子育て・教育

【小中学生】自ら進んで学ぶ意欲につながる人生の目標とは

2021.01.27

  

【自ら学ぶ意欲につながる目標の持ち方のポイント】
 ・
自内発的人生目標」を持つことが学習意欲・自律性につながりやすい
 ・ 子どもに「内発的人生目標」を意識してもらうためには、その意味やすばらしさを考えるきっかけを与えること

【教育】【中学生】【高校生】【保護者】

保護者として、あるいは教師として、子どもにしっかり勉強をして欲しいと願っていながら、なかなか子どもがやる気を出してくれない……そんな悩みをかかえることは、おそらく少なくないでしょう。
今回の連載では、塾講師としての豊富なキャリアを持ち、現在は高知工科大学で教育心理学の教育・研究に携わる鈴木高志先生に、やる気のメカニズムをふまえた子どもへのアドバイスやサポートの方法をうかがいました。
子どもが「やってみよう!」「できた!」と思えるようになるヒントを紹介していきます。

子どもの勉強は「親の声かけ」で変わる
悩める子ども応援団のみなさまへ

#1 子どもをやる気にさせる! バンデューラの「結果期待」と「効力期待」

#2 子どもの「自己効力感(効力期待)」の育み方。元塾講師の心理学者が解説

#3 中学生を勉強へのやる気にさせる「マスタリー目標」。高校受験でも目標を見失わないために、望ましい“できる”の種類

#4 小中学生の勉強へのやる気を引き出すコツ。「学び」を「あそび」に変えよう!

#5 親子の会話を見直そう!子どもの自律性の育み方

  
  
  

人生目標とは


    

    

今日は、最終回ですので、少し大きなテーマを扱いたいと思います。それは、何をめざして人生を生きていくとよいのかという『人生目標』についてです。

人生の目標といっても、さまざま考えられると思いますが、ここでは、カッサー博士らとそれに続く『人生目標(「アスピレーション」や「将来目標」ともいわれます)』の研究の結果からご紹介したいと思います。

カッサー博士らの研究では、ある種類の人生目標を意識していると、より精神的健康を保ちやすい上に、勉強をする際にも自らすすんで学ぶといった自律性につながりやすいといわれています。

さて、ここで皆さんにクイズですが、次の(あ)~(か)までの6つのうち、より良い『人生目標』を3つ選ぶとどれになると思いますか?

    

    
 
  

2つの人生目標


  

正解は、(あ)(う)(お)となります。カッサー博士らは、人生目標を2つの目標群に分けています。一方は、「(あ)自己成長(自分を知り成長する)」「(う)人間関係(家族・友人や社会を大切にする)」「(お)健康(自分が元気で、健康でいる)」といった目標群で、『内発的人生目標』と名付けられています。

もう一方は、「(い)金銭的成功(お金持ちになる)」「(え)名声獲得(有名になる)」「(か)外見的魅力(かわいい、かっこいい人になる)」といった目標群で、『外発的人生目標』と名付けられています。

  

    

このうち、精神的健康や自律性につながりやすいのは、内発的人生目標であることが分かっています。内発的人生目標を強く意識することは、自分に自信をもち、人間関係に満足し、人生を自分で決められている感覚につながり、低い不安感と高い精神的健康に結びつくことが分かっています。これは、内発的人生目標の方が人間とってより本質的だからと考えることが出来ます。

    

まず、外発的人生目標から説明させてください。外発的人生目標はあくまで、内発的将来目標獲得のための“手段”に過ぎないと考えられます。例えば、「(い)金銭的成功」等が典型的だと思うのですが、人生目標として「将来お金持ちになりたい」と思った時に、よく考えてみれば、お金を持つことそれ自体が目的ではなく、本質は「そのお金を使って、何をしたいのか?」の方ではないでしょうか?。

    

こんな風に、外発的人生目標の、金銭的目標、名声獲得、外見的魅力は、それ自体が最終的目標というよりは「それを使って何かをしたい」という“手段”としての意味あいが強く、その意味で本質的ではないのです。にもかかわらず、ついつい人は、お金だったり、出世だったり、モテたかったりと思いがちになることがあります。

   

このように、“手段”に過ぎない外発的人生目標を過度に意識しすぎて本質的な目的を見失うと、単に「あの人より」お金持ちに、「みんなと比べて」みっともなくないような外見に、などと、他の人と比べてどうか?、という社会的比較を強く意識するなどして、不安感や抑うつ感を感じやすくなるといわれています。

   

これではまさに本末転倒ですね。 それに対して、内発的人生目標は、外発的人生目標に比べて、何かの“手段”というより、それ自体が本質的な最終目標という意味合いがより強いといえるでしょう。

  

例えば、内発的人生目標である「(お)健康」について、「最近、健康のためランニングしているんですよ」と言っている人に、「何のために健康になりたいのですか?」と尋ねる人は、ほとんどいないでしょう。

  

これは「健康」という人生目標が、何かの“手段”でなく、より本質的な目的、最終的な人生目標と言えるからではないでしょうか。このため、これらの内発的人生目標をきちんと意識することは、先に申し上げたような精神的健康につながりやすいと考えられるのです。

  
  
  

人生目標と自ら進んで学ぶ自律性との関係


     

    

ちょっと、人生目標の2分類の話が長くなりましたが、この人生目標の2分類は、勉強にも当てはまり、学習面にも影響するといわれています。すなわち、内発的人生目標を意識して勉強すると、勉強の目標として、他人と比べた勝ち負けを意識するパフォーマンス目標(遂行目標)よりも、学習内容の本質的な習熟や自分の上達を意識するマスタリー目標を意識しやすいといわれています。

