仕事・働き方

【華道家・大塚理航さん】生け花未経験だったのに250年の歴史がある流派を担うホープになった

2022.08.4

大塚理航さん タイトル画像
大塚理航さんは生け花「古流かたばみ会」の次期家元として、またアーティストとしても活躍する若手華道家。江戸時代からの伝統を受け継ぎながら、従来の価値観に捉われない作風を追求。生け花文化の普及に努めています。そんな大塚さんが生け花を始めたのは社会人になってから。流派の家元である父を持ちながらも、長らく生け花以外のことに目を向けてきました。しかしその経験が今、華道家としての自分の在り方に活きているといいます。

 


 

大塚理航さん 近影

大塚理航(おおつか・りこう)

華道家。「古流かたばみ会」副家元。1991年東京都生まれ。2017年に生け花を始め、古流九世家元 大塚理司に師事。2018年より各種花道展へ出展。アーティストとしての活動の幅も広げ、ペイントアートや服飾等、様々なジャンルとのコラボレーションも精力的に行う。「全日本いけばなコンクール」では最優秀新人賞や文部科学大臣賞など3年連続受賞。InstagramやYouTubeといったSNSでの発信にも積極的で、時代に合った価値を創造している。従来の価値観に捉われない作風と生け花の普及・研鑽に努める若手華道家。

流派ホームページ:生け花 古流かたばみ会
Instagram:華道家 大塚理航
YouTube:りこう先生

 

生け花の魅力は植物の表情を自分の感性で引き出すこと


  

――大塚さんはInstagramにたくさん生け花作品を発表されていますよね。いずれも美しく華やかで、癒されます。

 

大塚理航さん Instagram作品
Instagramにアップしている作品、「杜若の五花七株いけ」

 

大塚理航さん Instagram作品
「煉獄」というタイトルの作品。その他、日々の作品はこちら

 

ありがとうございます! Instagramにはこのような作品を週に3回ほどアップしています。
お花って見ていると心が落ち着きますよね。生け花って本当にたくさんの魅力であふれているんです。一例として植物同士の個性を尊重しながらも「和」の大切さが学べたり、生花を扱ううえで生き物を慈しむ優しい気持ちが生まれたりして、豊かな心を育むことができるんですよ。

 

――素敵ですね。しかし生け花と言えば敷居の高いイメージがあります。花を生ける行為がなんだかとても緊張感のあるような…。

 

たしかに「命を頂いている」という意識は常に持っていなければならないと思います。でも、だからこそ、花を生けることには大きな魅力があります。とくに生け花の場合は生けるうえで植物一本一本の表情というのを非常に大切にするんですね。その集中して自然と向き合う時間が、ひいては自分と向き合うことに繋がるんです。

わかりやすいようにフラワーアレンジメントとのちがいを挙げてみましょうか。フラワーアレンジアレンジメントは西洋で発展した文化で、自然を支配の対象とみなす自然観が表れています。一方、日本独自の文化である生け花は自然に対して「共生」「共存」といった価値観が含まれています。
 
庭園づくりにそれがよく見て取れまして、西洋庭園では「トピアリー」と呼ばれる、植物を動物などの形に刈り込む造形表現があったり、左右対称に植木を配置する特徴があったりするんですよね。一方、日本庭園では木や石や池、1つと言って左右対称のような配置がない。これはベルサイユ宮殿と銀閣寺を比較すると一目瞭然かと思います。

生け花はこの日本人らしい自然観に基づいて発展してきた背景がありまして、精神を研ぎ澄ませながら植物1本1本が輝く向きや角度といった表情を引き出しながら生けるんです。

 

大塚理航さん 大作
華道家の仕事は教室やワークショップを通した指導の他、舞台や映画ドラマ・イベント・エントランスの装花装飾、CMやTVの撮影、メディアでの監修など多岐にわたる。写真は「ホテル雅叙園東京」の展示イベント「和のあかり×百段階段2021」で生けられた作品。(写真:本人提供)

 

――人工的に美しくするアレンジメントに対して、日本の生け花は花と対話しながら作り上げていくんですね。

 

こうした植物と対話する時間が私はすごく好きで。気がついたら夜中の3時とか5時まで生けていた、なんてこともしょっちゅうです(笑)。

 

――それはすごい(笑)。

 

魅力を語り始めると止まらないのであと1つだけ(笑)。生け花を通して四季折々の花にふれるようになると、日常の風景の見え方がガラッと変わってくるんです。四季の移り変わりをより身近に感じるようになったり、何気なく通り過ぎていた道端の花に気がつくようになったり。暮らしが彩り豊かになるといいますか。

 

生け花への興味はほとんどなかった


 

――「古流かたばみ会」は大塚さんのお父さまが家元でいらっしゃいますね。小さい頃から生け花は身近でしたか?

