子育て・教育

やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

2019.07.12

【小学生】【中学生】【高校生】
第2回は「ゲーミフィケーション」のお話です。ゲームで使われている魅力的な要素を、学習意欲アップに導入する手法を説明します。キーワードは「小目標」!

ソフトウェアと心の関係

#1 私がプログラミングで“やる気”になれる理由

#2 やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

#3 「子どもにご褒美」はOK?NG?5つのチェックポイント

#4  ご褒美よりも有効な「罰」を有効活用するには?

#5  (後日掲載予定)

#6  (後日掲載予定)



<第2回>やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

 みなさん、こんにちは。坂本です。第1回の記事はお楽しみいただけたでしょうか。フローの説明を読まれて、ゲームを思い浮かべた方は多かったのではないでしょうか? 実際、上手く設計されたゲームをプレイすると、フロー状態を経験できることが分かっています。また、ゲームとフローの相性は良く、フロー理論を参考にしてゲームがデザインされることもあります。

 さて、今回はゲーミフィケーションをご紹介します。

 ゲーミフィケーションとは、ゲームで使われている魅力的な要素を、ゲーム以外の活動に導入する手法のことです。ゲーミフィケーションは様々な領域で活用されていますが、教育領域では学習者のやる気を引き出すために使われるケースが多いです。

 まず、例を通して、ゲーミフィケーションとは何かを考えてみましょう。

ゲーミフィケーションの例

 何らかの理由で、あなたは英単語1000語を覚えないといけない状況にいるとしましょう。英単語を延々と覚える作業は単調ですから、きっとあなたは途中で飽きてしまうでしょう。そこで、あなたの友達とどちらが早く1000語を覚えられるか競争することにしましょう。一人でただ1000語を覚えるケースと比較すると、楽しく意欲的に取り組めそうな気がしませんか?

 この例は、英単語1000語を覚えるという活動に対して、競争というゲーム要素を導入するケースを取り上げたものです。このように、ゲーミフィケーションによって、人間の活動をもっと魅力的にしたり、参加者のやる気を引き出したりすることができます。

その効果やいかに?

 ゲーミフィケーションの研究では、ゲーミフィケーションが意欲やパフォーマンスを改善するという報告が多々ありますが、中にはかえって悪化させるという報告もあります。残念ながら、学術界の中でゲーミフィケーションの効果に対するコンセンサスは得られていません。その理由は、ゲーミフィケーションを導入する活動内容や、導入する期間、導入するゲーム要素などによって結果が変わるためです。ただし、概ね短期的に特定のゲーム要素を使う分には良い効果が得られるようです。そこで、良い効果について報告された研究事例を一つご紹介しましょう。

小目標でパフォーマンス改善

 ゲーミフィケーションで使われるゲーム要素には様々なものがあります。代表的なゲーム要素として、ランキング表(競争させて順位表を見せる)・ポイント(推奨したい行動に得点を与える)・レベル(総得点数で段階評価する)・バッジ(小目標を与えられる)があります。GroeningとBinnewiesの研究では、バッジに焦点をあてて被験者実験をしました。バッジとは、参加者に特定の小目標を与えて、参加者がその小目標を達成すると、達成したことを示すバッジ(称号の名前やアイコン画像など)が貰えるという仕組みです。バッジはアチーブメントと呼ばれることもあります。

 彼らの報告によると、小目標の種類を少なめにして、小目標の難易度を高めにすると良いとのことです。先ほどの英単語の暗記の例で考えてみましょう。例えば、次のような9種類の小目標が考えられます。

  • 英単語100語を覚える
  • 英単語400語を覚える
  • 英単語700語を覚える
  • 名詞の英単語30語を覚える
  • 名詞の英単語100語を覚える
  • 名詞の英単語300語を覚える
  • 1時間で英単語10語を覚える
  • 1時間で英単語40語を覚える
  • 1時間で英単語70語を覚える

 上記の小目標の達成に対して、英単語100語を覚えたら暗記マスターブロンズのバッジを貰える、英単語300語を覚えたら暗記マスターシルバーのバッジが貰えるというような仕組みを作ります。そうすることで、バッジがない状況よりも、学習者の学習時間やパフォーマンスを上げることができます。しかし、小目標の量を減らして難易度を高めにすると、より効果的になります。例えば、次のような小目標が考えられます。

  • 英単語を700語覚える
  • 名詞の英単語300語を覚える
  • 1時間で英単語70語を覚える

 上記の小目標の達成に対して、暗記マスター・名刺マスター・早覚えマスターのバッジが貰える仕組みを作れば、先ほどの9種類の小目標のケースよりも、学習時間やパフォーマンスを上げられます。

大学生の行動に変化が!

 私と早稲田大学の研究グループの研究でも、プログラミングを学ぶ大学生を対象にした実験で、ゲーミフィケーションを活用することで、大学生により高い品質のプログラムを書くように促すことに成功しました。この研究の論文はコンピュータサイエンス教育を扱う著名な国際会議ITiCSEに採択され、ちょうどこの記事が掲載される頃に研究発表する予定です。

 ゲーミフィケーションはソフトウェアの機能として導入されるケースが多いのですが、アナログな方法でも導入できます。例えば、バッジはシールや冷蔵庫のマグネットなどで表現できるでしょう。シールの枚数でポイントやレベルも表現できそうです。兄弟や友人と競争しても良いかもしれません。是非、みなさんも楽しく意欲的に活動できるよう、ゲームの優れた側面を活用してみてください。

ソフトウェアと心の関係

#1 私がプログラミングで“やる気”になれる理由

#2 やる気の出し方、私たちがゲームから学べること

#3 「子どもにご褒美」はOK?NG?5つのチェックポイント

#4  ご褒美よりも有効な「罰」を有効活用するには?

#5  (後日掲載予定)

#6  (後日掲載予定)

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この記事を書いた人

坂本 一憲

WillBooster合同会社CEO. 研究者・教育者・起業家。早稲田大学 研究院客員准教授、国立情報学研究所 客員助教などを歴任。プログラミング教育やゲーミフィケーション、競プロ、ソフトウェアテスト、心理学(自制心・意欲)が好き。ゲームAIプログラミングコンテストも開催している。

 
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