仕事・働き方

【みそソムリエ・小野敬子さん】みそ嫌いだったのにみそ伝道者になった理由は、おいしいものへの強い探求心があったから

2022.07.14

みそソムリエ 小野敬子さん
みそソムリエとしてみそ作りワークショップを行なう小野敬子さん。かつて小野さんはみそが嫌いでした。それなのになぜ、みその伝道者になったのか。嫌いなもののなかにも「好きのかけら」を見つけ、仕事もプライベートも楽しく豊かになった小野さんの歩みを追います。

 


 

小野敬子さん みそ作りワークショップ

小野敬子(おの・けいこ)

みそソムリエ。1979年生まれ。東京都出身。姉の小麦アレルギー発症を機に、米粉や米こうじに興味を持つ。こうじを探し求めるうちに、手作りみそとこうじの専門店「井上糀店」に出会い、みそ作りを行なうように。2013年、「みそソムリエ認定協会」のみそソムリエ資格を取得。手作りみその魅力を伝えるワークショップや、レシピ監修などを行なっている。

みそソムリエ小野敬子オフィシャルサイト

 

みそ作りは意外と簡単。誰でも作ることができる


  

――小野さんは手作りみその魅力を伝える活動をしているとのことですが、みそ作りって難しそうですよね。

 

全然難しくないですよ!
材料は大豆とこうじと塩だけ。工程も大豆を煮る、つぶす、こうじや塩と混ぜる、と至ってシンプルです。もちろんそれなりに時間はかかりますが、やることは意外と少ないんです。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
みそ作りワークショップの様子。(写真:本人提供)

 

――でも、大豆のつぶし方とかこうじの混ぜ方に気をつけないと、おいしく作れないのでは?

 

大丈夫、材料がいいものであればおいしいみそを作ることができますよ。あまり失敗がないのがみそ作りの特徴なんです。

気をつけるポイントを強いて言うなら、大豆をきちんとゆでることですね。手でつぶせるようにしっかり煮ることが大事です。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
みそ作りワークショップの様子。(写真:本人提供)

 

――材料をそろえてきちんと手順を踏めば、みそって作れてしまうんですね。

 

そうそう、熟練した人だけがおいしく作れるというわけではないんです。やろうと思えば、誰でも作れるんですよ。

ちなみに、味に個性をつけるのは手の常在菌。材料を素手でつぶしたり混ぜたりすると、手の常在菌が混ざって味わいが深くなります。今はコロナで常在菌を活かすことは難しいですが、人によって全然ちがう味ができる面白さがあることは知っておいてほしいです。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
仕込み後のみそ。ここから熟成させる。(写真:本人提供)

 

みそに興味なかったけど、軽くものづくりのつもりでふれてみた


 

――今でこそみそのプロフェッショナルである小野さんですが、かつてはみそ嫌いだったとか?

 

そうなんですよ(笑)。子どもの頃、家で出されるみそ汁は具だけ食べて汁は残していて。

父が食事には絶対みそ汁が要るという人で、毎度食卓にみそ汁は出ていたんですが、母がみそ選びにこだわっていなくて、スーパーで一番安いものを買っていたんですよね。

そのせいかあまりおいしさを感じていなくて、私にとってみそはただしょっぱいものという印象しかありませんでした。それより、「パンとかパスタ、ラーメンのほうが断然おいしい」って思っていて(笑)。

 

――みそには全然興味はなかったんですね(笑)。

 

もう全然(笑)。大人になってからも興味を持てなくて。結婚して長野に移り住んだのですが、信州みその聖地にいながら、離婚して東京に帰るまでの8年間、一度も地元のみそを買ったことがありませんでした。

 

――そこからどうしてみそが身近になったんですか?

 

姉がアレルギーを発症し、塩こうじに興味を持ったことがきっかけでした。

姉も私と同じように「パン・パスタ・ラーメンが大好き!」な人だったんですが、30歳のときに果物アレルギー、35歳のときに小麦アレルギーを発症して、好きなものがほとんど食べられなくなってしまったんです。

姉とはよく一緒に食べ歩きをする仲だったので他人事じゃなく、私も食生活を見直すようになりました。小麦粉を米粉に変えたり、健康のために発酵食品を調べたり。その一環で塩こうじを知り、地元・町田の専門店「井上糀店」を訪れて。

 

――井上糀店は手作りみそとこうじの専門店だそうですね。そこでみそとの出会いが?