  

また、勉強の仕方も、手っ取り早く暗記してしまおうというような質の低いやり方でなく、より幅広い知識と関連づけて理解を深めようといった質の高い勉強につながりやすいことが分かっています。

  

さらには、勉強時の楽しさにつながり不安感も抱きにくいともいわれているのです。以上、まとめると、子どもたちに、自らすすんで学ぶ自律的な勉強を促すためには、内発的人生目標を意識してもらうようにした方が良いのです。

  
  
  

子どもに内発的人生目標を意識してもらうためには


  

    

では、どうやって内発的人生目標を子どもに意識してもらったらよいでしょう。例えば、「(あ)自己成長」を意識するなら、子ども自身で自分の成長を把握し、その意味やすばらしさについて考えてもらうようすればよいのですが、これは、簡単ではないと思います。よって、以下に私の考えるコツをいくつか申し上げようと思います。

  

①子どもの成長を具体的に指摘し褒める

第一に、前回までで申し上げてきたように、子どもが自分の成長に自身で気が付くこと自体が案外難しい場合もあります。そんな場合は、やはり、われわれ大人の側で子どもの成長をしっかり把握しておいて、タイミングよく「ずいぶん○○が出来るようになったね」等と具体的に指摘して励ましてあげることが有効になります。

  

②学びの力が社会で誰かの役に立つことを伝える

第二に、子ども自身の視点からは、「勉強ってなんの役に立つの?」と、勉強の意義を見出しにくいかもしれません。そんな時は「(い)人間関係(家族・友人や社会を大切にする)」という観点から、「勉強をしっかりすると、社会で誰かの(何かの)役に立てるんだよ」と言ってあげるとよいでしょう。

  

例えば、自動車だって、PCだって、身近にある電化製品すべては、人類が「勉強」した結果、誰かが生み出したものですし、新型コロナウイルスという未知のウイルスに対するワクチンが、わずか1年ほどで大量生産されるのは、やはり人間が「勉強」を武器に未知の脅威に立ち向かった結果なのだと思います。テレビをみてそんな場面が流れたら、「しっかり勉強すると、こんなにみんなのためになることが出来るんだね」「学びの力ってすごいね」と、大人が感心してみせるというのはどうでしょうか。

 

医療現場で頑張ってくださっている医師・看護師その他医療スタッフの皆様のご努力をみて、「私も将来、あんな風にみんなのために頑張りたい」と思う子どもさんは多いのではないでしょうか。もっと身近で言えば、悩んでいる友達の相談にのってあげる時には、国語で培った言語能力が役立つでしょうし、家庭生活を営み守ってゆくためには住宅ローンや教育費用の利子計算といった数学的能力が必要となるでしょう。

  

日常の中で、「よくそんな言葉が出てくるね」とか「ふーん、そんな風に計算すると、こっちの方が得なんだね」とか、さりげなく、勉強が役立っている場面に気づかせてあげられたらよいですね。

  

③子どもが本当に欲しいものを気づかせてあげる

第三に、逆に、勉強(仕事)は「お金」のためだと割り切って、冷めてしまっている子どもさんもいると思います。そんな時は、お金は何かを得るための「手段」であって、本当に肝心な、そのお金で何を得たいのかという本質的な「目的」、言い換えれば、子どもが本当に欲しいものに、気づかせてあげたいですね。

  

例えば、「いっぱいお金を稼げたとして、それで何をしたいの?」や「もし宝くじにでも当たって3億円くらい手に入ったら何をしたい?」と尋ねてみるのはどうでしょう。

  

おそらく、いろいろなぜいたく品が欲しいとか、世界中を旅行してみたいとか、いろいろな夢が出てくるでしょう。そうしたら、そこでさらに「何のために、そのぜいたく品が欲しいの?」や「世界中を旅行して何をしてみたいの?」と、さらに尋ねてみてほしいのです。

  

そうすると、「友だちに、そばにいて私の話を聴いてほしいから」、「いろいろな場所に行って色んなものを見たり聞いたりしたいから」、「いろんな人と出会いたいので」または、単に「おもしろそうだから」等というように、結局、お金の先に、本当に大切な目的や目標が見えてくる場合が多いのではないでしょうか。

  

そうしてやがて、「自己成長(自分を知り成長する)」「人間関係(家族・友人や社会を大切にする)」「健康(自分が元気で、健康でいる)」といった内発的人生目標にたどり着けたら理想的だと思います。

  

④周りの大人たちが内発的人生目標を大切にする

第四は繰り返しになりますが、そんな風に子どもを導いてあげるためにも、まず、私たち大人自身が、内発的人生目標を意識しながら大切に生きてゆきたいですね。

     

  
  
  

さいごに


  

以上、これまで6回にわたり悩める子ども応援団として、みなさまにお話しさせていただきました。今回で終了となりますが、今後とも子どもさんと親御さんの役に立てるように頑張って参りたいと思います。

  

これからも、ぜひ皆様と一緒に、子どもを応援し続けさせてください。これまでお読み下さった皆様に改めて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

  
  
  



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この記事を書いた人

鈴木 高志

高知工科大学 准教授。1996年、東京大学文学部卒業。関東圏大手進学塾で中学・高校受験指導に携わる中で、学習における動機づけ(やる気)の大切さを痛感。そこを原点に、筑波大学大学院・人間総合科学研究科にて動機づけの研究を始める。2014年、高知工科大学准教授に就任、現職。教員を志望する学生たちとともに、子どもと子どもを応援する大人の方々を笑顔にする方法を考え続けている。

 
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