やる気パーソン

【農業】1年半で大幅成長。やる気のきっかけは「対話」と「助け合い」だった――やる気スイッチファーム

2019.03.29

【社会人】【シニア】【一般】
 個別指導塾などを運営する株式会社やる気スイッチグループ(本社・東京都中央区)では、シニア雇用スタッフ(以下農場長)と障がいを持ったスタッフ(以下スタッフ)が一体となって働く農園、「やる気スイッチファーム」を運営しています。

 この小さなファームでは現在、数多くの野菜を生産しています。丹精込めてつくられた野菜はどれもクオリティが高く、「スーパーの野菜よりもおいしい!」と好評の声が続々と届いています。

 開園からわずか約1年半。ほとんどが未経験者だったというファームのスタッフが、これほどまでに本格的な農場運営ができるようになった――その成長のカギこそが「やる気」でした。

 本稿では、その成長の軌跡を追いかけます。




大好評の“やる気スイッチ”野菜――大勢の社員の活力を下支え

「ここの野菜はいつも、おいしい! 食べていると元気になれます」

「近くのお店ではなかなか手に入らない野菜ももらえて、料理していて楽しいです」

「水菜をサラダにして子どもに食べさせたら、とても喜んでいました」――。

オフィススペースで野菜を無料配布

 やる気スイッチグループのオフィスでは、同社が運営する「やる気スイッチファーム」から送られてきた野菜が並べられ、社員に向けて無料で配布されています。

 その品目はさまざまです。定番の季節野菜に限らず、アイスプラント、コールラビ、スティックセニョール、紅菜苔(こうさいたい)――など、一般的なスーパーではなかなか見られない珍しい野菜もひんぱんに送られてきます。

 どれも大好評で、週2回ほどの展示ブースは毎回まさに争奪戦です。段ボール数箱分におよぶ大量の野菜が、ほんの十数分であっというまになくなっていきます。

 そのためなのでしょう、野菜を受け取った社員が感想を書き込む「メッセージカード」では、冒頭のような好評の声が続々と寄せられています。毎日のように野菜を手にしていくリピーターの姿もたびたび見られます。

来客者にも自信を持って配布できる品質の野菜

 また、本社受付でも同様のブースが設けられており、こちらは来客者に向けて無料配布されています。評判は上々で、

「どんな野菜が並べられているのか、毎回楽しみにしています」

「いつも、この野菜が目当てで来ているんですよ」

 ――といった感想を寄せられることも、数多くあります。

色彩豊かな野菜が目をひきつける

 誰もが知るとおり、野菜は栄養豊富な“活力ある生活の源”です。よく配布されるミニトマトやセロリといった野菜には「リコピン」や「ミネラル」など、体調を整え、前向きな生活習慣を促す成分が豊富に含まれています。

 事実、本社社員からは「ファームをきっかけに野菜をよく食べるようになった」「体調が良くなってきた」という声も寄せられています。その意味では、やる気スイッチファームは、やる気スイッチグループに勤める大勢の社員の“やる気”を引き出し、生産性を高めるための重要な“縁の下の力持ち”となっているといっても過言ではありません。

 
 

千葉県茂原市、やる気を醸成するファーム

緑豊かな自然の中にあるファーム

 株式会社エスプールプラスが提供する、障がい者雇用支援サービスの一環である企業向け貸農園、わーくはぴねす農園。そのうち、千葉県茂原市にある茂原第2ファームの一角が、「やる気スイッチファーム」です。

 現地で野菜づくりに携わるのは、障がいを持ったスタッフ11人と、シニアスタッフ3人です。シニアスタッフが農場長として管理者をつとめ、農場長1人あたりスタッフ2~3名ずつの3チームを編成。毎日の仕事に励んでいます。

ていねいに、手際よく作物を育成する

 ファームでは毎朝10時半に仕事を開始し、夕方16時半に仕事を終えます。時期によって仕事内容は大きく変わってくるのですが、取材した日はちょうど収穫の日。緑がいっぱいに広がったビニールハウスの中で、ミニトマトやセロリ、さらにはあまり世間には流通していない珍しい大根「紅三太(べにさんた)」といった野菜を、一つひとつていねいに取り上げていきました。