 

生け花 古流かたばみ会

 

いえ、身近ではなかったです。というより私が花に対して意識をしてこなかったのだと思います。お恥ずかしながら、今思えば「家に花がよく飾られていたな」程度です。また、以前は祖母の家と流派の教室が同じ建物にあったので、祖母の家へ遊びに行ったときに先生方とすれちがったりした記憶はあるんですけど、自分でやることは全然なくて。

父が教室で生けているのを見たときにはちょっとやってみたいと思ったこともあったんですが、父は仕事としてやっていますし、その横でお遊びでやるわけにはいかなかったんですよね。父のほうもやらせる気はなかったようで。

 

――芸事のお家だと幼いうちから厳しく教育されるものだと思っていましたが、ちがうんですね。

 

私に流派を継がせる気はなかったようなんです。というのも父は生け花の全盛時代を知っている人間なので、趣味が多様化するなかでこの道一本でやっていくのは厳しいと、あえてふれさせなかったみたいです。

私から「やってみたいな」と口にしたこともあったんですけど、そのときも「ふーん」とあしらわれてしまいました(笑)。

 

大塚理航さん インタビューカット

 

――きっとそれも親心だったんでしょうね。背負わせないようにと。

 

そうかもしれませんね。そのうち小中学校ではサッカー、高校ではハンドボールと運動のほうに夢中になり、大学時代もバイトやサークル、友人との付き合いなどである意味忙しかったので、生け花は頭から消えていました。

 

――では生け花に再び関心を持ったのは大人になってから?

 

ですね。大学卒業後は起業してひたすらパソコンと向き合う日々を送っていたのですが、事業がひと段落したら心を落ち着かせる何かをしたいなと思っていました。そこで趣味や習い事でいいのは何かと考えたとき、生け花が浮かんだんです。

 

――ちょっと待ってください、大学を卒業してすぐに起業されたんですか?

 

そうなんです。きっかけは東日本大震災でした。大学2年になる少し前に震災が起こり、生き方について深く考えるようになったんです。それまでは漠然と就職することを考えていたんですけど、今息を吸って吐いて、そうやって生きていることが奇跡のような気がして「後悔しない生き方や選択をしたい」と思うようになりました。

もちろん就職したって充足感を得ることはできると思います。でも私は自分の力で何かしたいという気持ちが大きくなっていって。

 

――どんな事業をされていたんですか?

 

パソコン1台でできることをいろいろとやっていました。ブログをやったり物販をやったり。ただ、思えば当時は何を始めるにも明確な意思や目標を持ってやっていたわけではなく、大学を卒業したばかりでお金がないので、初期投資がかからないものをひたすらやっていたんです。だから利益が出るようになっても楽しくなくて、事業が落ち着いたタイミングでパソコンから離れる時間がほしくなり…。

 

――それで生け花を始めることに。でもどうして生け花だったんでしょう?

 

ずっとパソコンにかじりつく生活だったので、自然を求めていたんだと思います。じつは昔から自然にふれるのが大好きで。子どもの頃はよく父に連れられて、春は山菜採り、夏は川や海へ釣り、秋は紅葉を見に山登り、冬は雪山へスキーに行っていて、常に自然が、そして四季が隣にいたんです。生け花をやってみたかったのも、自然にふれたい気持ちからでした。

 

生け花と無縁で過ごしたことがのめりこむ力になった


 

――生け花を実際に始めてみて、いかがでしたか?

 

子どもの頃のワクワクした気持ちがよみがえったようでした! 自然のものは機械とちがって形や色が同じものはひとつとしてなく、それぞれの花の表情を見ていくのが、またその表情がよく見えるように生けていくのが面白くてたまらなくて。しばらく自然と無縁の日々を過ごしていたこともあり、「こんなに面白いのか」と感動を覚えるほどでした。

 

大塚理航さん 初期作品
生け花を始めた頃の作品。(写真:本人提供)

  

――ただ、始めたときは習い事の意識だったんですよね?

