子育て・教育

【教育】子どもたちの「やりたい!」を育むのは、自然と人とのかかわり――国際自然大学校

2019.03.12

【教育】【幼児】【小学生】【中学生】【高校生】【保護者】
 サマーキャンプやスキーキャンプ、海外キャンプなどの自然体験プログラムを通して、自然と人とのかかわりの中で子どもたちの可能性を伸ばしていく――。
 
 いわゆる“自然学校”の中でもとりわけ根強い人気を誇るのが、NPO法人国際自然大学校(東京都狛江市)です。その歴史は30年以上におよび、世代を超えて多くの子どもたちや保護者を惹きつけています。
 
 自然環境に囲まれる体験で、子どもたちの“やる気”はどのように引き出されているのでしょうか。お話をうかがいました。

 

 

国際自然大学校
全国規模で、子どもたちに「自然体験プログラム」を提供。子どもを対象とした「シーズン(春・夏・秋・冬)キャンプ」「週末キャンプ」のほか、2歳から対象の「森のようちえんプログラム」などの環境教育・野外教育プログラムを実施しています。
多彩な経歴をもつスタッフによる、子どもの自主性を尊重する体験活動には好評の声がきわめて多く、「小学校からお世話になっていて、一生ものの思い出になった」「自分の子どもにもぜひ参加させたい」という保護者は少なくありません。
>>>公式ウェブサイト

 
  

どんな環境でも、前向きに生きられる人を育てる。

国際自然大学校
(中)理事・東日本事業部 部長/小比類巻 友紀子 さん
(左)事業部・Global Education Teamマネージャー/館野 彩子 さん
(右)本校マネージャー/村中 達哉 さん

――貴校についてお聞かせください。

小比類巻 国際自然大学校は、サマーキャンプ・スキーキャンプなどのプログラムを実施する自然学校です。他者とチームワークを行う体験や、自分の力でチャレンジする体験などを提供しています。それによって、自然や人とのかかわりの中で、人生を前向きに生きられる人――「アウトフィッター」を育てることを、本校では目的としています。

――子どもたちが「アウトフィッター」へと育つためには、何が求められると考えますか?

小比類巻 さまざまな環境を体験し、そのなかで、自分で考えて行動すること。それが求められると考えています。その力を十分に身につけることができれば、どんな環境でも自分のやりたいことを自分で考え、前向きに行動することができるのではないかと思います。

 私たちはそのような“やる気”あふれるアウトフィッターを育成するべく、多彩なプログラムを用意しています。春休みや夏休みなどの期間を活用するキャンプのほか、1日間の自然体験もあり、多くの子どもたちが参加しています。

一年を通して、四季折々の自然体験ができる

小比類巻  特に力を入れているのが通年型プログラム「子ども体験教室」です。「年中・年長」「小1・2」「小3~6」「小5~中3」という学年層別に分けて4つのコースがあり、1~2カ月に1回のスパンで年間6~9回の自然体験に参加できます。

 ここでは同じメンバー・同じスタッフが1年間活動をともにするので、子どもたちをていねいにサポートし、どんなところに意欲を見せてくれたか、どんな活躍をしたのかといった成長のつみかさねをしっかり把握し、保護者の方々にお伝えすることができます。

五感をフルに使って、バラエティ豊かな自然を体験

館野 通年型プログラムでは年齢に応じて、多彩な体験ができるようになっています。例えば幼児対象では河川敷で竹による水鉄砲づくりに挑戦したり、親子でアウトドアクッキングに挑戦したりといった、子どもの好奇心を刺激する内容です。他方、小5~中3向けのコースになると、南八ヶ岳でのトレッキングや、手作りイカダでの湖横断など、持てる知識やスキルをもっとぞんぶんに発揮していくプログラムになります。

他者とのかかわりかたを学ぶ。

――ひとくちに「環境」といっても、その意味合いはいくつかあります。貴校ではいわゆる自然環境のほかに、“人間関係”という環境も重視されています。

村中 そうですね。そこで私たちが大切にしているのは、参加した子どもたち同士でチームを組んで、行動してもらうという体験です。仲間たちとのかかわりかたを学んでいくのも、重要な環境教育だと思っています。

 私は小3~6向けの通年型プログラムを主に担当しているのですが、年間6回のうちはじめの1~2回はチームビルディングに多くの時間を割いています。そして「最高のチームにしよう!」「最高のプログラムにしよう!」と声かけをしています。

自然のルールに加え、社会のルールも学ぶ

――チームづくりで心がけていることは何でしょうか?

