」を有効活用するには?

#5  (後日掲載予定)

#6  (後日掲載予定)

 
 

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この記事を書いた人

坂本 一憲

WillBooster合同会社CEO. 研究者・教育者・起業家。早稲田大学 研究院客員准教授、国立情報学研究所 客員助教などを歴任。プログラミング教育やゲーミフィケーション、競プロ、ソフトウェアテスト、心理学(自制心・意欲)が好き。ゲームAIプログラミングコンテストも開催している。

 
 
 

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