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【火縄銃男子・佐野翔平さん】火縄銃をきっかけに日本文化を残す使命に目覚め失敗を恐れず進む現代の武士

2022.05.12

火縄銃男子 佐野翔平さん
「火縄銃男子」こと佐野翔平さんは、火縄銃射撃の競技活動をベースに、日本文化を伝えるさまざまな取り組みを行なっています。火縄銃演武や、伝統技術を用いた商品の開発・販売をする「伝統屋 暁」の運営。火縄銃との出会いから、夢や目標が広がっていった過程と、その原動力をうかがいました。

 


 

佐野翔平さん

佐野翔平(さの・しょうへい)

火縄銃射撃競技選手。「伝統屋 暁」代表。1990年生まれ。静岡県出身。中学生の頃に地元のおまつりで火縄銃演武を見たことから歴史や日本文化に興味を持つ。2013年より火縄銃演武等を行なう「駿府古式砲術研究会」に参加。2014年、全国火縄銃サミットにてギネス記録認定。演武から射撃競技へと活動の幅を広げ、2019年「第37回中島流古式砲術射撃大会」、2022年「第42回中島流古式砲術射撃大会」優勝。現在は脱サラし、フリーランスとしてさまざまな日本文化発信を行なう。

ホームページ:火縄銃男子 佐野翔平 official Site
YouTube:火縄銃男子・武士の生活
伝統工芸品オンラインショップ:伝統屋 暁

 

火縄銃との出会いは中2。歴史を身近に感じて心が動いた


  

――現代に火縄銃を扱う方がいると知って驚きました!まずはその火縄銃を用いた活動について教えてください。

 

火縄銃を用いた活動は大きく分けて、競技と演武の2つがあります。
まず競技というのは、「実弾射撃競技」です。一定の距離(※)を取って置いた標的に向けて射撃し、得点を競います。標的の黒い丸に、持ち弾(※)をできるだけ命中させることで、高い点を獲得していくんです。

 

※距離と持ち弾は大会・種目により異なる。

 

――弓道のようなものなのですね。佐野さんのこれまでの成績は?

 

まだまだ勝率は高くありませんが、2019年と2022年に「中島流古式砲術射撃大会」という国内大会で優勝しました。
2022年開催の第42回大会では、持ち弾7発すべてを標的に命中させることができました。標的までの距離は約27m(15間)で、立った姿勢で撃つ「立射」の種目において、直径約12cmの黒点にすべて撃てたんです。

 

火縄銃競技
7発命中した的。この大会では「鉄砲名人」との称号を得た。(写真:本人提供)

 

――すべて命中ってすごいですね!

 

座って膝を台のように使用して撃つ「膝射」では2発しか命中させることができなかったので、次はもっと命中させたいなと練習をがんばっています。最終的な目標としては、世界大会で優勝することです。

 

――演武のほうはどのような活動ですか?

 

地域の時代物のおまつりなどで、戦国時代の鉄砲隊に扮し、火縄銃の発射実演(空砲)をしています。
競技では的に当てることが第一の目標なので無駄な動きはなるべく省いていくんですが、演武のほうはむしろひとつひとつの動作にこだわって格好よく見せることを意識しています。構え方や目線、銃を扱う仕草などに気を遣って撃っているんですよ。

 

火縄銃演武
火縄銃演武の様子。(写真:本人提供)

 

――当時の格好で撃つというのは迫力がありますね。佐野さんはどのようにして火縄銃と出会ったのでしょう?

 

火縄銃を初めて見たのは、中学2年生のときでした。地元・静岡県富士宮市では、市内にある西山本門寺境内の柊の根元に織田信長の首が埋葬されているとの伝説に由来した「信長公黄葉まつり」というものがあります。そのおまつりでは毎年火縄銃演武が披露されているんです。

中2のときに初めてそのおまつりに行き、実際に火縄銃が可動する様子を見て、「教科書に載っている歴史って本当だったんだ!」と衝撃を受けました。

それまで学校の授業で見聞きする歴史の話は、あまりにも生活様式が現代とかけ離れていて現実味がなかったんです。どこかファンタジーのように感じていて。でも間近で火縄銃の発射音や火薬の匂い、空気の振動を感じて、歴史は作り話などではなく、たしかに存在したものなのだと実感しました。そして、何百年も前の歴史といま自分が立っている時代はしっかり繋がっているのだと深く感動しました。

 

――貴重な体験でしたね。

 

以来、日本の歴史に興味を持つようになり、マンガやゲームなどを買うとき、自然と歴史が舞台のものに目が行くようになっていきました。もちろん地元のおまつりも毎年楽しみにして通っていました。

 

――その後、2011年から火縄銃の演武をやる側になったんですよね。

 

ええ。22歳のとき、いつものように演武を見に行ったんですが、その年は「見ているだけではいやだな」と思ったんです。それで演武を披露した鉄砲隊の隊長さんに、勢いあまって「どこで習えるんですか?」と聞いてしまいました(笑)。

いま思えば、その頃社会人になって3、4年目ぐらいで、精神的にも経済的にもゆとりができ、「何かやりたい」気持ちがふつふつと湧いていたんですよね。趣味でカメラを始めるなどしていましたし。そのタイミングで鉄砲隊の方と話せる機会があったものだから、ふいに習えるかどうかを聞く言葉が出たんですよ。

隊長さんは「本気でやりたいんだったらここに来なさい」と所属団体の名刺をくださいました。後日改めてお伺いし、鉄砲隊の一員になることができました。

 

――鉄砲隊に所属するのには何か条件などあったんでしょうか?

