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マグレガーのX理論・Y理論とは?基礎から発展・関連理論までわかりやすく解説!【やる気を引き出すマネジメント】

2021.05.26

部下や後輩に厳しく指導しすぎて、彼らのやる気を奪ってしまったという経験はありませんか?企業と従業員の関係性もそれと同じように厳しければよいというものではなく、良好な関係を作るのは簡単ではありません。今回はマグレガーのX理論・Y理論を中心に、発展・関連理論であるコンティンジェンシー理論やZ理論など、「モチベーションを上げるマネジメント」について学べる理論を総合的に解説します。

 

 

 

マグレガーのX理論・Y理論とは?


 

X理論・Y理論とは、アメリカの心理学者ダグラス・マグレガーが著書『企業の人間的側面』で提唱した、マネジメントに関する2つの対立的なモチベーション理論(動機づけ理論)です。

彼は、「人間は怠惰だから、経営者はアメとムチを使って労働者を管理するべき」という性悪説に基づいた従来のマネジメントのありかたをX理論、「人間は、目標や責任を持って働きたいと思っているから、経営者はそれらが企業の目標と繋がるような労働環境をつくるべき」という性善説に基づいた新しいマネジメントのありかたをY理論として、経営者に後者を推奨しました。

 

  

   

マズローの欲求五段階説からの影響

X理論・Y理論の考え方は、実はアブラハム・ハロルド・マズローの「欲求五段階説」に大きな影響を受けています。
欲求五段階説は、人間の欲求は以下の5段階に分かれており、人間は低次の欲求から高次の欲求へと移行していくという説です。

アブラハム・ハロルド・マズローの欲求五段階説

それぞれの欲求には、以下のような意味があります。カッコ内はその具体例です。

生理的欲求:生存のための本能的な欲求(睡眠、食事など)
安全の欲求:安心安全な暮らしを求める欲求(経済的安定など)
社会的欲求:仲間を求める欲求(組織への所属など)
承認欲求:尊敬を求める欲求(出世など)
自己実現の欲求:自分らしく生きたいという欲求(理想の自分への接近など)

生理的欲求や安全の欲求が求められた時代であればX理論でも大きな問題は生じにくかったのですが、現代では多くの人が低レベルの欲求は満たしています。そのため人々はより高レベルの欲求、つまり社会的欲求や承認欲求、ひいては自己実現の欲求の充足を労働に求めます。それに対応するために、個人の達成感や責任感を尊重するY理論のマネジメントが必要だとマグレガーは考えたのでした。

 

 

 

X理論・Y理論の限界

『企業の人間的側面』は多くの人々に読まれる非常に有名な本となりましたが、一つ問題を抱えていました。それは、X理論・Y理論どちらも状況によって有効な場合とそうでない場合があったということです。
つまり、どちらも(推奨されていたY理論でも)どんな状況でも機能するというわけではなく、このままではあまり実践的とは言いがたかったのです。

 

  

  

コンティンジェンシー理論とは?


 

X理論・Y理論が抱える問題に一つの回答を出したのがコンティンジェンシー理論です。この理論のカギとなるのが「センス・オブ・コンピタンス」という言葉です。

自分が従事している仕事や環境に慣れ親しみ、技能が向上することでもたらされる満足感の積み重ねを「センス・オブ・コンピタンス」(業務にまつわる能力やセンスを高めるセンス)と呼ぶ。

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践』(ダイヤモンド社)pp.248

コンティンジェンシー理論ではこの(従業員の)センス・オブ・コンピタンスを満たすことがマネジメントにおいて重要だと考えられています。そして、センス・オブ・コンピタンスが満たされるのは次のような場合とされています。

マネジャーにとって、コンティンジェンシー理論が意味することは、業務と組織と人材のフィットに尽きる。これら三つの相互関係は複雑とはいえ、おそらく業務と人材に合わせて組織を構成するのが最も賢明だろう。
これら三つをフィットさせることができれば、優れた業績とセンス・オブ・コンピタンスへの動機が高まるだろう。

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践』(ダイヤモンド社)pp.265

X理論・Y理論は、どんな環境でも機能する一つの正しいマネジメントを探すような方向性でした。しかし、現実には私たちは多種多様な環境で働いていますし、人それぞれ個性があります。

コンティンジェンシー理論は、例えば想像力よりも正確さが必要とされるような業務なら厳格なルールを策定する、逆に正確さよりも想像力が必要な業務なら柔軟性のある最小限のルール留めておくといったように、業務・人材に合った組織づくりをすることが最も効果的だと提唱したのです。

  

 

 

Z理論とは?


