生活・趣味

競走馬を殺処分から救いたい。引退後の保護活動「ホースプロジェクト3S」の道

2020.09.14

華々しい競馬界の裏側で、多くのサラブレッドたちが殺処分されていることをご存じでしょうか?そのような状況を変えるべく設立された「ホースプロジェクト3S」。競走馬を殺処分から救いたい―。発起人の田中さんに、その「やる気」の源を直撃しました。

 

 


 

 

競走馬のその後
殺処分はあたりまえ?


 

競馬という華々しい世界――。しかし、それは多くのサラブレッドの犠牲の上に成り立ってきたということを、みなさんはご存じでしょうか。

 

毎年、競走馬となるべく生まれるサラブレッドたちは7,000頭。その一方で、事故やケガにより、年齢関係なく引退を余儀無くされる馬は、年間5,000頭に上ると言われています。

 

それでは、引退後の競走馬はどこへ行くのか?

 

JRAの公式ホームページによると、引退馬は「乗馬クラブなどへ引き取られる」とのこと。しかし、引き取られた後にどうなってしまうのかという情報は、あまり公にされていないというのが現状です。

 

食費などの維持費がかかる大型の馬たち。実は、引き取り先で「必要がない」とみなされ、殺処分されて馬肉として売り渡されてしまうことが、あたりまえのようにおこなわれているのです。

 

ホースプロジェクト3Sの発起人・田中勝麻さん(写真:本人提供)

 

そんな実情を変えたい。引退馬を殺処分から救いたい――。その思い一つで立ち上がったのが、田中勝麻さんシステム・シャイン・サービス株式会社専務取締役でした。

 

彼は、洗剤の開発販売や清掃サービスの提供などをおこなう会社を経営する傍ら、2019年6月に引退馬を救う活動「ホースプロジェクト3S」を設立したのです。

 

クラウドファンディングで支援金を募り、群馬県前橋市にある豊かな自然あふれる赤城山の麓に位置する、乗馬クラブ「ステーブルリープリング」へと送る。競走馬引退後の受け入れを積極的におこなっているこの施設で、引退馬がセカンドライフを楽しめるよう活動しています。

 

 

「動物らしく」安心して暮らせる場所を提供したいという願いの元、引退したサラブレッドたちをリトレーニングし、乗馬や馬術馬、セラピーホースとして活躍させることに尽力する田中さん。

 

今日は、そんな田中さんに「ホースプロジェクト3S」設立秘話と、そのやる気の源についてお聞きしました。

 

 

競走馬を殺処分から救う
ホースプロジェクト3Sとは


 

――田中さんが発起された「ホースプロジェクト3S」の概要を教えてください。

 

群馬県の赤城山の麓にある「ステーブルリープリング」さん協力の下、可能な限り引退馬を引き受けており、現在、24頭の馬たちと毎日楽しく生活しています。そのうち15頭が元々競走馬だったサラブレッドたちです。

 

企業様を含む130組以上の方々にご支援のご協力をいただいて、このような活動ができています。送っていただいた支援金は、主に引退馬たちの食費、装蹄費、施設管理費用や新たに受け入れる馬の為の馬房増設費用や医療費などに使われています。

 

ホースプロジェクト3Sでは、ご支援いただいた方全員に感謝状や蹄鉄、支援金額に応じて実際に引退馬に乗れる体験チケットなどを配布し、楽しんでもらえる取り組みをしています。

 

――どのようにして、このプロジェクトの輪を広げているのですか?