 

試験などはありませんでした。ただ試験がないからといってすぐ「入っていいよ」ということではなく、いくつか心構えを説明されました。怪我をするなど危険なこともあるということ、イベント出演のために冠婚葬祭以外はプライベートを我慢しないといけないということなどです。

僕は、仮に試験があってそれがとても難しいものでも挑戦しようと思っていたので、「それでもやりたいです!」と伝えました。歴史が身近になったところからもう一歩、先の世界を見てみたかったんです。

 

佐野さんが所属する「駿府古式砲術研究会」の火縄銃演武

 

楽しいだけではダメ。ふがいなさから本気度が高まる


 

――火縄銃を自分で扱えるようになって、どんな気持ちでしたか?

 

率直に楽しかったです。とくに、戦国時代の人と同じような感覚が味わえるところにおもしろさを感じました。

歴史や文化に興味を持っていろいろ調べていくと、ある程度当時の人が何をやっていたか知識を得ることはできます。でもどんなことを感じていたかは体験しないとわからないものです。

それが火縄銃を実際に自分で扱うようになると、発射したときに「こんなに音が響くのか」とか、「火薬の火の粉が顔にかかることがあるんだ、熱いな」とか、当時の人が感じたであろうことを感じられるんです。歴史をリアルに体験できることが楽しくてしょうがなかったですね。

 

――それでのめりこんでいかれたんですね。

 

でも鉄砲隊に入ってしばらく経つとちょっと危機感も抱いて。というのは、鉄砲隊のメンバーはみな年齢が上の方ばかりで、20代は自分しかいなかったんです。で、このままだと上の方が引退していったら、隊の存続が危ういなと。

考えてみれば、おまつりなどで演武を見に来てくださる方々も、あまり若い人はいなかったんですよね。火縄銃の文化自体、何十年かしたらなくなってしまうかもしれないと思いました。

 

――好きな場所がなくなってしまうなんて寂しいですね。

 

だからなんとかして興味を持ってくれる人を増やさないといけないと思いました。…ただ、そう思ってはいたんですけど、あるとき自分にがく然とすることがあって。

 

――何があったんですか?

 

鉄砲隊に入って2年経った頃、おまつりでお客さんから、「この時代ってこういうことがありましたよね?」と歴史に関する質問を受けました。このとき僕は、お客さんを満足させられるような答え方ができなかったんです。それで「やばいな」と。

なくなるかもしれない危うさを感じる一方で、当初はまだ好きな歴史に携われているという自己満足のほうが大きくて、プロ意識を持てていなかったんです。歴史や文化を伝える側になったのに、気持ちが追い付いていなかった。

きっと他のメンバーならきちんと答えられたと思います。実際、自分がお客さんだったときは、尋ねたことにしっかり答えくれていました。でも自分は鉄砲隊の一員になったくせにプロの振る舞いができていなくて、「せっかく興味を持ってくれた人をガッカリさせてどうする!」とふがいなく思いました。

 

――その後は意識が変わりましたか?

 

そうですね。自分が楽しいだけじゃなく、人に伝えることを前提に知識や技術を身につけようと思うようになりました。競技活動において「世界大会で優勝する」を目標にしているのも同じ想いからで、技術を磨いて結果を出すことで火縄銃を始めとして歴史や日本文化について伝えていきたんです。

 

射撃の練習風景。火縄銃を撃てる場所は限られている。佐野さんは月1度、車で3時間かけて射撃場に通い、撃ち方を研究している。

 

火縄銃を携えて各地を回るうちに文化への想いが募っていく


 

――佐野さんは火縄銃を用いた活動のほかに、「伝統屋 暁」という日本の伝統技術を用いた商品を開発・販売する取り組みもされていますよね。こちらはどういった経緯だったのでしょうか?

 

伝統屋 暁

 

これもまた文化がなくなるかもしれない寂しさを感じたことがきっかけとなっています。

鉄砲隊の演武でいろんなおまつりを訪れるんですが、僕らの呼ばれるおまつりでは染物職人や和紙職人など日本の伝統に関わる方の露店が多く並ぶんです。それで、おまつりに参加するときにはいつも、出番がくるまでお店を見て回っていました。

商品として並んでいたのは、何百年にわたり受け継がれてきた技術を生かして作られたもの。でもそれが意外と安いなと感じて、気になって「こんなに安く作れるんですね」と職人さんに聞いてみたんです。そしたら「これくらいの値段にしないと、買ってくれる人がいないんだよ」と返ってきて。伝統生業の厳しさというものを痛感しました。

 

――具体的にはどんなことを感じたんですか?

