やる気の出るモノとコト

【教育】そのデザインには、子どもたちへのメッセージが詰まっている。「子どものための建築と空間展」

2019.02.22

【教育】【幼児~高校生】【保護者】【社会人】
 1月12日から3月24日にかけて、パナソニック 汐留ミュージアム(東京都港区)で展覧会「子どものための建築と空間展」が開催されています。
 子どものやる気を引き出す、さまざまな建築・デザインを目にすることができます。本稿ではその見どころについてご紹介します!

 

こんなところで学びたかった、遊びたかった

 私たちが子どもだったころ、毎日をすごした学校の教室や廊下、階段の踊り場、あるいは公園のジャングルジムやブランコ、それから児童館のおもちゃたち――

 そういった場所で過ごした思い出というものは、大人になってもなかなか色あせることなく残っているものです。

 幼少期の記憶に刻み込まれたこれらの“原風景”が、その後の人生の生き方や考え方にあたえる影響は、おそらく計り知れないものでしょう。

 子どもたちに対してどんな「学びの場」と「遊びの場」を与えることができるのかは、私たち大人にとって、きわめて大きな意味合いをもつ問題です

自由学園明日館食堂  1921年 フランク・ロイド・ライト+遠藤新 写真提供:自由学園明日館

 だからこそ、学制発布から間もない明治時代から現代にいたるまで、「子どものための建築と空間」についてはさまざまな試行錯誤が重ねられてきました。

 そうして仕上がった建築物からは、 それらを手がけた大人たちによる 「子どもたちにどんなふうに成長して欲しいか」「どんな大人になって欲しいのか」といった想いがひしひしと伝わってきます。

 「子どものための建築と空間展」はそんな建築・デザインを、時代ごとの流れにそって紹介しています。「こんなところで学びたかった、遊びたかった」という郷愁の気持ち、そして「私たちはいまの時代、どんな学びと遊びを子どもたちに用意できるだろう?」という考えを生む、良いきっかけになるはずです。

 

 

展示会に行ってみた!

 「子どものための建築と空間展」は5部構成になっています。

 第1章「子どもの場の夜明け 明治時代」、第2章「子どもの世界の発見 大正時代」、インターミッション「戦争前夜に咲いた花」を挟み、第3章「新しい時代の到来、子どもたちの夢の世界を築く(1950~1970)」、第4章「おしゃべり、いたずら、探検-多様化と個性化の時代(1971~1985)」、そして第5章「今、そしてこれからの子どもたちへ(1987~)」――の5つです。
 
 パナソニック 汐留ミュージアムは比較的こぢんまりとした施設なのですが、限られたスペースに多くのパネルや模型をていねいに配置しており、きゅうくつさや物足りなさは感じません。

 会場内にあるライトやプロジェクターは最新鋭のもので、パネルをじっくりと読み込めるように見やすく配慮されています。

 

 

自然と本が読みたくなる、小さな温かい図書館

 特に、第4章「多様化と個性化の時代」にある「黒石ほるぷ子ども館」は、ぜひ見ていただきたい展示物の一つです。パネルと模型のほか、貴重な手描きの設計図面を見ることもできます。今回の担当学芸員が「子どものための建築と空間展」の着想を得るきっかけとなった施設なのだそうです。

  黒石ほるぷ子ども館は、1975年、児童書の出版社ほるぷの依頼により、建築家・菊竹清訓氏が青森県黒石市に設計した児童図書館です。リンゴ畑が広がる自然豊かな一帯に建てられた、木のぬくもりが感じられる平屋造りの建物となっています。

黒石ほるぷ子ども館 模型

 図書館を訪れた子どもたちは、温かみのある木づくりの長いすに腰かけたり、窓からリンゴ畑や遠くの山々を眺めたりしながら、自由に本を読んだり借りたりすることができます。時にはロフトでのんびりしたり、縁側の外に出て行って遊んだりと、さまざまな過ごし方ができるようになっています。

 おもしろいのは、ところどころに遊び心も見られるところです。例えば、床には青森特産品のりんごをモチーフとするユニークな形状のカーペットが敷かれており、楽しい空間づくりに一役買っています。また、屋根に立っているアンテナのようなモニュメントは、開館時間のみ回転する仕組みになっていて、子どもたちはこれを見て、図書館が開いているかどうかを遠くからでも知ることができるのだそうです。