    

最後にX理論・Y理論の発展的な理論として知られるZ理論について解説したいと思います。

   

   

   

マグレガーのZ理論

X理論・Y理論の矛盾を解消するためにマグレガー本人が新たに取り組んだ理論をZ理論といいます。しかし、残念ながらマグレガーはZ理論の完成前に死去してしまいます。
Z理論あるいはX理論・Y理論の発展的な理論はマグレガー以外にもW. J. レディンやマズローなど他にも幾人かの学者が発表しましたが、その中で最も有名なのがウィリアム・オオウチの「セオリーZ」です。

 

 

  

ウィリアム・オオウチのセオリーZ

道半ばで終わってしまったマグレガーのZ理論を受け継ぎ、そして発展させたのがアメリカの経営学者ウィリアム・オオウチです。オオウチは著書『セオリーZ』で同名の理論「セオリーZ」を提唱しました。
彼は、日本の会社(Jタイプ)とアメリカの会社(Aタイプ)は一般的にそれぞれ以下のように対照的な特徴を持っていると考えました。

対照的な相違

〈日本の組織〉
終身雇用
遅い人事考課と昇進
非専門的な昇進コース
非明示的な管理機構
集団による意思決定
集団責任
人に対する全面的な関わり

〈アメリカの組織〉
短期雇用
早い人事考課と昇進
専門化された昇進コース
明示的な管理機構個人による意思決定
個人責任
人に対する部分的関わり

ウィリアム・G・オオウチ『セオリーZ』(株式会社CBS・ソニー出版)pp.88

その上で、例えばIBMやイーストマン・コダックのような、Jタイプの特徴を持ったアメリカの会社=「Zタイプ」の会社がアメリカの会社にとって理想だと主張しました。

Zタイプの会社はアメリカの会社でありながら、終身雇用や非専門的なキャリアコースといったJタイプの特徴を持っています。一方で責任はAタイプのように個人責任であったり、人事考課と昇進はJタイプよりは早いもののAタイプよりは遅かったりと、単純にJタイプと同じというわけではなくA・Jタイプ両方の特徴を併せ持っています。

日本ほど同質的な人の集まりではないアメリカで、うまくバランスをとって、Jタイプのように時間をかけて強固な信頼関係などを築くための仕組みが導入できているのです。

Zタイプの会社内には強固な信頼関係があるため、社員それぞれが自律的に動きやすい環境です。そのため、社員のやる気や忠誠心、そして生産性が高い場合が多いといわれています。

ただし、Zタイプの会社にも弱点はあります。

例えば、Zタイプの会社は、社風によって全体の意思が統一されている場合が多いです。社風はすぐに変えられるようなものではないため、環境の急激な変化が起きた場合、素早く対応できないことがあります。

また、専門化された昇進コースを採用しているAタイプと比較すると、社員の専門性の高さでは劣る場合があるなどの弱点も指摘されています。

 

  

    

まとめ


 

最後にX理論・Y理論のポイントを3つおさらいしておきましょう。

ポイント1:X理論は、「人間はそもそも仕事が嫌いで、責任を好まない」という性悪説に基づいている。そのため、X理論では経営者は労働者に決まった仕事を与えて、それを監視し、報酬や処罰などの所謂「アメとムチ」で成果を出させようとするマネジメントを行う。

ポイント2:Y理論は、「人間は仕事に関心があり、目標の達成や責任を求めている」という性善説に基づいている。そのため、Y理論では経営者は個人の目標や欲求などを企業の目標につなげようとするマネジメントを行う。

ポイント3:Y理論は万能というわけではなく、また単体ではあまり実用的な理論ではない。コンティンジェンシー理論やZ理論といった発展・関連理論を学ぶことで、より実践的に活用することが可能になる。

その他のモチベーション理論についても、以下の記事でまとめて特集しています。ぜひご覧ください。

動機づけとは?理論を活かしてモチベーションを高める!

〈参考文献〉
村田 晋也『マグレガー管理論の形成に関する一考察:1950年論文を中心にして』(九州国際大学経営経済論集 第17巻 第3号 pp.145-164)
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部『【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践』(ダイヤモンド社)
ウィリアム・G・オオウチ『セオリーZ』(株式会社CBS・ソニー出版)
ゲイリー・レイサム『ワーク・モチベーション』(NTT出版)

 

 

 

 

この記事を書いた人

ミズタ

やる気ラボライター。趣味は映画と音楽。インタビューとコラムをメインに書いています!

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