仕事・働き方

【サンドアーティスト・伊藤花りんさん】「表現したい」思いと自分のルーツをシンクロさせた、砂×音楽×動きの美が織りなすアートの世界

2022.09.8

伊藤花りんさん
音楽に合わせて、砂でストーリーを紡いでいく「サンドアート」。伊藤花りんさんは、幼少期からのバレエの経験を活かした美しい動きで、優しい物語を創り上げます。ライブパフォーマンスや公演、ミュージックビデオ、本の装丁画など活躍の場は広く、その世界観に魅了される人が続出。10年前はほとんど知られていなかったサンドアートを日本で広め、独自のスタイルを確立した歩みを紐解きます。

 


 

伊藤花りんさん

伊藤花りん(いとう・かりん)

サンドアーティスト。北海道出身、東京在住。大学時代に映像の自主制作などを通じてサンドアートに出会う。2012年に本格的に活動を開始。林原めぐみ・ディズニーオンクラシックなど様々なアーティストとライブでのコラボを展開し、映像分野では東方神起、斉藤和義などのアーティストのミュージックビデオを制作。YouTubeで四季折々のオリジナルストーリーを定期的に配信しているほか。雑誌や絵本の挿絵画などのイラスト、ワークショップなど、幅広く活動中。

ホームページ:サンドアーティスト伊藤花りん公式ホームページ
Instagram:karinitotheater
YouTube:https://www.youtube.com/user/karinitotheater  
     
【伊藤花りんサンドアートパフォーマンスコンサート2022】        
日時:2022年9月16日(金) 開場:18:30 開演:19:00

 

 

砂の魅力は変化し続けるライブ感


    

――サンドアートは、光と砂と音楽が合わさって幻想的ですね。伊藤さんの手の動きも美しいので、ついつい見入ってしまいます。

    

ありがとうございます。砂の面白いところは、一瞬で絵を動かせるところです。ペンや筆で描くと、一瞬で消したり絵を変えるのが難しいのですが、砂は音楽に合わせてストーリーを作ることもできるし、同じ空間でお客さんと音楽とサンドアートが一緒に変わっていくライブ感も味わえるんですよ。それが、砂で絵を描く一番の面白さかなと思います。

    

――ライブパフォーマンスも見てみたいです! 今年で活動10周年目だそうですが、今はどのようなお仕事が多いのですか?

     

いろいろな企業のパーティイベントでライブパフォーマンスをしたり、アーティストの曲に合わせてパフォーマンスをするために公演に出演させていただいたりしています。「星の王子さま」の公演は全国でやらせていただいているのですが、ピアノに合わせて私がサンドアートをして、そこに朗読を重ねる形で、3人で90分間の舞台を作っています。映像系だと、ミュージックビデオや、砂の博物館などの施設で流す映像の制作の依頼なども受けたりしていますよ。    

      

伊藤花りんさん
曲に合わせてストーリーを展開させていくライブパフォーマンス(写真:本人提供)

――活躍の場が幅広いのですね。YouTubeの配信やライブパフォーマンスではMCもされていますし、絵を描きながら同時にいろいろなことを一人でこなしているのがすごいです。

    

サンドアートの練習に割く時間が長いので、MCはいつもグダグダになってしまって反省しているんですが(笑)。ただ、作品の背景がわかるとより楽しめると思うので、MCでは「こういう経緯で作品ができています」というお話を伝えたりしています。

    

――物語は、どのようにして作っているのですか?

    

考えごとをしながら外を歩いていたり、本屋さんに行ったり、買い物に行ってものを見たりした時に、「あ、これ面白いかも」という感じで閃くことがあるんです。特に、街を歩いている時はインスピレーションが湧いてくることが多いですね。

    

――つまり、台本も伊藤さんが完全なオリジナルで作っているんですか!