 パナソニック 汐留ミュージアム 広報・宣伝部長の倉澤敏郎さんは、黒石ほるぷ子ども館の魅力を「自宅のようにくつろぎながら、友だちといっしょに、自然と本を読みたくなる空間が創り上げられています。それでこそ、子どもたちから『本を読んでみよう』という“やる気”が引き出されるのだと思います」と説明しています。

黒石ほるぷ子ども館 室内詳細図1:20(部分) 1977年 菊竹清訓 株式会社情報建築蔵

 いまでこそ児童図書館の多くは子どもの読書への意欲を引き出すためにさまざまな工夫を凝らしていますが、この時代にここまで子どもの気持ちに寄り添い、こだわりぬいた空間をつくりあげた例はなかなか見当たりません。

 そのためなのでしょう、黒石ほるぷ子ども館は何十年という時を経て、いまも子どもたちに愛され続けています。

 黒石ほるぷ子ども館が生まれた1970年代は、高度経済成長期を経て「詰め込み教育」や「画一的な一斉授業」への批判が出てくるようになり、子ども一人ひとりの個性を重視する教育が試みられるようになってきた時代です。

 学校教育の場でも、学級や学年の枠をとりはらった「オープンスクール」の考え方をアメリカから輸入したり、多目的ホールを設けたり、斬新な学校用家具を導入したりといった動きが見られるようになってきました。児童館や児童図書館、公園、遊具など、子どもたちの遊びの場が多様化していった時代でもあります。

 「子どものための建築と空間展」では、こうした時代の潮流の中で見られたとりわけ先進的な建築・デザインについて、このほかにも数多く展示されています。

 

 

最新鋭の建築・デザインも紹介。

 展覧会を通して明治時代から現代までを俯瞰してみると、やはり現代こそがとりわけ、子ども一人ひとりの意欲を引きだし、個性を輝かせるために、建築家が積極的に創意工夫を行っている時代であるように感じられます。第5章「今、そしてこれからの子どもたちへ」では、いまを生きる私たち、そして次世代を生きる子どもたちに向けた、最新鋭の試みを数多く目にすることができるでしょう。

東松島市立宮野森小学校 教室および多目的スペース内観模型

 その中でも個人的に印象に残った展示は、宮城県東松島市の「東松島市立宮野森小学校」です。 こちらは、東日本大震災の復興のさなかに生まれた小学校です。こまやかな木造建築によって、木々や山々といった自然と一体になって学べる環境づくりを実現しています。大胆なガラス張りの設計によって校舎に明るい光が射し込むようになっていたり、普通教室と廊下と特別活動室が連続的ににつながる開放的な空間づくりなど、生徒が活動的に毎日を過ごせるような工夫が随所に為されています。

ふじようちえん 2007年 建築家:手塚貴晴+手塚由比(手塚建築研究所)トータルプロデュース:佐藤可士和

 また、モンテッソーリ教育を採り入れている「ふじようちえん」(東京都立川市)も見逃せません。ここの特徴は、すべての保育室が中央の園庭に面した、楕円形・平屋建ての園舎です。保育室同士は壁による仕切りをあえて設けておらず、園内には楽しく遊べる遊具がところせましと用意されています。まさに子どもたちの「走り回りたい」「遊び回りたい」という欲求をくすぐる空間づくりを実現しています。子どもたちは多彩な興味・関心・好奇心を引き出されながら、いろいろなことができる毎日を過ごすことができます。

 

 

環境という、普遍的な課題。

 展覧会をふりかえり、パナソニック 汐留ミュージアムの倉澤さんは、子どものやる気や意欲を引き出す環境について次のように話しています。

 「このたび、あらためて気づかされたのは、子どもたちには“環境”がとても大切だということです。子どもたちが楽しく、気持ちよく活動できる環境が整備されていれば、おのずとやる気は引き出されていくのではないかと思います。

 通常、本館の展覧会には中高年の方がいらっしゃることが多いのですが、今回は幅広い年齢層の方々におとずれていただきました。子どものやる気を引き出す環境という普遍的な課題に、関心を持つ方が多かったということではないかと思います。当展示会はまだまだ続きますので、一人でも多くの方にご覧いただけたら嬉しいですね」

会場終盤には謎のオブジェが・・・

 「子どものための建築と空間展」は3月24日までつづきます。ぜひ、足を運んでみてください!

 

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この記事を書いた人

川崎 健輔

やる気ラボのしたっぱ研究員。1987年生まれ。横浜育ち。1児の父。教育系の業界新聞を書いていました。あっちに首をつっこんだりこっちに鼻をつっこんだりしています。差し入れされて嬉しいのはバームロールです。鳴きます。

 

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