「紅三太」など、ユニークな野菜もたくさん

 やる気スイッチグループ本社には本格的な冷蔵設備がないので、新鮮な野菜を本社スタッフや顧客に届けるためにはスピードが重要です。限られた人員でありながら、スタッフは迅速かつていねいに梱包を行っていきます。

どのスタッフも、まぶしい笑顔を見せる

 印象的なのは、手際よく働くスタッフの誰もが、イキイキとした表情を見せているという点にあります。険しい顔で追い立てられるように働くのではなく、かといって緊張感なくダラダラと働くわけでもなく、自分の仕事にやりがいを感じて没頭する姿は、まさに真剣そのものです。

 
 

まずは話をして、理解しあうことから始めた

 やる気スイッチファームでは、そのほとんどが農業未経験者です。加え、就労経験もほとんどないというスタッフも珍しくありません。

 そうしたスタッフが、どのようにしてやりがいを持って自分の仕事に打ち込み、多くの人を喜ばせる野菜をつくるようになったのか――。

 

 「そのカギこそが、やる気でした」

 

 スタッフのまとめ役を務める藤江さん、富谷さん、上野さんの3人の農場長は、口を揃えてそのように力説しました。

 

 「はじめのうちは手探りのことばかり。私自身、野菜づくりの経験もありませんでしたし、障がいを持った方たちと一緒に働くことも初めてでした」

 

 そのため、当初は苦労の連続だったといいます。

 

 「当ファームのスタッフは、細かい作業がどうしても苦手だったり、コミュニケーションを苦手としていたり、数字を扱うことを難しいと感じていたりと、さまざまな背景をかかえています。そのため、いくら話しかけてもまったくひと言も口を開いてくれなかったり、『できない』と、はじめからあきらめてしまったり・・・」

 
休憩中も、コミュニケーションを欠かさない

 そこで、状況を変えるために取り組んだのが「とにかくスタッフとコミュニケーションを取り、スタッフのことをもっと知ること」でした。

 

 「はじめのうちは、私たちの先入観で気を遣ってしまっていたんです。『普段本人がやらないようなことはやらせない方がいいかな』『力仕事の経験がなさそうだから、重いものを持たせるのは酷かな』――などと考えながら業務を振り分けていました。

 ただ、そうではないんですね。過去に彼ら・彼女らがやってきた仕事や身の上話などを聞いてみると、『新しいことにチャレンジしてできた経験』『力仕事をこなしてきた経験』などがあることを明かしてくれたんです。

 言ってしまえば当然なのですが、スタッフが“できること”や“やりたいこと”と、私たちの先入観は、かみ合っていない可能性の方が高い。

 そのため、まずはいったん『障がいを持っているから』などといった先入観を取り払って、いろいろなチャレンジをスタッフにうながしてみよう、と思うようになったんです」

 
 

チャレンジし、互いに助け合う

 それからは、「漢字が苦手なスタッフに、日報ではなるべく漢字を書くよううながす」「九九が苦手なスタッフに、野菜の収穫数を計算させてみる」「携帯電話の操作が苦手なスタッフには、携帯電話を使う練習を一緒にする」――など、野菜づくりという枠にとらわれず、どんどんチャレンジをうながしていったそうです。

なんでも、まずはやってみる

 「もちろん、はじめての挑戦は、誰にとっても容易なものではありません。だからこそ、スタッフのそうしたチャレンジにはそれまで以上にていねいに寄り添うことにしました。例えば携帯電話を使ってもらうときは、電源の入れ方、ボタンの押し方、指の動かし方など、個々の作業を細かくかみ砕いて伝えていくようにしました」

 

 そうするうちに、新しい発見がありました。チャレンジに取り組むスタッフの懸命な姿が伝わるのか、ほかのスタッフも積極的にサポートしてくれるようになったそうです。

 

 「人には得意、不得意があります。言い換えると、何か苦手なことがあるスタッフも、他のことならば得意分野かもしれません。例えば、漢字が得意なスタッフが、漢字を苦手とするスタッフに親身に教えてくれる。逆に、その漢字が得意なスタッフはコミュニケーションが苦手なので、他のスタッフに助けてもらう――。そんなふうに、お互いを補い合って働ける空気に変わっていってくれたんです」

互いに声をかけあい、助け合う
 
 