 

ええ。とくに「この道でやっていけたら」とかは考えていなかったです。父も華道の仕事をしながら合気道を習っていたので、自分も仕事とはちがう時間を持ちたいと始めただけで。でものめり込むのにそう時間はかからなかったです。パソコンと向き合うより、植物と向き合うほうが圧倒的に楽しいと感じて、しだいに生け花をライフワークにしたいと考えるようになりました。

教室へ通う回数もだんだん増えていき、「この道で生きていく」という覚悟を決めてからは、月に2~3回通っていた父の教室に加え、別の先生にも弟子入りさせていただき、合わせて月に8〜10回ほど生け花に時間を取るようになりました。

それからまわりの先生方が温かく迎えてくださったことも、覚悟を決める後押しになりました。「この道で生きていく」と自分で決めても、不安でいっぱいだったんです。だって小さな頃からコツコツやっていたわけじゃないのに、突然「生け花やります」「後を継ぎます」って、長年鍛錬を積み重ねてきた先生方からしたら「なんだぽっと出の若造が」という感じですよね(笑)。でも、いざ教室へいくと「ついに始めましたか」「継ぐんですね」と優しく声をかけてくださって。今は、受け入れてくれてくださったことに感謝しつつ、一日も早く先生方より上手くなることが、流派の上に立つ責任だと思っています。

 

――お父さまも賛成されて?

 

いえ、父は「そんなに甘くはないぞ」と言っていました(笑)。

 

――変わらず厳しかったのですね。

 

でも反対されることはなくて。きっと少しずつでも実力をつけようと努力していた姿勢を受け止めてくれたんじゃないかなと思います。

 

――趣味じゃなくプロになろうと思ったら、それなりの実力が要りますよね。上達するための工夫はどんなことをしたんですか?

 

ほぼ毎日3~5杯、花を生けるようにしました。これはお世話になっていた先生に、「1日3杯生けると月2回お稽古する人の45年を1年でまかなえる」と言われたからなんです。そのお言葉通り毎日3〜5杯を、結局2年間続けました。それがまた楽しくて楽しくて苦じゃなかったんですよね。改めて天職だなって。そこまでくるとお花を生けることがライフワークになってくるので今でも定期的に生けてInstagramにアップしています。単純に計算すると生け花を始めてからこの4年間で、月に2回お稽古する人の100年分は生けているかと思います(笑)。

 

大塚理航さん コンクール作品
生け花を始めて1年後の2018年から全日本いけばなコンクールに応募し、これまで3年連続受賞。写真は2021年「文部科学大臣賞」を受賞した作品。(写真:本人提供)

 

――年数の換算もすごいですが、作品の数もすごいですよね。毎回ちがう作品を生み出すのは大変じゃなかったですか?

 

全然大変なことはなかったです。もちろんある程度パターン化してしまったものもあるんですけど、作品の表現そのものが似通ることはありません。植物が異なれば作品の顔もちがってくるので。

 

――花を生けるうえでどんなときにやりがいを感じますか?

 

その植物の持つ新しい魅力や、表情を引き出せたときはやっぱりうれしいです。

 

――今までにない作品を生み出すにはきっと勉強したりリサーチしたりといったことが大事なんでしょうね。

 

自分はまだまだなので、常に勉強、勉強です。いろんな方の作品を時間が許す限り直接観てまわるようにしています。最近は建築や造形作品、現代アートなど生け花以外の分野も刺激を受けるので意識しています。

そういえば、まったくちがうジャンルに飛び込んでいけるのは私の強みかもしれません。起業したときも、いろんなジャンルの本を読んで勉強していましたし、就職した友人に話を聞いたり、異業種交流会に参加したりもしました。

 

――実際に「服飾」や「絵画」など、異分野とコラボレーションした作品もありますよね。

 

大塚理航さん コラボレーション作品
ファッションデザイナーとのコラボレーション作品。(写真:本人提供)

 

大塚理航さん コラボレーション作品
ペインターとのコラボレーション作品。(写真:本人提供)

 

幼い頃から生け花をやってきたわけではないことから、「華道はこうあるべき」という固定観念がないんですよね。だから抵抗感なくチャレンジしようって思えて。そう考えると、最初から生け花一本じゃなくて、いろんなことをやってきてよかったですね。

 

生け花にたどり着くまで回り道してよかったと言える今


 

――生け花が身近にあったのに長らくふれることはなく、いわゆる回り道をされましたよね。でも今はそれが良かったんでしょうか?

 

生け花を始めるまでは、自分がどこに向かって歩いているかなんてわからなかったので回り道している感覚もなかったんですけど、結果的にいろいろやってきてよかったと思っています。ただしこれって、その瞬間その瞬間を全力で挑戦してきたから言えることなんです。一生懸命やったから、そのときに得たいろんな考え方や技術が今に活きているんだと。

 

――例えばどんなことが今に繋がっていますか?

