やる気レポート

【連載】中学生を勉強へのやる気にさせる「マスタリー目標」。高校受験でも目標を見失わないために、望ましい“できる”の種類

2019.04.5

【今回のポイント】
・他人との比較ではない「マスタリー目標」が、学力向上への安全で確実な道。
・確かに高校受験は競争! だからこそ冷静に、マスタリー目標に目を向けよう。
・マスタリー目標への道は「自分の能力は努力によって伸びる」というマインドセット。

子どもの勉強は「親の声かけ」で変わる
悩める子ども応援団のみなさまへ

#1 子どもをやる気にさせる! バンデューラの「結果期待」と「効力期待」

#2 子どもの「自己効力感(効力期待)」の育み方。元塾講師の心理学者が解説

#3 中学生を勉強へのやる気にさせる「マスタリー目標」。高校受験でも目標を見失わないために、望ましい“できる”の種類

【教育】【中学生】【高校生】【保護者】



中学生のお子さんは
どんな「できる」を目指すのか

 

これまで、2回にわたって、バンデューラの理論から、「できる」という自信を子どもに持ってもらう方法について考えてきました。

 

でもよく考えると、勉強においてどんな「できる」を目指すのか、つまり勉強の目標には、いろいろなものがあります。

 

皆さん自身は子どもの頃、どんな目標をかかげて勉強してきましたか? 「クラスで一番になる」「テストで100点満点をとる」「数学であの子に負けないように頑張る」「掛け算の九九がスラスラ言えるようになる」「英語の長文読解のスピードを上げる」・・・ こんな感じでしょうか? いろいろありますよね。

 

実は、どんな「できる」を目指して目標するかで、勉強のスタイルや動機づけは大きく変わることが分かっています。そこで今日は、勉強の目標について考えていきたいと思います。

 
 
 

勉強における2種類の目標

 

さっそく結論からですが、勉強におけるいろいろな目標を整理すると、対照的な2つの種類に分けられることが知られています。その2つとは、①マスタリー目標(ラーニング目標)と、②パフォーマンス目標です。では見ていきましょう。

 

①マスタリー目標(ラーニング目標)
一定の技能や知識を身につけることや、昔より成長するといった「できる」をめざす目標です。何かをマスター(習得)することに価値を見出すため、マスタリー目標と呼ばれます。上の例で行くと「掛け算の九九がスラスラ言えるようになる」「英語の長文読解のスピードを上げる」というのが、マスタリー目標のめざす「できる」にあたります。

 

②パフォーマンス目標
他人と比較して相対的に自分が有能であることや、自分の低い能力が露呈しないといった「できる」をめざす目標です。高い遂行能力(パフォーマンス)を周りに示したり、パフォーマンスへの低い評価を回避したりすることを目指すため、パフォーマンス目標と呼ばれます。いうなれば、他人からの評価や勝ち負けを意識する目標だといえるでしょう。上の例で行くと「クラスで一番になる」「テストで100点満点をとる」「数学であの子に負けないように頑張る」というのが、パフォーマンス目標のめざす「できる」にあたります。

 
 
 

勉強における正しい目標とは?――2種類の目標の特徴

 

それでは、どちらの目標が望ましい勉強につながるのでしょうか?

 
 

おそらく皆様の想像されている通り、多くの場合、マスタリー目標の方が望ましい動機づけや勉強スタイルにつながります。

 

マスタリー目標を意識することで、自分の能力を高め成長することに関心が集中されます。このため、落ち着いて知的向上を求められ学習内容をより広く深く理解しようとできます。また、困難な課題にチャレンジしつつ失敗しても粘り強く頑張れ、さらに、不安感を感じにくく、勉強が楽しくなりやすいのです。

 

いいことづくめですね。

 
 

これに対して、パフォーマンス目標は、自分が他の人に比べて優秀である(無能ではない)と示すことに最大に関心があります。このため、どうしても他人の目が気になってしまい、集中して目の前の勉強に取り組むことが難しくなります。

 

特に苦手科目など自信がない場合に、パフォーマンス目標の欠点が露呈することが知られています。「できない子だ」「ダメな奴だ」という低い評価を受けることが怖いため、勉強や試験の際に、「もしできなかったら、どうしよう」と不安を感じやすくなり、失敗しそうな困難な課題を、回避したり先延ばししたりしがちになります。

 

さらに、苦手科目の試験前にあえて部活や遊びに行ってみたり、無茶をしてわざと体調を崩してみたりといった、事前に勉強できない言い訳をあらかじめ準備しておく行動――セルフ・ハンディキャッピング行動さえ見られることが知られています。

 

こんなことをしてしまうのは、「もしちゃんと努力したのに失敗すると、よりいっそう自分の能力の低さがはっきりしてしまう」と恐れるあまり、「初めから努力しない方が(できない理由を作っておいた方が)傷つかずにすむ」という意味で、努力しない方が“安全”となってしまうからだと考えられます。

 

以上のように、マスタリー目標、すなわち他人からの評価や勝ち負けを意識せず、技能や知識を身につけ成長をめざすことが、よい動機づけや勉強スタイルにつながる安全で確実な道といえるのです。

 
 
 

でも、現実は厳しい!!
競争に巻き込まれている
子どもたち

 

しかしながら、勉強には子どもたちが自分の成長を感じにくく、マスタリー目標を持ちにくい側面があることにも、注意しておかなくてはなりません。

 

その中でも私の経験上、最も悩ましい問題――“受験”との関係について、私の考えを述べたいと思います。

 
 

