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生活・趣味
2020.10.7
酒井草平さん・葵さん
「九ポ」は9ポイントの活字(印刷に使う字型)に由来する。もとは「酒井九ポ堂」で、活版印刷への取り組みは、酒井草平さんの祖父・勝郎さんが定年退職後の趣味として始めた。日本初のテレビの研究開発に携わっていた勝郎さんは、化学者としての気質からか「常軌を逸している」といえるほど印刷活動にのめりこみ、自分で金属活字を組んで旅行記などを刷っていたという。現在は草平さんと妻・葵さんが、その道具を活用し、物語性があってクスッと笑える紙雑貨を制作・販売する。
活版印刷とは
凸版印刷の一種。 活字を組み合わせて作った版(組版)に、 インキ(インク)をつけて印刷すること。
代表作は活版印刷による「架空商店街ハガキ」シリーズ。現在6種類の商店街があります。
夜にだけ開く「ツキアカリ商店街」、雲の上に広がる「雲乃上商店街」、オバケの町の「ゾクリ町商店街」、海の中の「七色珊瑚町商店街」、地下で暮らすモグラの「モグラ野トンネル商店街」、紫陽花に集まるかたつむりの「でんでん商店街」。
一風変わった商店街にはユニークなお店と商品がそろいます。商店街ごとにそれらを見ていくと、住人の特性や生活の様子が見えてきます。
ツキアカリ商店街 より「悪夢散」
雲乃上商店街より「夕焼けデザイン室」
ゾクリ町商店街より「オバケ旅行社」
七色珊瑚町商店街より「カフェバー難破船」
モグラ野トンネル商店街より「発光石ランプ店 Mole And On」
でんでん商店街より「かたつむり雨具店」
――「九ポ堂」立ち上げの経緯や作品づくりのとっかかりは何だったのでしょう?
もともとぼくがDTPの仕事(パソコンでデータを作成して印刷物を作ること)をしていて、個人事業でやっていくにあたり、かつて祖父が「酒井九ポ堂」という名前で趣味で印刷活動をしていたことを思い出し、それにあやかって屋号を「九ポ堂」としたんです。
当時はただ名前を拝借しただけで、活版印刷をやることは考えていませんでした。
活版印刷に興味があったのは私のほうなんです。「せっかく道具があるんだから、使ってみない?」と切り出しました。「じゃあ年賀状でも刷ってみようか」となり、やってみることにしたんですね。
仕事とは全然関係なく、「ちょっとやってみようか」の感覚でした。
最初は「家に眠っている印刷機を動かしてみたい」と思っただけだったんですよ。ただ、動かそうにもどうやったらいいのかわからない。
そこで、二人で新宿にある朗文堂さんに行き、活版印刷機の使い方について学びました。
実際に活字を組んだり、手動で刷ったりすると、一つひとつの動作がおもしろく、夢中になっていったのです。
テキンとよばれる手動の活版印刷機
ローラーにインクを付着させ、圧力をかけて紙に転写する
活版印刷が楽しくなってきたぼくたちは、年賀状を刷った翌年、「活版凸凹(でこぼこ)フェスタ」という活版印刷を実践している人たちのイベントに参加することにしました。
作品づくりを始めたのはそのイベントがきっかけですね。「何を出展しようか?」と頭をひねり、「thank you」や「happy birthday」などのグリーティングカードでは少し物足りないなと思ったんです。
お互い漫画とか絵本とかが好きで、「何か物語性のあるものがいいんじゃない?」という話になって。
「物語を贈るハガキなんていうのがあったらおもしろいんじゃない?」ってアイデアが広がったんですよね。それこそが今の人気シリーズの一つ、「架空商店街」です。
「架空商店街」は、実際にはない商店街を空想し、その商店街にはどんな住人がいてどんな商売をしているのかを描いた作品。
――そのイベントでの作品づくりが、今日の「九ポ堂」活動に繋がっているのですね。
そうですね。こんなに長く続くことになるとは思っていませんでした(笑)。
まさかこれが生業になるとはねえ(笑)。
――物語を主軸にした作品は当初から好評だったのですか?