村中 はじめの段階で、チームについて考えてもらうことです。

 先ほど「最高」という言葉を使いましたが、子どもたちにいきなり「最高のカレーを作ろう!」「最高のスコアでトレッキングをしよう!」といった行動を促すわけではありません。そうではなく、「最高ってどんな状態だと思う?」「最高のチームって、どんなチームだろう?」と、まずは問いかけをするようにしています。

 すると一旦、子どもたちは考えます。やがて意見が出てきて、議論が始まります。こうすると子どもたちの中から目的意識が生まれてくるんです。「僕たちはこんなカレーを作りたい!」といった気持ちをチームとして持ってもらうことで、より前向きに取り組んでもらえるようになるのです。

――仲間たちと全力で助け合ったり、ぶつかりあったりしながら行動すると、メンバー同士の個性や強みもハッキリ見えてきそうですね。

村中 そのため、こまめに振り返りの時間を設けています。チームメンバーの良かったところがどこだったのかを考えてもらい、互いに話し合うようにしているんですよ。その場で自分の個性や良いところをメンバーに指摘してもらうことは、「自分の強みはここにあったんだ」と気づくきっかけにもなります。

はじめてのチャレンジを応援。

――自然体験に参加する子どもたちは多くの場合、保護者に言われてやってきます。そのため、必ずしも「やりたい」「参加したい」という気持ちが生まれているとは限りません。そんな中、子どもたちをどのようにサポートしていますか?

小比類巻  年齢によってもある程度異なりますが、やはり「楽しい」という気持ちがベースになります。楽しくないこと、やる気になれないことは、なかなか続きません。特に低年齢層であるほど、その傾向は顕著です。

館野 集合場所に来てもらうこと自体、保護者や私たちスタッフにとっては一種の戦いです。そのためご家庭にもご協力いただきながら、子どもたちになるべく大きなワクワク感を持って参加してもらえるように努力しています。「もうすぐサマーキャンプだね」「明日から楽しみだね」といった家庭内での声かけをしていただくだけでも、大きく変わりますよ。

村中 参加してもらったあとは、私たちの腕の見せどころです。子どもたちのやる気を引き出すための心構えは、「やりかたを教えて、やってみせて、やらせてみる」ことだと思います。火がおこせた、野菜が切れた・・・・・・そういった小さなことをこまめに褒める。それも大人からだけではなく、チームのみんなで互いに褒め合うことができるように促すよう、心がけています。

一つひとつの「できた!」を承認していく

館野 近年、子どもたちは自然体験をする機会が少なくなっていると言われています。例えば「虫とりをしてみたい」と思っても、子どもはもちろん、保護者もやりかたが分からないというケースも少なくありません。そのためプログラムの最中にも、ずんずんと草の中に入っていってしまって虫が逃げてしまったり・・・。

 もちろん、それは教えてもらわなければ分からないものですよね? そのため、「あれをやってみたい」という気持ちが子どもたちに芽生えたタイミングを見逃すことなく、正しいやり方を伝えてあげるようにしたいと思っています。

 それでこそ、「できる! 楽しい! もっとやりたい!」という、意欲が育まれるのではないかと思います。

――「もっとやりたい」という気持ちが生まれれば、子どもたちは自然といろいろなことに取り組むようになりそうですね。

小比類巻 その大切さは、しばしば実感します。

 例えば、川の中に小魚がいっぱいいて、2歳の子どもが「魚を取ってみたい」と思ったとします。はじめのうちはなかなか取ることができません。そこで、まずは大人が取り方を見せてあげることにしました。それからもう一度チャレンジさせてみると、できるようになり、笑顔を見せてくれました。

 すると、よほど嬉しかったのでしょうね。次の回に参加してくれたときはまっさきに「川だぁー!」ってさけび、走って向かっていくようになりました。そのような変化が、ほんの1時間程度の活動によって起こるんです。