 

まずはIT関連で起業した経験が、今の時代に合った発信をするための力になっているでしょうね。InstagramやYouTubeで生け花の魅力を広げたいと思っても、そもそもITリテラシーや技術がなかったら難しかったかもしれません。その点、私はパソコン1台でできることを片っ端から勉強して実践していたので、生け花を発信しようと思ったとき、さほど抵抗感もなく始めることができました。「古流かたばみ会」のホームページも自分で作ったんですよ。

 

YouTubeでは人に話したくなる豆知識や、初心者でも簡単にチャレンジできるテクニックを公開。

 

――全盛期に比べ生け花文化が下火になりつつあるという危惧があるからこそ、発信は大事ですよね。もし生け花しかやってきていなかったら、広める活動はもっと大変だったかもしれないですね。

 

おっしゃる通り、趣味が多様化したり情報が氾濫したりしてすぐに埋もれてしまう現代において、発信するということはすごく大事なんです。とりわけ生け花というのは日本の誇れる素晴らしい文化なので、そのことを知ってもらえさえすればいい。その手段を模索しながらも、すぐに着手できる力があったことはよかったですね。

そうそう、精神的な面でもいろんな経験を積んできてよかったと思うことがあるんですよ。先ほど、新しいことにためらわず挑戦できるチャレンジ精神が私の強みだと話しましたが、今思えば、その気質は大学時代に自転車で日本を野宿しながら縦断したことで培われたのかなって!

 

――えっ自転車で日本縦断?!

 

大学3年の夏のことでした。身近にそれを成し遂げた先輩がいて、話を聞いて面白そうだと思って(笑)。自転車が趣味だったわけでもないんですけど、「自分が動力になって進みながら自然と一体となる魅力」に惹かれて、自然遊びをするような気持ちでやることにしたんです。

でも実際やってみるとかなり過酷な旅でした。雨や風、肌を焼くような太陽、あとは日本の地理の特性上アップダウンも多くて苦しかったです。ただ、雨上がりに見せる虹や日本海に沈む夕日、満天の星など地球の美しさにもふれて、改めて自然の偉大さと畏怖みたいなものを強く感じました。何より、どんなにしんどくても、ひとこぎさえすれば確実に前へ進めるんですよね。その積み重ねがゴールへ繋がっていることを改めて実感し、何事もまずは始めてみること、一歩ずつ進んでいけば目標を達成できること。ある意味「根拠のない自信」みたいなものがつきました(笑)。

 

大塚理航さん 自転車旅 地図
旅を記録した地図。余白には旅中お世話になった人の応援の言葉がびっしりと。鹿児島から北海道まで3,000kmを縦断した。(写真:本人提供)

 

この経験があるから、起業したときも、華道家として生きていこうと決めたときも、同じように一歩一歩進んでいけばいいって思えたんですよね。

 

――そのときの頑張りが今の大塚さんを作っているんですね。

 

何事も本気でぶつかれば無駄にはならないと思います。そうだ、せっかくなので何か植物で…木で例えてみましょうか。

人生を木に重ねてみると、様々な経験は根の部分に当たると思っています。あらゆる場面で積み重ねた経験は地面に張り巡り、自分という植物を支える根になる。そして経験を積むなかでブレない「信念」(私の場合は生け花)という芽をだして、今度はそれを中心に夢や目標が枝葉として伸びて自分だけの木を形成していく。

こうイメージしたら、信念を見つける以前の経験だって自分を育てる大切な要素ですよね。私は、生け花関係は地上部、生け花以外を根として捉え、まったく生け花に関係がなくても根をたくさん張ろうと考えています。

 

大塚理航さん 木のイメージ
大塚さんが手描きした木のイメージ。

 

――このイメージでいくと、夢や目標の達成は枝葉に花を咲かせることになりますね!

 

そうなりますね(笑)。それは人生に彩りを添えるものなのかもしれません。自分だけの花を咲かせていくイメージで生きていきたいですね。結果的にその花を見た方が「綺麗だな」なんて感じてもらえたら幸せです。

あとせっかくなので、最後にもう1つお伝えしたいことが。何事もやってみることが大切だとお話ししましたが、とはいえ最初の一歩って踏み出すのが難しいですよね。人は基本的には失敗したくない生き物ですから。そこで「Once done is half done」という言葉を紹介させてください。

これは「一歩踏み出せば半分終わったも同然」って意味なんです。未知の領域にはなかなか足を踏み入れることができないかもしれません。でも勇気を出して一歩踏み出せば、たとえ失敗しても全部「経験」になる。芽は出なかったとしても、確実に自分を支える根や肥やしになると思うと気持ちがラクになりますよ。

 

――ありがとうございました!

 

 


 

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この記事を書いた人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。子どもの遊びや文化に携わる人に関心が高いです。JPIC読書アドバイザー27期。



 
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