いや、そうでもなかったですよ。「これは誰に頼まれて作っているんですか?」って聞かれたりして。
「架空商店街ハガキ」では実際にはないお店の宣伝をしているわけで、お客さんは「なんで?」と疑問が浮かんだようです。
「こういうのじゃなくて、普通のはないの?」と言われたことも。
まだ作品数も少なかった頃ですし、自分たちのやりたいことがお客さんに伝わらなかったみたいです。
葵さんは「もっと使いやすいデザインのものを作った方がいいんじゃないか」って、揺らいでいましたね。
そうだったね(笑)。結局、自分たちが楽しいと思えるものを作ることにしたよね。
今思えばここで振り切って良かったと思います。こだわりを貫いて作品の数を増やしていくと、受け入れてくださる方が増え、気に入ってファンになってくれる方も出てきました。
――その後はどのような歩みを?
作品の数が増えてくると、卸業の方から「商品を取り扱わせてくれませんか」と声をかけていただくようになりました。そのタイミングで量産化を検討するようになります。
それまで小型の手動機器で印刷していたんですが、何百枚も卸すとなると、手刷りでっていうわけにもいかなくなってきたんですね。
思い切って全自動活版印刷機「デルマックス」を導入しました!
この頃からですかね、葵さんが本格的に九ポ堂として活動するようになったのは。彼女は建築業界で働いていて、二足の草鞋でやってくれていたんですよ。
業者さんに卸すようになった頃、活版ではないですが、文具メーカーさんとコラボしてマスキングテープや便せん、ノートを作るようになって。デザインを提供する仕事をするようになったんです。
「雲の上郵便局」シリーズ(一筆箋、マスキングテープ)
空想採集帳(ノート)
――始めはDTPの仕事メインで草平さんひとりの「九ポ堂」でしたが、今は二人の「九ポ堂」ですね。ふだんの製作はどのように担当をわけられているのですか?
原案はぼくが作ることが多いです。「架空商店街ハガキ」の物語を書いているのもぼくですね。あとはロゴデザインなども担当しています。
私は主にイラスト担当です。ただ、作業はわけても世界観や最終的な形は二人で仕上げていきます。
――ネタを考えるのはおもしろそうですね。
とても楽しいですよ。好きなことを形にできると嬉しいですし、やりがいがあります。
もっと嬉しいのは、自分たちが考えたものを喜んでくれる方がいるということですね。
喜んでいただけると、「次はこんなのを作ってみよう」と意欲に燃えます。
眺めるだけでなく実際に使っていただいているというお話を聞くのも、次の製作へのモチベーションになります。きっと「ふふっ」と笑いながら使ってくれているんじゃないかと想像しているのですが(笑)。
「雲の上郵便局」シリーズの一筆箋『午前の手紙』。ハガキ柄、封筒柄、便箋柄、伝票柄の4柄各20枚80シート。 実用的でありながら九ポ堂らしいクスッと笑わせるネタが盛り込まれている。
――「九ポ堂」として今後「もっとこうしてみたい!」ということはありますか?
技術的なことですが、4色刷りで写真を印刷してみたいですね。オフセット印刷ではCMYKのインクが使われますが、それを活版でやってみたいんです。
私たちの作品もそうですが、古い雑誌などを見てもイラストはだいたい2~3色で表されていることが多いんです。
それでも多色に見えるようにされている。デザインでそう見えるように工夫されているんです。
限られた色数で豊かに見せることを、私たちも追求していきたいと考えています。
七色珊瑚町商店街「カメタクシー」。黄と青のかけ合わせで緑の色を出している。
それから自分たちの特徴である「物語性」という点でやってみたいこととして、絵本を作れたらいいなと思います。
絵本も一つの夢ですね。「架空商店街ハガキ」にも物語を入れていますが、表しているのはワンシーンのみです。次のページを開きたくなるような、一本のおもしろいストーリーを作ってみたいです。
しっかりと構成を練らないといけないので難しいですが、やってみたいですね。
まだまだ勉強することだらけ。でもその過程にはたくさんの発見があるので、楽しみながら表現の幅を広げていきたいと思います。
――これからどんな作品が生まれてくるのか楽しみです。ありがとうございました。
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この記事を編集した人
ほんのまともみ
やる気ラボライター。様々な活躍をする人の「物語」や哲学を書き起こすことにやりがいを感じながら励みます。JPIC読書アドバイザー27期。