     

ええ、そうです。作品を作るときはまず、どういう構成にしようかを考えて絵を描き始めるんです。ストーリーの流れに加えて、砂で描いた絵をどう使って変化させて次の絵に展開するかがポイントで、パズル的な感じで組み立てていくんですよ。あとは、音楽などに合わせて「ここまでに終わらせよう」という尺を考えます。

    

伊藤花りんさん
絵が変化していく様子も楽しい(写真:本人提供)

使いたい曲が先にある場合は、「この音を使いたいな」と発想が広がることがあるので、物語の作り方が変わります。曲を聴いてストーリーを考えながら、「手の動きと合わせて何かできないかな」とか、「この楽器と連動したら良さそうだな」というアイデアを加えていきます。曲から作るときは、音楽をいっぱい聴いて、自分の中でイメージが沸いてくるようにするんですよ。

    

――しっかりとした構成があるから、音楽と砂や手の動きがシンクロして、物語に奥行きが感じられるんですね。春夏秋冬、出会いと別れ、家族や故郷など、テーマも様々ですが、伊藤さんの体験も生かされていますか?

     

そうですね。私は北海道出身なのですが、今は東京に住んでいます。家族との思い出や自然との触れ合いなど、北海道にいて当たり前だったことが、東京に来てからは当たり前じゃないんだな、と思って、いろいろなことに気づいて。

逆に、北海道に住んでいたときは「南に行ってみたい」と思って、沖縄旅行に行ったりもしました。植物や、家の造りなどを観察して、「こんなに家のドアや窓が空いていたら、雪が積もって大変!」と思ってしまいましたけど(笑)。そんなふうに、体験することが変わると発想も変わって、作品にも生きてくるんですよ。

     

伊藤花りんさん
四季に合わせたテーマも(写真:本人提供)

     

「表現したい」思いがサンドアートとの出会いにつながった


         

――伊藤さんは、小さい頃からアートに触れる機会が多かったのですか?

         

ええ。母が美術系の大学に行って絵を描いていたんです。あと、服をデザインして作ることもやりたかったみたいで、絵と服飾の学校に行って両方やっていた人で。小さい頃からそういうものに触れる機会は多くて、よく美術館に行っていましたね。

    

――その時からいろいろな刺激を受けていたんですね。小さい頃の夢はなんだったのですか?

    

5歳からバレエを習っていたので、小さい頃はバレエダンサーになりたかったんです。ただ、バレエは体が一番動く時期が短くて、プロを目指す人は10代後半ぐらいで留学したり、コンクールに出たりと、分岐点が早いんですよ。

私の場合は、ストイックさが足りず、その時期に「プロになるのは難しいかもしれない」と思ったんです。舞台で踊ることや表現することは本当に好きで楽しかったのですが、第一線でプロとしてやるのは難しいと思い、諦めて大学に進学しました。

     

――厳しい世界なんですね…。でも、美術系の大学に進もうとは思わなかったですか?

     

ええ。絵を描くことは好きで、美術の授業なども好きだったのですが、その道で生きていけるとはまったく思っていなかったので、高校は普通科に行き、大学では心理学を専攻しました。

     

伊藤花りんさん
バレリーナを目指していたことも(写真:本人提供)

――サンドアートには、どのような形で出会ったんですか?

     

大学を卒業するぐらいの頃から、また表現活動がしたい、と思うようになって、自主制作を作る現場などに参加させてもらうようになったんです。

その中で、クリエーターの方たちと知り合う機会が増えていって。最初は実写とコマ撮りのアニメーションを合わせた作品を作っていたんですね。ライトボックスの上でビーズを動かして絵を変えながら作っていくのですが、ある時、「砂だとその絵をリアルタイムで動かせるよ」と聞いて、「そんなのがあるんだ!」と。それがサンドアートとの出会いです。

長くバレエをやっていたこともあって、手の動きは体に染みついていましたし、それも活かせそうだと思って、「もしかしたらこっちの方が向いているかも?」と、軽い気持ちで初めたのがきっかけでした。

     

――当時、サンドアートを学ぶ場所はあったのですか?