 

船橋競馬場では<ホースプロジェクト3S引退馬支援特別賞>など冠レースに協賛し、競馬ファンの皆様にアピールしています。その他にも、自社製品に案内リーフの同封やクラウドファンディング、新聞広告、SNSの拡散など、微力ではございますが引退した競走馬のために活動の輪を広げております。

 

水間鉄道の広報担当者は「電車とともに馬がセカンドライフを颯爽と走り抜けている」と語る(写真:水間鉄道株式会社提供)

 

10月には水間鉄道さんの協力を得て、電車のヘッドマークに起用されました。このプロジェクトを通じて、たくさんの皆様に競走馬のセカンドライフの在り方を知っていただけたら嬉しいです。

 

 

引退馬を救う理由


 

――ホースプロジェクト3Sは、田中さんの「競走馬を救いたいという」強い信念を感じます。そもそも、どうしてこのプロジェクトをはじめたのでしょうか?

 

祖母が競走馬育成場に勤めており、私は子供の頃から馬と触れ合って育ちました。また、父が馬主ということもあり、自分も競走馬を所有したいと心にとどめました。

 

仕事に精進し、25歳のときに馬主の資格を取得。中央下がりの馬を購買しました。しかし、馬を所有することの大変さを実感し、競馬の世界は甘くないことを学びました。

 

引退後のシーハリケーン号(現フィリップK.T)の世話をする田中さん(写真:ステーブルリープリング提供)

 

たくさんの方々にサポートしていただきながら、大井競馬場でついに地方デビューを果たした「シーハリケーン号」。初めて所有した馬だったこともあり、とても愛着いっぱいでした。

 

しかし、私はふと思ったのです。「この馬が引退したらどうなる?」、と。

 

競走馬は、気性の問題で全ての馬が乗馬に適しているとは限りません。年間約7,000頭も誕生するサラブレッド。そのほとんどが、人間の都合で殺処分されるのが現状だと知り、夜も眠れない日々が続きました。

 

そんなある日、私はゴルフの帰りに偶然目にとまった「エフォートステーブル」に立ち寄りました。オーナーの長谷川氏とは年齢も近いお陰で意気投合し、「殺処分は絶対にしない」という約束で、シーハリケーン号を譲ることに決めました。引退後は自分の好きな名前をつけたいと、シーハリケーン号から、ギリシャ語で馬を愛するものを意味する「フィリップK.T」(K.Tは発起人のイニシャル)に命名しました。

 

「この馬は乗馬じゃなく、馬術で通用する」。その後、エフォートステーブルからこのような連絡をいただきました。その一報がきっかけとなり、現在の引退馬支援活動の場である「ステーブルリープリング」さんに移ることになったのです。

 

雪がうっすら積もる日。ステーブルリープリングへご挨拶にうかがい、施設を案内していただきました。ここでは、引退馬をはじめ失明したポニーなど、さまざまな馬が在厩しており、馬一頭一頭これまでの歩みを教えていただきました。牧場名の「リープリング」はドイツ語で、愛するもの・大切なものを意味します。その名の通り、馬を愛し大切にするといった意志が、この地にはありました。

 

ステーブルリープリング。赤城山の麓で幸せに暮らす馬たち(写真:ステーブルリープリング提供)

 

私は、この赤城山の大自然に囲まれた地から、一頭でも多く競走馬の命を救いたいと、強く思いました。それが、ここにホースプロジェクト3Sを発足することになった顛末なのです。

 

 

必死で行動すれば
必ず報われる


 

――田中さんの「やる気」の源を教えてください。

 

ホースプロジェクト3Sを発足し、初めて受け入れた一頭の馬がいます。「前の施設でまともに飼い葉を与えられていない馬がいるから、引き取って欲しい」と連絡があったんです。

 

すぐに、スタッフが馬運車を走らせました。私も東京から車を走らせ、栄養価の高い飼い葉・チモシーを手配し、向かいました。

 

名前も血統も年齢も、何もかもわからない。引き取った時には、骨が浮き上がり立っていることすらできない。しかし、その馬は「生きたい」と、必死に訴えかけてきたのです。私は見ているだけで、涙が出てきました。可哀想な姿を初めて目の当たりにし、モチベーションが下がり、不安でいっぱいになったことを覚えています。

 