「勉強でマスタリー目標を持ちにくい」最大の理由は、たいていの子どもたちが高校受験・大学受験という形で、競争を意識せざるを得ない環境に置かれているためです。

 

皆さんの中にも、「“マスタリー目標”や“成長”などといっても、しょせんはキレイごとで、結局重要なのはパフォーマンスを上げて競争に勝つことだ!」と思われる方は多いことでしょう。

 

実は、こうした考えも間違いではないと、私も思っています。これは元塾講師としての私見(というよりも信念)ですが、子どもを笑顔にしてあげたいなら、勝負なら勝ちを、受験なら合格を目標にしてあげるべきです。その場合、順位や偏差値の上昇といった“結果”は、子どもを応援する際のリアリティとして、どうしても譲れないと思います。

 

よって、「あいつに勝て!」とか「偏差値65を目指せ!」とのパフォーマンス目標的な声掛けは、直接的で、確かに感情に訴え奮起をうながす効果が高い場合もあります。

 
 

でも、ここで一歩立ち止まって考えていただきたいのです。それでは常に「競争に勝て!」と言うだけで実力は伸びるでしょうか? 特に苦手科目で「どうせやっても勝てない」と思っている場合に、それだけで力が出るでしょうか?

 

思うに、真に重要なのは「“どうやって”、競争に勝つのか」という手段、すなわちマスタリー目標なのです。「どうやったら自分の実力は伸びるのか」「どうしたら成長するのか」という部分がなければ、どんなにパフォーマンスを求めても、結局は気ばかり焦って前に進めないのです。

 

そんな悪循環を、私は塾講師時代の受験期によく見てきました。かわいそうな典型例でいえば、そんな子どもたちは、復習も不十分なまま一所懸命に、次から次へと新しい問題集や模擬試験をどんどん解いていきます。そして、「次はいい点を」「次は高い偏差値を」と、まるでクジ引きのように一喜一憂を繰り返してしまいます。競争の勝ち負けに目を奪われるあまり、自分の実力向上や成長に集中できないのです。すなわち、パフォーマンス目標に目を奪われてマスタリー目標的な観点を見失っている状態です。このままでは実力は伸びず、早晩、「やってもダメだ」と力尽きてしまいます。

 

そんな時が、マスタリー目標的志向の出番なのです。

 
 
 

どうやったら
マスタリー目標を持てるのか?
背後にあるマインドセット

 

では、子どもがマスタリー目標に向かうためには、どうしたらよいのでしょう。スタンフォード大学のドエック博士は、どちらの目標に向かうかを左右する有力な要因として、知能に関する考え方(マインドセット)をあげています。

 

それによると、自分の知能が「努力によって伸びる」と考えているとマスタリー目標を持つ傾向が強まり、自分の知能は「努力しても変わらない」と考えているとパフォーマンス目標を持つ傾向が強まるというのです。

 

「努力によって自分が成長できる」と考えることが、習得や成長を重視するマスタリー目標の暗黙の前提となっているのですね。

 

このことから、われわれ大人が、子どもをほめたりはげましたりする時には、能力の上下よりは、努力による変化、すなわち“成長”を見つけてあげるとよいということがわかります。

 

つまり、「君はできる人だね」「〇〇さんは力があるね」とほめるより、「(今までできなかったのに)君はよくできる“ようになったね”」「 〇〇さんは “頑張って力をつけてきたね”」と、変化を見つけてほめてあげるのです。

 

そのような声掛けが積み重なって、マスタリー目標に子どもを導いてあげることになります。それによって、自信のない苦手科目であっても、よい動機づけや勉強スタイルにつながる安全で確実な道を進むことができるようになります。

 
 

また、すでに深刻な悪循環にはまってしまっている子どもたちへの働きかけとしてオススメしたいのは、大人の側で冷静に「これをこれだけやったらこの子の実力は、この偏差値に上がってくるな」という見込みを立て、子どもには落ち着いてもらって一歩一歩の知識技能の習得に集中してもらうようにすることです。具体的にどういった学習が効果的なのかは、学校や塾の先生に相談していただくのもいいですね。

 

これは、加熱したパフォーマンス目標志向を冷まして、マスタリー目標に着地させる作業といえるでしょう。

 
 

そして、そんな一歩一歩を着実にしばらく踏みしめてもらった後で、子どもにふと頭を上げてもらいます。そして、「アレ? 気づいたらずいぶん成績が上がってきたなあ」「オオッ、あの子より点が取れてた。びっくり!」、そんな風に子どもが感じられたら、やっとひと安心。こんな流れが実際だと思うのです。

 

確かに、受験に“勝つ”ためには偏差値や順位といったパフォーマンスは大切ですが、そのためにはまず、マスタリー目標(どうしたら自分が成長できるか)という考え方に集中してもらうことが大切なのです。これぞまさに、“急がば回れ“ですね。



子どもの勉強は「親の声かけ」で変わる
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この記事を書いた人

鈴木 高志

高知工科大学 准教授。1996年、東京大学文学部卒業。関東圏大手進学塾で中学・高校受験指導に携わる中で、学習における動機づけ(やる気)の大切さを痛感。そこを原点に、筑波大学大学院・人間総合科学研究科にて動機づけの研究を始める。2014年、高知工科大学准教授に就任、現職。教員を志望する学生たちとともに、子どもと子どもを応援する大人の方々を笑顔にする方法を考え続けている。

 
 
 

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