     

私が始めたのがちょうど10年前ぐらい前なんですが、当時サンドアートをやっている方は国内でも海外でもまだ少なかったです。日本にはほとんどいなかったので、海外のアーティストの作品を見て参考にしていました。YouTubeを見て「こうやってやるんだな」と研究して、自分で動画をアップしたりしていましたね。

それで、現場で知り合ったクリエーターの方たちにも作品を見せていたら、幸運にも「うちの会社で仕事をやってみる?」と声をかけてもらったり、アップした動画を見た人から依頼をいただけたりするようになったんです。「これは本気でやらないと!」という感じで、頑張って環境を整えていきました。

     

――自分から積極的に発信していくことで道が開けたんですね。大学卒業後、就職活動などはせずに、サンドアートを初めてすぐに生活の基盤を築くことができたんですか?

     

大学3年生の時に就職のための合同説明会などには行ったのですが、就職をして何がしたいのか、私にはピンとこなかったんです。それでどうしようか迷っていた時に、当時アルバイトをしていたコーヒーショップで、友人に「好きなことをやったら?」と言われて。その言葉がきっかけで、「どうせなら自分で決断して、好きなことをしよう」と思いました。周りに流されて決断すると、失敗した時に「人にこう言われたから」と言い訳してしまうかもしれませんが、自分で決めたことなら、失敗しても自分の責任だと思えるからです。

それで、卒業後に東京に来てからは、時間がある時にアルバイトをしながら自主映画を手伝ったり、自分でビーズを使った実写とコマ撮りの作品を作って上映会をしていました。その後、作る作品がサンドアートに変わっていったんです。

そのような環境だったので、「この道でやっていこう!」と思ってサンドアートを始めたというよりは、気づいたらこの道一本でやっていた、というイメージです。

     

――2014年には東方神起のミュージックビデオで伊藤さんのサンドアートが使われたことも話題になっていますね。作品によっていろいろな反響があると思いますが、絵を描いていて一番嬉しいのはどんな時ですか?

サンドアートを見ている方に、本当に楽しんでもらえたんだな、と感じられた時はすごく嬉しいです。たとえば、家族連れなどでライブパフォーマンスを見に来てくれした時に、子供がお母さんに「これすごいね」と言ってくれたり、後で、作品についていろいろ話してくれたり。言語や世代などの違いを超えて、同じ空間で楽しんでもらえるのもサンドアートの魅力だと思っているので、それがみんなをつなぐコミュニケーションの手段になった時は、「やっていて良かったな」と思いますね。

     

東方神起 / 「Time Works Wonders」 サンドアートVer.

 

大変なことも「好き」だからこそ楽しめる


     

――砂を触るのは気持ちよさそうです。でも、絵を描くためにはコツがいりそうですね。

     

砂はかなりキメが細かいので、肌触りは気持ちがいいと思いますよ。ただ、変化しやすいのが難しさでもあります。静電気にも弱くて、手に張り付きやすく、肌の脂などの汚れによって落ち方が変わることもあるので。画面の上で静電気が起きづらいように、私はアクリルではなくてガラスを使っています。ただ、ガラスは上から落とすと跳ねやすいので、際から落として描くのがコツですね。

     

――「どんな道具を使うか」ということも、いい作品作りのポイントなんですね。ライブの時、スクリーンや砂などはどうやって運ぶのですか?

     

砂やカメラはスーツケースに入れて運んでいます。砂は一回3kgぐらい使っていて、結構な重さがあるんですよ。ガラスのサンドアート台は大きいので、専用のケースに入れて、三脚と一緒に車で移動します。地方の場合は三脚とアート台を郵送して、砂や他の機材は自分で運んでいます。ガラスは割れてしまうと本番ができなくなるので、一番ハラハラするポイントです。  

大変なことも含めて楽しさのうちだと思っていますが、荷物を運ぶことに関してはあまり楽しめないですね(笑)。 

伊藤花りんさん
全国でライブパフォーマンスを行なっている(写真:本人提供)

――それは大変そうです。他に、今振り返ってみて「苦労したな」と思うことはありますか。

     

一番大変だったのは、絵を描くことですね。美大などを出ている方は、それはもうすごい数の絵を描いてきて、クロッキーやデッサンも数をこなしてきているんです。私にはその積み重ねがほぼなかったので…。サンドアートでお仕事をするようになって、一番最初にしたことは、絵の教室に行くことでした。