 

手作り味噌と糀(こうじ)の専門店 井上糀店

 

ええ。お店で「塩こうじを作りたいから、こうじをください」と言ったら、「塩こうじを作るのはいいけど、うちのみそは食べたことあるの?」と社長さんに試食を勧められて。そのときはまだ、みそにまったく興味がないので、「いや、あの、大丈夫です…」って言ったんですけど、無理やり食べさせられちゃったんですよ(笑)。

 

――お味はどうでしたか…?

 

それがすごくおいしくてびっくり! 全然しょっぱくなくて、むしろ甘かったんです。それにいろんな味がして深みがあった。とにかく今までに食べたことがないと驚いて、試食した商品はすぐ「買います」と言いました。

 

――衝撃の出会いだったんですね。

 

で、その「買う」と言ったとき、また社長さんの押しが強くて。「自分で作ったほうがもっとおいしいよ!」って、みそ作りキットを半ば強制的に買わされちゃったんです。漬物バケツみたいな黄色い容器付きの5㎏セットを(笑)。

 

――5㎏、けっこう本気なセットですね(笑)。

 

そうでしょう?(笑) でも私、みそには興味なかったんですけど、料理とかものづくりとかは好きだったんです。子どもの頃はお菓子作りをよくしていて、将来はパティシエになりたいと思っていたくらい。だから、いったん「うっ」とはなったものの、やってみようかなと。

 

――初めてのみそ作りは楽しかったですか?

 

最初は「豆をゆでるにはどの鍋を使えばいいんだろう?」など戸惑いました。ただ、そのときちょうど子どもたちが夏休みだったので、「ママ、みそを作るんだけど一緒にやらない?」と子どもたちを巻き込むことにしまして(笑)。おかげで、「こうすればいいんじゃない?」など言い合いながら、楽しく取り組めましたね。

 

おいしいものが自分で作れるお得感を伝えたくてみそソムリエに


 

――その後、みそへの関心が高まっていったんですか?

 

すぐにのめりこんだわけではないんですよ。みそは作ると食べられるまでに半年かかりますから、その間は買ったみそを食べていて。で、半年経った頃に「そろそろ…」と自分の作ったみそを食べてみたら、またおいしくてびっくり!

この頃からですかね、みそが気になりだしたのは。「大豆とこうじと塩だけなのに、なんでこんなにおいしいんだろう?!」って思って。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
のちに小野さんがまとめたみそのおいしさの秘密。(ワークショップテキスト「作ってみよう手前みそ」より)

  

――おいしさを作る要素が気になったんですね?

 

ええ。それで、みそをおいしく作れた報告をしにまた井上糀店に行ったとき、素材について詳しく尋ねてみたんです。そしたら「(みその要であるこうじを)うちで作っているから手伝ってみる?」という話になり、井上糀店に通うようになりまして。

 

――お客さんだったのに手伝うことになったなんて、すごいですね。

 

しかも最初はボランティアだったのに、だんだん通う頻度が増えていったことから途中でアルバイトにしてもらえたんです。最終的には元やっていた仕事をやめてフルタイムで働くようになりました。

 

――それだけみその世界にのめりこんでいった小野さんもすごいです。みそ嫌いだったのに!

 

もともと食べることが大好きで、おいしいものを求める気持ちが強かったんですよね。先ほど子どもの頃はお菓子作りが好きだったと話しましたが、その後もずっと食に関心があって。高校時代は飲食系アルバイトを10か所以上経験したんですよ。

 

――お姉さんとよく食べ歩きをしていたというお話もありましたね。

 

食への関心が高かったからこそ、おいしいみそに出会ったことで一気に気が向くようになったんですよね。

それに当時は必死に子育てをしていた最中でしたから、母親として「子どもたちにいいものを食べさせたい」という想いもあり、余計にみそ作りに打ちこんでいったんです。

 

――そののめりこみの延長で「みそソムリエ」資格を取得しようと思われたんですか?

 

そうですね。井上糀店では地元の方や保育園の子どもたちに向けてみそ作り教室をやっていて、私もお手伝いをしていたんですが、しだいに私のなかで「みそ作りを広めなくてはいけないんじゃないか」と、誰にも頼まれてないのに使命感が大きくなっていったんです。

 

――どうしてそのような気持ちに?

