やる気レポート

【連載】情けは人のためならず 〜「みんなの学校」のために〜|2020年、子どもたちの「アクティブ」な学びを考える(6)【完結】

2019.04.12

【今回のポイント】
・「自分の子どもだけの学校」ではなく「みんなの学校」。

・「ただ待つ」姿勢、経験や体験の共有は、学校教育でも重要なポイント。
・先生や友人たちと助け合える「みんなの学校」へ。



<第6回>情けは人のためならず 〜「みんなの学校」のために〜

 「情けは人のためならず」は、しばしば意味を取り間違えられやすいことわざとしてよく知られています。平成22年度「国語に関する世論調査」(文化庁)では、(ア)「人に情けを掛けておくと、巡り巡って結局は自分のためになる」と(イ)「人に情けを掛けて助けてやることは、結局はその人のためにならない」のいずれかの意味を選択、回答させています。(ア)だと答えた人は45.8%に対して、(イ)は45.7%と、同じ割合でした。
 本来は(ア)の意味のことわざです。「情け」(親切や援助)をするのは、他人のためではなく、最後には自分に返ってくるのだという利他的な考え方を指します。

 わたしは、最近の学校教育に対する保護者の意識や社会全体の風潮を見ていると、本来の意味ではない(イ)の傾向が強くなっているのではないかと感じています。自分自身や自分の子どもさえよければよい、なぜ他人の子どもに目をかけ、手を差し伸べる必要があるのか、他人の子など知ったことではない──ある教育学者はこのような保護者の意識や考え方のことを「自子中」と呼んでいます(小野田正利『ストップ自子チュー』:旬報社)。この「自子中」が学校や教師に対する保護者の過激なクレームや文句の一因になっているというのです。
 しかし、学校は多数の子どもが集い、ともに育ち学ぶ「みんなの場」です。その学校は、国公立や私立の別を問わず、市民の税金で成り立っています。
 日本の保護者たちは、自身の子どもの習い事や塾に対しては、惜しみなく家計(私費)から負担しようとします。それが子どもに対する保護者の愛情の証であると考えられているからでしょう。そうなると、(イ)の意識が強くなるからでしょうか、「みんなの学校」を充実させるために、税金(公費)を投入する教育政策に対しては慎重な意見が大半を占めます(中澤渉『日本の公教育費はなぜ少ないのか』:勁草書房)。

 近年、学校教育の場においても、前回まででご説明してきた①「ただ待つ」姿勢②経験や体験の共有――は重要なポイントとなっています。しかし、そのためにはこれまで以上にキメ細かな教育体制の整備が求められるようになります。
 有能な若者が教師を志望し、彼らが十分な教育活動を展開できる、ゆとりのある職場・教育環境を整えることができるかどうか。子どもたちが落ち着いて学び生活できる学習環境を整えられるかどうか。そのために、税金による教育費の支出や保護者の学校支援は不可欠でしょう。教育・学習環境が改善すれば、巡り巡って、それはその先生に教わり、友人と関わるわが子にも返ってくることになるのではないでしょうか。
 「みんなの学校」のためには、「情けは人のためならず」の精神が大切だということを教えてくれます。世知辛い世の中だからこそ、(イ)自己責任や自己[子]中心的な考え方ではなく、(ア)他者をともに支え合う優しい社会と教育が目指したいものです。

 

【連載】2020年、子どもたちのアクティブな学びを考える
1. 未来を担う子どもたちに、これから「求められる力」とは
2. 思考力や探究心を育むには
3. 習い事やお稽古事は早くからやらせた方がいい?
4. 「勉強しなさい」は効果的?
5. 経験や体験を親子で共有し、子どもの興味・関心を広げよう。
6. 情けは人のためならず~「みんなの学校」のために~



●筆者プロフィール

小針 誠
青山学院大学 教授

こばり・まこと●1997年、慶應義塾大学文学部卒業。2005年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。同志社女子大学准教授を経て、17年、青山学院大学教育人間科学部准教授に就任。19年4月1日、同教授に就任。現職。
教育社会学や教育社会史を専門とする。著書『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書)。

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