「どう描くか」というのは閃きや発想力でも補えますが、絵を描くことに関しては、絵を勉強するしかないんですよ。それに、ペンで描いた方がたくさん練習できますし、ペンで描ければ砂でも描けますから。私は最初に集中講座に行って、クロッキーの教室には今も通っています。2分でモデルさんを描いたり、5分ぐらいで人体を書いたりして、楽しいですよ。そういう基礎のトレーニングは今も続けていますね。

     

――しっかりした基礎があるから、閃きを形にしやすいのですね。国内外のさまざまなサンドアーティストの中で、伊藤さんが「ここだけは負けない!」という部分は、どんなところだと思いますか?

私が大切にしていることは、まずは砂を使ってしっかりとテーマを表現することです。時間をかければ精巧な絵を描くこともできると思いますが、物語にしてこそ、だと思うので。どういうふうに物語を変化させていくのかということや、バレエの経験を活かして曲に合わせた動きで「魅せる」ところは、特にこだわっているところです。

     

伊藤花りんさん
美しい手の動きにも惹きつけられる(写真:本人提供)

 

サンドアートを架け橋に


     

――伊藤さんはライブの傍ら、サンドアートを広める活動もされていますよね。

ええ。たまに子供向けのワークショップや、講演とセットで砂を触ってみる体験などをしています。ワークショップは時間が決まっているので、教えるというよりは、自由に描くことを楽しんでもらったり、一緒に蝶々の絵を描いてみたり、という感じです。

     

――まずは「好きになる」ことが、上達の秘訣ですか?

     

そう思います! やっぱり「好きこそ物の上手なれ」だと思うので、「楽しい」と思えることは、一番大切なことだと思います。あと、私の場合は見てくれている方がいるおかげで「頑張ろう!」と思えます。いつも配信を見てくださる方や、作品を追ってくれる方たちがいてくださって、そのことは発信し続ける原動力になっていますね。

     

――全国を飛び回って活動しておられますが、今後、新たに挑戦してみたいことはありますか?

     

ここ数年、コロナ禍でワークショップなどをする機会が減ってしまったので、落ち着いたらまた子供たちと一緒に描いたり、楽しさを伝える活動をやれたらいいな、と思っています。直に砂に触れて、サンドアートの魅力を感じてほしいです。

あとは、サンドアートを通じて言語や年代の壁みたいなものをなくしていけたらいいなと思っていて、海外の方や、おばあちゃんとお孫さん、とか、ご家族など、いろいろな方に幅広く楽しんでもらえるような作品を作っていきたいです。

     

――新しい作品が楽しみです。最後に、伊藤さんのように「好きなこと」に出会うためのアドバイスがあれば、ぜひお願いします。

     

今の時代って、すごく選択肢が多い世界になっていると思うんです。

たとえば昔だったら、「プロゲーマー」という職業はありませんでしたよね。ゲームをしていたら、「そんなことばっかりやって!」と親から怒られて(笑)。でも、今は「eスポーツ」というジャンルがあって、ゲームが仕事になり、それをみんなが楽しめるエンターテインメントにできる時代です。その分、チャレンジできることも増えていると思うので、まずは自分が「楽しい」と思うことをやってみるのはいいんじゃないかな、と思います。

「仕事ではなく、趣味として楽しみたい」ということでもいいですよね。自分が興味があるものについて調べたり、習い事を始めてみてもいいですし、参加したり体験したりしてみる。そうしたら、想像と違ったり、自分に何が向いているのかがわかったりして、いろんな発見があると思うので。知らないことに飛び込むのはドキドキすると思いますけど、思い切ってその一歩目を踏み出してみるのはオススメです。

     

――ありがとうございました。今後も配信など、楽しみにしています!

    

       



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この記事を編集した人

ナカジマ ケイ

スポーツや文化人を中心に、国内外で取材をしてコラムなどを執筆。趣味は映画鑑賞とハーレーと盆栽。旅を通じて地域文化に触れるのが好きです。

 
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