 こうした経験を重ねていくうちに、子どもたちは自信や自己肯定感を身につけることができます。いずれグループで何かをするといったときも、自分本位ではなく、どうすれば仲間たちが楽しく過ごせるかといったことを考えるようにもなってくれるんですよ。

「もっとやりたい」が、さらなる創意工夫につながる

館野 はじめて見る自然環境も、はじめて会う仲間たちに囲まれる環境も、子どもたちにとっては「未知なる環境」です。

 はじめのうちは、こわごわ、さぐりさぐりでしょう。しかしそこでいろいろなことを教わり、正しいやり方やルールといったものが分かってくると、「未知なる環境」がどんどん「楽しい環境」「安心できる環境」といったものに変わっていきます。

 子どもたちからすると、世界の見え方が変わってくる。とても、大きな意味のあることだと思います。

子どもたちの「やってよかった」を引き出す。

――成功はもちろん、失敗から学ぶことも多そうです。

館野 たくさんあります。友達と意見がぶつかりあって嫌な思いをしたり、失敗してくやしい思いをしたり・・・。

 ただ、そこにこそ大人の役目があるのかなと思います。失敗した理由を聞いてあげたり、逆に私自身の過去の失敗談を話してみたりして、次のチャレンジに向かう気持ちを持たせてあげるようにしています。

村中 失敗を恐れない環境をつくるようにもしています。失敗した子を怒ったりするようなことはありませんし、危ないことや、どうしてもうまくいかなくなってきたことには、きちんとストップをかけます。そのため、どんどんチャレンジしていける環境になっているのかなと思います。

小比類巻 成功はもちろん、失敗も含めて「やってよかった」と思ってもらえるような体験を、子どもたちに届けてあげたいと思いますね。

――よく保護者にとってジレンマになるのが、ついつい教えすぎてしまう、口出ししすぎてしまうという問題です。何もかもを子どもに教え込んでやらせるのは、子どもの意欲を削いでしまうような気がします。

小比類巻 そこのバランスは、確かに難しいと思います。ある意味、私たちのような自然学校のスタッフは「第三者」だからこそ、適度なバランスでつかず離れずの指導ができるというのはあるかもしれません。

 また、自然環境での活動は、どうしてもある程度の危険と隣り合わせです。危険を避けるためのポイントがなかなか分からず、不安が先に立ってしまうのは無理もないかと思います。その点、私たちは長期にわたるノウハウがありますから、安全を第一にしつつ子どもの自由な活動を尊重するという、ほどよい距離感での対応が可能です。

子どもたちの安全への配慮は徹底する

――子どもの自然体験に関心のある保護者の方へ、メッセージをお願いします。

小比類巻 「まずはやってみよう」という気持ちで、気軽に関心を持っていただけたら嬉しいですね。安全をしっかり確保して子どもの可能性を伸ばしていきますので、ぜひあずけてみてください。

館野 自然は、人が生きていく上でなければならない環境です。人とのかかわりもまた、生きていくには欠かせません。だからこそ、これらの環境に苦手意識を持つことなく、自分の力でチャレンジできる人になれるよう後押ししていきたいと思っています。ぜひ一歩踏み出して、いろんな学びを体験してもらえたらと思います。

村中 日常ではなかなかできない冒険、一歩を踏み出す勇気を持てるのが、私たちの自然体験です。ぜひ背中を押していただけたらと思います。失敗もふくめて、優しく見守ります。

未知なる環境への冒険者――アウトフィッター

【取材を終えて】
 先行きが不透明で、価値観が矢継ぎ早に変化し続ける現代社会において、未知なる環境に恐れずふみこみ、前向きに“やる気”を発揮できる人材は今後ますます求められるようになるかと思います。
 単に自然とふれあうだけではなく、そこでの自然と人とのかかわりを学んでいくからこそ、国際自然大学校の自然体験は子どもたちの「やってよかった」「もっとやりたい」といった気持ちを引き出すことができるのでしょう。
 こうした経験を経た子どもたちが、やがてイキイキとした表情で社会へと羽ばたいていくのがいまから楽しみです。


 自然体験プログラムの最新情報は、こちらからご確認ください。

 

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