 

ひとつは、「自分と同じようにみそが好きじゃなかった人は意外といる」と気づいたからですね。みそ作り教室の最中、「じつは、みそ好きじゃなかったんですよね」とカミングアウトすると、わりと「私も、私も」とおっしゃる方が多くて。でもみなさん、自分で手を動かして作ったみそは「おいしい」って言ってくださるんですよ。だからみその魅力に気づいていない人たちに広めたいなと。

またひとつは、「自分の手を動かせばこんなにおいしいものが食べられるなんてすごくお得なんじゃないか」と感じていたからです。おいしいみそは歴史ある味噌蔵などに行けば手に入るでしょうが高いですし、かといって自分好みのみそを、スーパーにある商品を片っ端から試して探すのも大変ですよね。だったら自分のために自分で作ったほうが、満足度が高いと思ったんです。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
みそソムリエ資格取得後、井上糀店から独立してワークショップをやるように。(写真:本人提供)

 

――おいしいものを食べるのが好きだったからこそ、自分でそれを生み出せるところに良さを感じられたんですね。

 

やっぱり初めて自分でみそを作ってできあがったときの感動が大きかったんですよね。「自分に合ったおいしいみそを自分の手で作ることができるんですよ!」ということを広めたくなったんです。

今ではみそ作りを広めるだけでなく、そもそもおいしいみそへの出会いのきっかけがもっとあるといいと思って、地域の飲食店さんに私の仕込んだみそを使ってもらったり、八百屋さんに置いてもらったりしています。

 

興味がなくても嫌いなものでも好きのかけらが潜んでいる


 

――改めて、小野さんは試食ひとつで人生が変わりましたね。

 

本当に(笑)。まさか嫌いだったみそを広める立場になるとは。

でも最近テレビで「日本茶が嫌いだったのに今は日本茶の先生になっている人」を見て、子どもと「何かにのめりこむ人って最初は嫌いなんだね」って話をしたんです。

 

――最初は嫌いでも好きになることがある?

 

嫌いってことはそれだけ何かこだわりがあるということだと思うんです。私は食べることが大好きだったからこそ、しょっぱいだけのみそが受け入れられなくて、でもおいしいみそもあることがわかったら途端に夢中になって。その過程には料理やものづくりが好きだったことも作用しています。

だから一見これ好きじゃないな、興味ないなってことでも、どこかに好きに転じる要素があるんじゃないでしょうか。嫌いだととっつきにくい感じもあると思うんですけど、そのハードルももともと好きだったことの枠にはめれば下げることができるんじゃないかなと。

 

――好きになるかけらを見出すんですね。

 

そう、かけら! 見つけられるといいですよね。

「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますが、ちょっとしたことから好きの気持ちを持てると一生懸命になれますし、熱心に磨いていくことで学びが深まって人生も豊かになると思います。

 

――小野さんもみそを好きになれてよかったですか?

 

そうですね。みそって「医者いらず」と言われるくらい健康効果の高い食べ物ですし、家族の健康のためにも取り入れることができてよかったです。でもそれよりも、とにかくおいしいから、おいしいものを日常的に家族と楽しめることがうれしいですね。

そういえば子どもが小学生のとき、「学校の給食のみそ汁より、うちのほうがおいしい」って言ったことがあったんですが、そのときは「よし!」って心のなかでガッツポーズしました(笑)。

 

小野敬子さん みそ作りワークショップ
ワークショップではみその栄養価についても伝える。(ワークショップテキスト「作ってみよう手前みそ」より)

 

――みそは親子のコミュニケーションにも一役買っていますね(笑)。

 

そうそう、その点でもみそはコスパのいいサプリだと思っていて。特別なことをしなくとも、毎日おいしいみそ汁を食卓に出すだけで家族が明るく元気でいられる。

目に見えてわかる成果はないかもしれませんが、そうした些細な幸せを、みそを通じて多くの人に感じてもらいたいですね。そうやってみそライフを楽しむ人が増えれば、みそ文化も発展するはず。今は「文化を形成する」ことを意識して日々活動させてもらっています。

 

――今後のご活躍も楽しみにしています!ありがとうございました!

 

 


 

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この記事を書いた人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。子どもの遊びや文化に携わる人に関心が高いです。JPIC読書アドバイザー27期。



 
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