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【やる気が出てくる世界の言葉】「さよならスパイダーマン」偏見や理不尽さに立ち向かう勇気の出る言葉

2019.10.3

親子で学びたい。我が子に伝えたい。そんな気持ちになれる、やる気が出てくる世界の言葉。歴史上の偉人や名著からピックアップ。その言葉はどうして出てきたのか、お伝えしていきます。
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将来、海外で活躍したいと思っているお子さんは多いのではないでしょうか。

狭い日本を飛び出して、外国人と同等に渡り合う…どんな人でも一度は夢見る光景ですよね。

希望に満ちた将来、お子さんたちには高い目標を持って歩んで行って欲しいものです。

しかし、これから子どもたちが飛び込んで行く国際社会は、これまでの歴史上ずっとそうであったように、争いが無くなったことはありません。

今、日本は平和を謳歌しているように見えますが、子どもたちを取り巻く環境は様々な差別や偏見が身近に起こっています。

街中はヘイトスピーチで溢れ、汚い言葉で外国人を罵る声はネット社会にもはびこっています。

そのような中で、子どもたちはどうやって友好的な国際関係を築いていくのでしょうか。一冊の本から学んでみましょう。

【やる気が出てくる世界の言葉】
大人はわかってないから〜Parents do not get it.〜

「さよなら、スパイダーマン」/アナベル•ピッチャー

どんな人が言ったのか?

舞台は現代のイギリス。主人公のジェイミーは少し内気ですが、心優しいごく普通の少年です。ただ一つ、イスラム過激派によるテロで姉のローズを亡くしたことを除いては。

ローズの死をきっかけにジェイミーの母は、ローズの死に取り憑かれ、酒に溺れて廃人のようになってしまった父に愛想を尽かして恋人と出て行ってしまい、ジェイミーは転校を強いられてしまうのでした。

転校先で、執拗ないじめにあってしまうジェイミー。一緒に暮らす父は、生きている自分より亡くなったローズの面影を追う事に夢中。

母親は恋人との新しい生活を重要視していたため、ジェイミーの理解者は、ローズと双子だったもう1人の姉、ジャスと飼い猫のロジャーだけでした。

そんな中、ジェイミーに新しい出会いが訪れます。学校でいじめられていたとき、勇敢にも味方になってくれた女の子がいました。

その子の名前はスーニャ。スーニャは、スカーフのようなものを頭に巻き、褐色の肌と深い色の瞳が印象的。そう、スーニャはイスラム教徒だったのです。

ローズの死後、街やテレビで褐色の肌の人を見る度に、イスラム教徒に対し口汚く罵る父を思うと心苦しく、最初はスーニャと友達になることをためらうジェイミーでしたが、発想力豊かで、優しく面白いスーニャにどんどん心を開いて行き、淡い恋心を抱くようになります。

まるでヒーローのように強く頼もしいスーニャでしたが、彼女もまた、クラスでただ1人の外国人としてからかわれ、周囲からつまはじきにされる孤独感と闘っていたのでした。

ジェイミーは、父がいつも言うイスラム教徒に対する中傷に対し半信半疑でしたが、スーニャと親しくなっていくにつれて、父の言う事が間違いだということを学びます。

親切なスーニャの家族。その家は、イスラム教の聖地メッカの写真が飾ってある事以外はジェイミーの住む家となんら変わらず、イスラム教もキリスト教も、信仰の方法は異なるものの、根本的にはたいした違いがないのかもしれないと思うようになります。

気まずい日々を過ごす2人ですが、あることがきっかけで関係は修復されます。ある日学校で、「カレー臭い」と罵られヒジャブを脱がされそうになっていたスーニャ。

ジェイミーは、今まで自分が何をされようとも、やり返す勇気がなくされるがままになっていましたが、自分の大切な友達であるスーニャが傷つけられ、泣いている姿を見て、いじめっ子たちに立ち向かって行きます。

その日の放課後、スーニャはジェイミーに「一緒に帰ろう」と提案しますが、スーニャの母を思って渋るジェイミーに対しスーニャは言います。

【やる気が出てくる世界の言葉】
大人はわかってないから〜Parents do not get it.〜

大人や周囲の人に何を言われても、大切なのは自分達の気持ち。大人が言うことがすべてではない。どんな先入観があったとしても、自分達でそれを払拭していく強さを、この物語は教えてくれます。

自分のために勇気を出してかばってくれたジェイミーと改めて友情を築こうとするスーニャ。

ジェイミーはそんなスーニャに感謝をする中で、姉の死と向き合い、辛い中でも新たなスタートを切ろうとする家族との未来に希望を見出していくのでした。

子どものやる気にどんな影響が?

2人が置かれた環境は、一見残酷に見えますが、実はとてもリアルな子どもの世界です。いわれのない差別や理不尽ないじめなどに直面し、戸惑い苦しみながらも成長する。

その中で生きているジェイミーとスーニャは、お子さんにとっては充分な共感の対象になり得ると思います。

いま、子どもたちが対面している世界はどんなものでしょうか。本書に出てきたように、国家レベルでも個人レベルでも、自分と違う相手は排除する。そんな風潮が蔓延しているように思います。

その中で、子どもたちは国際的な友情をどう育て、ともに生活していくか。それは、相手が帰属する国家や宗教、文化や慣習に対する先入観を捨て、個々の人間として相手をどう感じるか。

大人に頼らず、そういった自分の直感を信じることだと、ジェイミーとスーニャは教えてくれます。

初めて異文化と出会うとき、子どもたちはショックを味わうかもしれません。現代の子どもたちなら、インターネットなどで偏見に満ちた情報を得る事もあるでしょう。

しかしその情報をもとに偏った考えを確立させてしまっては、2人のような友情は築けません。

他者を受け入れ、偏見を取り払った先にあるもの

筆者は小学生時代、アメリカ育ちの日本人がクラスメイトにいましたが、その男の子の自信に満ちた話し方に言いようのない嫌な感情を抱いていました。

その感情がただの嫉妬だったのか、日本で育った自分を含む他の友人たちにはいないタイプだったから鼻についたのか。

理由は今でもわかりませんが、アメリカ社会という異文化の中で育った彼にとって、強い自己主張は生きて行くうえで必然的なものだったのだという考えに至った作者は、今になって彼に冷たくしてしまったことへ反省と後悔の念を感じています。

あのとき、仲良くなっていればお互いの世界が広がったことだろう、と。そしてこの本と出会えていたなら、そんな失敗はしなかったのではないかとも思うのです。

自分と異なる他者を受け入れ、偏見を取り払う。固定観念で人をくくらず、理解しようと努めること。ジェイミーとスーニャに学ぶ子どもたちが築く友情は、きっと素晴らしいものでしょう。

異文化との出会いが、多様性を受け入れることで子どもたちの人生がより豊かになることを教えてくれる、そんな「やる気が出てくる世界の言葉」です。

参考文献:「宗教と暴力」/池上彰、佐藤優ほか共著

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この記事を書いた人

藤原 望(ふじはら のぞみ)

1993年生まれ。埼玉県出身。
大学卒業後は福祉施設に勤務するが、社会人5年目で一念発起し文章を扱う仕事を目指す。
この世で好きなもののトップ3は本、映画、お酒。

 
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