 

職人さんが工芸品を売ることに苦心されている様子を見て、「伝統や技術を後世に残していくためには、やっぱり消費してもらわないといけないんだ」ということを感じたんです。

それまで伝統というは日本のアイデンティティだから、自分が直接関わらなくても残っていくものだと思っていました。でも職人さんの話を聞いているとどうもそうじゃないようで。需要がなかったらこの世から消えてしまうのだと実感しました。

例えて言うなら、大好きだったお菓子がある日突然、生産中止になってしまうようなもの。それってすごく寂しいですよね。それに申し訳ない。せっかく先人たちが残してきたものを自分の時代で途絶えさせてしまうなんて。職人さんたちが食べていけるように、そして弟子を取って技術を継承してもらわないといけないという気持ちが大きくなっていったんです。

 

――それで「伝統屋 暁」を立ち上げられたんですね。

 

「伝統屋 暁」は、職人さんと消費者のハブになれたらいいなと思って立ち上げました。最初は自分が技術を学んで職人になればいいかと思ったんですが、それだと1つの分野しか継承できないですよね。残したいものはたくさんあるけど、体は1つだけですから。

消費者としてたくさんものを買うことも考えましたが、それもかなりの財力がないとできない。あれこれ考えて、残った自分にできることが「紹介すること」でした。

 

――サイトを見ると、アクセサリーや日用雑貨など、ふだんの暮らしに取り入れやすいものが並んでいますね。

 

伝統屋 暁 商品ラインナップ
「伝統屋 暁」商品ラインナップ(一部)

 

「技術を消費し、職人に還元する」をコンセプトにしているのですが、消費に関しては現代人に受け入れてもらいやすい形にすることを工夫しています。やっぱり伝統品って購入するのはハードルが高いと思うんですよね。いきなり「刀を買ってください!」と言われても、買いませんよね(笑)。興味がある人でもちょっとためらうでしょう。でも、日本刀の材料である玉鋼(たまはがね)をモチーフにしたアクセサリーだったら、手に取りやすいのではないでしょうか。

 

――身近なアイテムからであれば興味を持ちやすいですね。

 

商品お届けの際には職人さんのこだわりや技術を記した説明書も入れているので、改めて日本独自の文化を見直す機会にしてもらえるとうれしいですね。また商品を手に取ったことをきっかけに、「私も職人になりたい」思ってもらえたら万々歳です。

 

上手くいかないことを臆さない生き方で文化発信の道を歩む


 

――「火縄銃を習ってみたい」というちょっとした興味が、「文化を残し伝えていきたい」という夢に繋がり、実際に行動を起こされていて素敵です。でも何かにチャレンジするのってエネルギーがいりますよね。佐野さんはどんな精神でやってこられたんですか?

 

僕の場合は、「やりたいと思ったらやる。やらない選択肢はない」で行動してきました。そして「やる」ために大事なのは、失敗を恐れない心だと思っています。

誰しも「これやりたいな」「上手くなりたいな」って思っていることはありますよね? でも思っていてもやらない人もいる。それって「失敗したらいやだな…」って考えちゃうからではないでしょうか。

僕は「失敗は失敗じゃない!」と考えているんですよ。ひとつの結果でしかないと。自分の予想とちがっただけ。そう思えばどこがちがったのかを考えて、次の手立てを見出していけるんですよ。

 

――佐野さんの場合の「上手くいかないこと」とは?

 

火縄銃の競技活動です。最初にお話ししましたが、全然勝てていなくて。いつも1位を目指していますが、なかなか思い通りにいかない。でも失敗したとは思っていないんですよ。やれることはやっているので、現時点での結果が出ただけのこと。結果にとらわれて気持ちに歯止めをかけてしまうよりは、勝つためにやり続けることのほうが大事だと思っています。

  

――そもそも佐野さんのご活動の目的は、「日本の文化を次世代に残すこと」であって、相対的な評価を求めているわけではありませんよね。

 

そうですね。文化を次世代につなぐための「仕組み」を、人生をかけて作っていきたいです。
射撃競技選手、演武表現者、伝統工芸品を販売する事業者と、いろんな顔を持っていますが、トータルで日本文化を守ることに奔走する「現代の武士」でいたいと思います。ぜひ武士の等身大で挑戦する姿を見ていてください。

 

――今後のご活躍も楽しみにしています!ありがとうございました。

 

 


 

 

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この記事を書いた人

ほんのまともみ

やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。子どもの遊びや文化に携わる人に関心が高いです。JPIC読書アドバイザー27期。



 
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