やる気レポート

なぜ「根気」はなくなってしまうのか? 脳内メカニズムが判明――慶應義塾大学医学部

2019.04.30

【小学生】【中学生】【高校生】【保護者】
  みなさんには、お子さんがやる気になって勉強を始めたにも関わらず、根気が続かず、三日坊主に終わってしまった――という経験はありませんか?
 せっかく入ったやる気スイッチがオフになってしまうのは、何とも歯がゆいものです。
 なぜ、私たちは根気を途切れさせてしまうのでしょうか。そうした疑問へのヒントになる研究成果が、今月半ば、ある研究グループによって発表されました。
 それによると、やる気を途切れさせず、根気よく何かに打ち込むためのカギは「海馬」が握っているとのこと。詳細をうかがいました。



海馬とセロトニンが根気を左右する

 4月16日、慶應義塾大学医学部(信濃町キャンパス、東京都新宿区)がプレスリリースを発表しました。精神・神経科学教室の田中謙二准教授の研究グループが、「根気」に関する脳内メカニズムを発見したというものです。

 一般的に、何かに意欲的に取り組むということの背景には、「①目標を設定してはじめの一歩を踏み出すこと」「②目標の達成まで根気よく行動を継続すること」の2つがあると考えられています。➀を「やる気」とし、②を「根気」とすると、次のように整理されます。

 勉強でたとえると、「期末テストでいい点を取りたい」という目標を立てた場合、行動を起こすためには「やる気」が必要です。しかし、そこで「試験日まで勉強し続ける」という「根気」が続かなければ、三日坊主で終わってしまう――といった具合です。

 これまで、①で示した「やる気」の脳内メカニズムは、同大の研究グループをはじめさまざまな研究が為されており、腹側線条体とドーパミン神経によって発生するものだと考えられています。しかし、②で示した「根気」については詳細に分析された研究はなく、メカニズムは分かっていなかったのだそうです。

根気はなぜなくなってしまうのか

不安によって根気が途切れる

 今回、研究グループは「不安が高まると活動が高まる」とされている腹側海馬という脳内部位に着目。意欲的な行動(意欲行動)と腹側海馬の関係性について調べました。

 その結果、

 ➀意欲行動の継続中は、腹側海馬の活動が抑制されている

 ②目標達成に至らずに行動をやめてしまうと、腹側海馬の活動抑制が解除される(元に戻る)

 ③腹側海馬の活動抑制は、人間の感情に深く関わるセロトニン神経によってもたらされる

 ――といったことが判明。

 海馬やセロトニンの働きによって「不安を感じていないときは行動を続けられる」「不安が高まると行動が中断されてしまう」ことが分かってきました。

 腹側線条体とドーパミン神経による行動開始と、腹側海馬とセロトニン神経による行動継続は、似ているようで違ったメカニズムで働いていたのです。

 
 

不安は、生きるために必要な機能

 なぜ、このような脳の働きが起きてしまうのでしょうか? 同大研究グループの田中謙二准教授にうかがうと、次のように説明していただきました。

祖先から受け継がれた脳の機能

 「不安になると根気が途切れ、やる気がなくなるというのは、自然界の動物としては合理的な機能なんです。

 例えば、私たちの祖先が、草むらで美味しく食事をしている姿を想像してみてください。いまとは違い、あちこちに肉食動物などの天敵がいる時代です。

 いくら食事が美味しいからといって、そればかりに集中しきってしまい、周囲の音や物陰の動きなどから不安を感じることができなければ、忍び寄る危機を察知できず、後ろから天敵に襲われてしまうかもしれません。

 だからこそ、不安をトリガーにいま打ち込んでいる作業を中断し、そちらに注意を向けるということは、生きていくために必要なことだったんです」

 
 

安心できる環境が必要な理由

 もちろん、いまは何かの作業中に天敵から襲われることなど、まず想定しなくてもいい時代です。

 しかし、野生の時代とはまた別の意味で、子どもたちはさまざまな不安に襲われています。「次のテストでいい点が取れないのではないか」「頑張っても試験で落ちてしまうのではないか」といった結果への不安もありますし、「もっと頑張らないと親や先生に怒られるのでは」「友達とケンカしてしまった。明日どうしよう」といった人間関係にまつわる不安もあります。お子さんはもとより、私たち自身もそうした経験は多いはずです。

 重要なのは「不安になると根気が途切れる」のは動物として自然な機能だということです。そこを無理に、不安なまま根気を持続しようとするのは、大変な負荷がともないます。

 だからこそ、子どもたちとていねいに対話をしながら、こうした不安をとりのぞき、安全性を実感できる環境を整えるのが大切なのではないでしょうか。それが、勉強などの行動の持続・粘り強さをもたらして、成功へと導くと考えられます。

 これ自体は、読者のみなさんもおそらく経験としてすでに知っていたことかもしれません。しかし、その科学的根拠が確かめられたということは、大きな意味を持つに違いないでしょう。

 

 同研究グループはこれまでにも、脳内にある「やる気ニューロン」や「移り気ニューロン」といったさまざまな研究結果を発表しています。こうした脳の仕組みを知ることも、私たちのやる気の源泉となる脳とのつきあい方を考える、いい機会になるかもしれません。

 

■関連記事――三日坊主を解決する「学習方略」について

「やる気」の活かし方を知っている?――香川大学・岡田 涼 准教授

 

■田中准教授の研究発表はこちら

脳内にある、やる気のスイッチを発見-意欲障害の治療法探索が可能に-

柔軟な行動選択を行う脳内メカニズムの発見-目標行動を抑制する脳領域機能の一端を解明-

「根気」(こんき)を生み出す脳内メカニズムの発見-粘り強さは海馬とセロトニンが制御する-

 
 

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