できるようになれば、自信がつく

 すると、漢字が苦手なスタッフは辞書を引いて漢字を書くようになり、九九が苦手なスタッフは計算機を日常的に使えるようになり、携帯電話の操作が苦手なスタッフは、通勤時に悪天候で電車が止まってしまった際に、事前に農場長に連絡をできるほどになりました。

 それは、本業である野菜づくりにも良い影響を及ぼしました。

成長の実感が、自信と自発性につながる

 「教われば、できるようになる。できるようになるのは、嬉しい。それを人に教えられれば、さらに嬉しい・・・。いろいろとできることが増えたことで、スタッフに自信と誇りが芽生えました。

 スタッフに話を聞いてみると、彼ら自身『苦手だから』『自信が無いから』という理由で、自分の可能性をせばめてしまっていたふしがあったようなんです。

 もちろん、ハンディキャップを抱えたことに対して、無理な負担をかけてできるようにさせるわけではありません。ただ、もし先入観で自分の“やりたいこと”“できること”をせばめすぎているのだとしたら、これは非常にもったいないことです。

 そうではなく、スタッフ同士で助け合いながらチャレンジすれば、自分なりに“やりたいことができる”ようになる。これに気づけたことが、彼らにとって大きな発見だったのではないかと思います。

 なぜなら、よりよい野菜をつくり、より多くの人に喜んでもらうために、自分の可能性の限界までがんばる意欲、すなわち“やる気”が身についたからです」

 
 

 3人の農場長は「先入観でチャレンジさせることを制限してしまうのは、とてもよくないと分かり、自分自身も勉強になりました」と振り返ります。「いまでは、農場長がハウスを離れているときでも、スタッフ同士で助けあいながら自主的に動いてくれるようになりました」

自信と自発性が、さらなる成長へ

 スタッフ自身もそうした成長を実感していて、

 「最初は緊張して他の人たちと話せなかったけど、今ではお互いに話ができるようになって、自信がついた」

 「みんなに頼ってもらえるから嬉しくて、もっとがんばろうと思える」

 「自分の力でできる、という実感が持てた。大人になった自覚が出てきた」

 「これからもみんなで力を合わせて野菜を作っていきたい」

 など、誰もが自信に満ちた声で語ってくれました。

 
 

“ありがとう”の声が、ますます励みに。

スクラップブックに一枚ずつていねいに貼られ、
保管されているメッセージカード

 スタッフたちのやる気をさらに高めるファクターとして、農場長は本社から寄せられるメッセージカードを挙げています。

 

 「遠く離れた東京から感謝のメッセージが届けられるというのは、私たちファームのメンバーにとっては嬉しいポイントです。ものづくりの醍醐味は、つくったものを誰かに喜んでもらい、その声を聞けること。スタッフのみなさんも『おいしいと言ってもらえると、また作りたいと思える』と話してくれています」

 

 やる気スイッチファームの収穫高は急速に増えていき、開園初年の昨年と比べて、今年の毎月の収穫量は4割増。その活躍ぶりを表すかのような、やる気に満ちた表情のスタッフが、今日も仕事に取り組んでいます。

 

【取材を終えて】
 やる気スイッチファームでは、その目的通り、農場長とスタッフが一体となってやる気を引き出し、生き生きと働く環境を作り出しています。

 その源には、相手を知り、理解するための「対話」がとても大切にされていると感じました。
 「対話」をしたことで信頼関係が築かれ、スタッフ一人ひとりが安心して過ごすことができ、新しいことにチャレンジしたり、自分の得意を発揮できるのです。

 また、それぞれの得意・不得意を尊重し、助け合いができる環境を作ることで、一人ひとりの自信を育んでいることが見て取れます。

 そして、ファームの中だけでなく、本社社員ともメッセージカードという形でコミュニケーションを取ることで、本社社員はやる気スイッチファームの野菜で元気をもらい、ファームのスタッフは感謝の言葉を受け取ることで、もっと頑張ろうというやる気に繋がるといった、やる気を引き出す輪が広がっています。

 今回取材をしていて、やる気スイッチファームには、自信を持って生き生きと社会参加できる環境をつくる、理想的な形があると感じました。今後、やる気スイッチファームスタッフの活躍は、社内だけにとどまらず広がっていくことが期待されます。

 

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