それでも、リープリングの八木さんが夜も寝ずに必死に看病してくださったおかげで、今では見違えるほど立派な馬体を取り戻すことができました。ホースプロジェクト3Sを通じて、他県から沢山の黒糖と人参を持って見に来てくれる支援者もできました。

 

コスモの姿勢から、明るい性格は大金よりも価値があることを学んだという(写真:八木めぐみ提供)

 

その馬は、「コスモ」と名付けられました。

 

コスモは私に様々なことを教えてくれました。「馬は愚かであることを望まない」。モチベーションややる気がでなくても、きっとうまくいくと信じることが大切なのだと――。そして、馬も人間も、生き物は皆同じなんです。1人じゃない。仲間がいる。必死に行動すれば、報われる時が来るのだと。

 

私は今でも、落ち込んだ時は絶対にネガティブな行動をしないようにしています。ネガティブな姿勢は、ポジティブな行動の5倍も大きな影響をもたらしますからね。

 

――ホースプロジェクト3Sのこれからと、田中さんご自身の目標を教えてください。

 

先にもお話したフィリップK.Tは今年、全日本ジュニア選手権の出場資格を得るまで成長しました。ここまで来ることができたのは、エフォートステーブルそしてステーブルリープリングなど関係者皆様のお陰です。支援いただいた皆様、そして馬を世話してくれているスタッフ、ボランティアの方々へ感謝の気持ちは決して忘れません。

 

引退馬と保護している猫(写真:ステーブルリープリング提供)

 

今後も、生き物を愛し、謙虚さと思いやりを身につける事ができる支援の輪を提供し続けていきたいです。

 

ステーブルリープリングでは、馬だけではなく、保護された犬や猫を救う活動も行っています。犬や猫は新しい飼い主さんを探したり、地元の子供達が学校帰りに立ち寄って馬のお世話をしたりしてくれています。「親から子へ、子から子へ、」この活動を通じて沢山の事を学んで欲しいですね。

 

そして、個人的に、1つ達成したい目標があります。馬主として1勝し、口取り写真を取ることです。今年、初めて新馬で購入した「ジェンティーレ号」。この馬も引退後は幸せにセカンドライフを過ごせるよう、馬主として責任を持って道を切り開いていきます。

 

――1頭でも多くの競走馬が、殺処分から救われることを期待しています。それでは最後に、一言お願いいたします。

 

ホースプロジェクト3Sは、おかげさまで1周年を迎えました。これからも細く長く活動できるように、応援をお願い申し上げます。

 

お近くにお越しの際は、ぜひステーブルリープリングヘ引退した競走馬たちが幸せに暮らしている様子を見にいらしてください。スタッフや子供たちが、笑顔でお待ちしております。

 

新型コロナウイルスが早く収束しますように。馬も人間も安心して暮らせるように願っております。

 

――ありがとうございました!

 

【謝辞】 ホースプロジェクト3S発足にあたり、ステーブルリープリング、エフォートステーブル、大井競馬場、浦和競馬場、調教師各位、井ノ岡トレーニングセンター、育成場オークリーフ、(株)中央メディアエージェンシー、(株)イサオ商会、ジュンミニゴルフ様(その他、個人名の方の名前は控えております)基盤を作っていただいた皆様に感謝申し上げます。この記事の編集にあたり、やる気ラボの勝部様、本当にありがとうございました。

ホースプロジェクト3S
システム・シャイン・サービス株式会社
田中 勝麻

 

 

 

 


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この記事を書いた人

勝部晃多(かつべ・こうた)

やる気ラボの娯楽記事担当。23歳。ハウストラブルコラムやIT関連のニュースライターを経、2019年8月より現職。趣味はプロ野球・競馬観戦や温泉旅行、読書等と幅広いが、爺臭いといわれるのを気にしているらしい。性格は柴犬のように頑固で、好きな物事に対する嗅覚と執念は異常とも評されている。

 
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